滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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奔走 4

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「えー、山登りですか」

 ダンディルグを出発してから山の麓の村に着いた途端にサーシャは、悲痛な声を上げた。

 クリスとミツヤの歩調に合わせて付いて来た彼女は、わずか数日間で思った以上に疲れが溜まっていた。そんな事すら気が付いてやれなかったクリスは、申し訳なさそうに頭を下げる。

「無理していたのに気が付かなくて、済まなかった」

「いいえ、私が疲れたと言い出さなかったのが悪いんですよ」と、強張った太ももを擦るサーシャは辛そうな表情を見せないように努める。

「そんなこと無いよ。僕とクリスさんの身体能力が高い事を忘れていました。無理をさせてしまって、ごめんなさい」

「もう、二人とも顔を上げてくださいよ。無理した私が悪いんです」

「仕方が無い。まだ早いが、今日はこの村までにしよう」

 そう話した後にクリスは、ミツヤとサーシャを残して村長の家のドアを叩いた。

「知り合いですかね?」

「うーん、分からないけど」

 ミツヤとサーシャが不思議そうに眺めていると、振り向いたクリスが手招きをする。

「えーと、紹介するよ。この村の村長でイグナスさんだ。前にお世話になったことがあってね」

「初めまして。疲れたでしょうから、さあ、今日は家で休んで行ってください」

「有り難うございます」と、ミツヤとサーシャが声を揃えた。

 家の中に案内された三人は、ささやかな夕食と温かい寝床を用意してもらった。
 
 村長とクリスとの関係が今一分からなかったミツヤとサーシャは、イグナスからクリスが亡くなった娘の亡骸と形見の品を届けてくれた事や村で暴れる冒険者達を戒めてくれた事を聞かされた。

「へー、クリスさんは人助けをしながら旅をしていたんですか」

 同じ道を旅してきたミツヤは、そんな気持ちの余裕すら無かったのを思い出し、クリスの行動に感心していた。

「たまたまだよ。困ってたら助けるのが普通だろ」

「普通じゃないと思います。人間族と魔族はお互いをあまり良く思っていないですよね」

 もちろんエルフ族もと言いたげにサーシャが口を挟んだ。

「人によるだろ。種族は違っていても、みんな一緒だよ」

「クリスさんの様な人間族が増えれば、私どもは歓迎するのですがね」と、イグナスもクリスと同じ意見の持ち主だった。

「ただのすれ違いが原因なのか、それとも・・・」

 純粋な思いを口にしたミツヤにイグナスが語り掛けた。

「指導者によるんだよ。正しく教えるか、悪意を持って教えるかで全ては違ってくるだろう」

「じゃあ、人間族の指導者は悪意を持って他種族の事を教えているのですか」

 納得できないミツヤは、話し声が大きくなる。そんな彼にこの世界の現実を教えるのも自分の役目の一つだとクリスは考えさせられる。

「それも指導者によるかな。正しく他種族の事を教える者も少なからず居るからな。ただ大半の人間族はドワーフや獣人、それにエルフ族を自分達より下に見ていて、魔族に対しては敵対心を抱いている」

「話し合えないのですかね。お互いの事が分かり合えたら解決しそうなのに」

 そんな単純な話では無いのだろうとミツヤは分かっていた。現に自分が居た世界でも宗教や肌の色が違うだけで戦争が起こっていたのだから。それでも争わずに済む方法があるのならと望んでいた。

「元々この大陸には、魔族とエルフ族しか住んでいなかったんだ」と、クリスがこの世界の歴史を話し出した。

「えっ、人間族と獣人族は何処から来たんですか?」

「人間族とドワーフ族は、西の大陸から。獣人族は、南の大陸からこの中央大陸に来たんだ」

 クリスの話す内容は、ミツヤの知る世界と同じ様な歴史を歩んでいた。

 人間族とドワーフ族が共存していた西の大陸では、領土の奪い合いが絶えなかった。それ故に土地を追い出された人間族は、共存していたドワーフ族と一緒に新天地を求めこの中央大陸へやって来たのだ。言わば魔族とエルフ族の土地に入り込んできた新参者と言う訳だ。

 南の大陸に住む狩猟種族の獣人族は、人間やドワーフ達と事情が異なる。

 獣人族は往来が容易に出来る内海を手漕ぎ船で渡り、獲物を探しに昔からこの土地を出入りしていた。そんな事を繰り返しているうちに、この土地で暮らす者が出て来て今に至る。

 ドワーフ族と獣人族は、自分達が暮らすための町は作ったが、争いになるのを避けるために国は作らなかった。あくまで中央大陸で暮らす魔族やエルフ族と共存するつもりだったのだ。

 しかし、人間族は彼等と考えが根本的に違っていた。

 西の大陸から移住して直ぐに魔族の住む土地を奪い、自分達の領土、国だと宣言したのだ。そのため奪われた土地を取り返すために人間族と魔族との戦争が引き起こされてしまった。
 
 その戦いは、百年戦争と呼ばれている。

 結局、押し問答を繰り返した末に、危険な魔の森を挟んで西を支配する人間族と東に集結した魔族とに分かれた。

「クリスさんの話す歴史から考えると、悪いのは人間族と言う事になりますね」

「そうだ、人間族の身勝手な行動が引き起こした分断だよ」

 話している内にクリスとミツヤは、人間族として恥ずかしくなり肩を落とした。

「まあまあ、全ての人間族が悪い訳じゃないのだから」と、イグナスは二人をフォローした。

「そうですよ、エルフ族と友好的な人達も多いんですから。二人が悪いんじゃ無いんですよ」

「そうだった! だから俺は、国に縛られず自由気ままにみんなと仲良く暮らしたいと考える様になったんだった」

「僕は、複雑な気持ちになりますよ。その人間族に騙されていたので」

「いっその事、悪い奴らばかりじゃないと証明する為に、みんなが仲良く暮らせる世界を作ってみるか」と、冗談半分でクリスが話した。

「良いですね。それなら、勇者としての力を使いたいと思います」と、ミツヤは目を輝かせた。

 クリスが何気なく話した言葉から、ミツヤは新しい可能性を見出した。

 支配する者が腐っているなら、排除して作り直せば良いんだ。その為の力が自分には備わっているのだから。冗談抜きで実現できるとミツヤは思った。

「確かに、クリスさんとミツヤさんが一緒なら出来るかも知れませんね」

「サーシャ、本気で言ってるのか。ミツヤまで、本気でやりたそうにしているじゃないか」

「面白そうじゃないですか。クリスさん、僕と一緒にやって見ましょうよ」

「ははは、考えておくよ」と、苦笑いをするしかなかった。

「ほう、君は人間族の勇者だったのか。それなら、頼もしいな」と、イグナスまで期待するような事を言い出す始末だ。

 やっても良いと思う気持ちはあるが、カレンやラングスを巻き込んでしまうかも知れないと、正直クリスの内心は穏やかでは無かった。
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