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奔走 5
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平穏な雰囲気は、残念ながら見せかけだった。
やはり山の中には、危険が潜んでいるものだ。
安全だと勝手に思い込み気が緩んでいたのか、クリスだけでなくミツヤもサーシャも猛獣の気配に気が付くのに遅れを取ってしまった。
サーシャのペースに合わせて歩いていた三人の目の前には、手負いのブラックベアが立ちはだかる。幾度となく冒険者とやり合って来たのだろう、殺気を放つブラックベアは今にも襲い掛かって来そうだった。
「丁度良い機会だから、ミツヤとサーシャでブラックベアを駆除してくれよ」
「えっ、僕とサーシャさんだけでですか?」
「そうだ、ミツヤは勇者の力と剣を使わず戦う事、サーシャは初級と中級魔法でミツヤの援護をしてくれ」
素手で戦えと言われ驚いたミツヤは思わずクリスの方を見たが、サーシャは冷静にクリスには何か考えがあるのだろうと察していた。
「ミツヤさん、私が支援しますから大丈夫ですよ。さあ、始めましょう」
「・・・分かりました。僕は、攻撃に集中するから援護をお願いします」
後方に退いたクリスは、両手を組み二人の戦いぶりを見物する。
旅をしながらクリスはミツヤに剣技を教えているが、彼の腕はまだまだ未熟だ。
勇者の力を使えば力任せに相手を打ちのめす事は出来るが、あまり良い戦い方とは言えない。それに、心のどこかに恐怖心があるのだろう。ミツヤは肝心な時に目をつぶる、そのせいで剣を大振りしてしまう癖があるのだ。
剣に頼らず素手ならしっかりと相手を見て戦うだろうと、クリスは考えていた。
サーシャに関しては、使う魔法が中級や上級魔法に偏りがあり、魔力を気にせず魔法を放ってしまう。いずれ長期戦になった時に、対処出来なくなる恐れがあるのが気になっていた。後は、経験を積んで彼女にはもっと自信を持って欲しいと思っていた。
クリスは二人の短所を実戦で気が付かせ、自分達で直して欲しかったのだ。
「ミツヤ、不用意に飛び込まず相手の動きを見極めろ」
後ろから聞こえるクリスの指示に従おうとするが、慣れない戦い方を強いられるミツヤは、ブラックベアの攻撃を捌くのに精一杯だ。
「ほら、サーシャは早く魔法で援護しないか」
「でも、今、攻撃魔法を放てばミツヤさんに当たってしまいますよ」
「やっぱり攻撃魔法のコントロールが苦手なんだな。自信が無いのならブラックベアの動きを鈍らせるか封じ込める魔法を使えば良い」
「あっ、・・・そうですよね」、と言ったものの支援魔法はサーシャにとって苦手な分野の魔法なのだ。しかし、上手く行くか分からないなどと悩んでいる暇はない。
「悪戯なる風の支援を彼に、【初級魔法】ウインドブロー」
ミツヤとブラックベアに向かって突風が吹き抜けたが、タイミングが悪かった。
近距離で戦うミツヤは、ブラックベアと同様に視界を遮られてしまった。
「サーシャ、それだとミツヤの視界を妨げてしまうから彼の動きが鈍ってしまうな」
「あわわわ、それじゃあ、【中級魔法】アースバインド」、あたふたしながらサーシ
ャは杖を地面に突き刺し詠唱した。
案の定、彼女の魔法にミツヤも巻き込まれてしまう。
ミツヤとブラックベアは、地面に足が沈み動きを止められてしまった。
「きゃぁぁぁ、ご、ごめんなさい」
「ははは、ミツヤの動きまで封じ込めてしまってどうするんだよ」
「サーシャさん、僕は大丈夫ですから。支援を続けてください」と、ミツヤは地面に沈み込んだ足を軽々と引き抜いた。
「風の魔法を使うのなら、ミツヤの動きをサポートしてやった方が良いんじゃないのか」
「じゃあ、優しき風の友よ、彼をサポートしたまえ【中級魔法】フォローウインド」
温かいそよ風に包まれた様に感じたミツヤの身体能力、特に素早さが上昇した。
「これは、おまけだ。素手で殴って拳を痛めたくないだろ」と、ミツヤに向けてクリスは手を伸ばし創造神の力で硬化を付与した。
体が軽くなったミツヤはブラックベアの攻撃が良く見えているのか、最小限の動きで避け始めた。集中する彼の心の中は、恐れや不安が消え去り無心に近い状態になった。
足が地面に埋まったブラックベアは、狂ったように両手を振り回していたが、そんな大ぶりな攻撃はミツヤに当たるはずも無く、虚しく空を切っていた。
目の前の敵に攻撃が当たらないのが余程気に入らないのか、両手を高々と上げたブラックベアが吠えた。
その瞬間を狙ったかのように、サーシャの放ったファイアーボールがブラックベアの胸に直撃した。タイミングも当たった箇所も全て計算していた訳では無かった、単純に彼女の運が良かっただけだった。
衝撃で後ろにのけ反るブラックベアの眉間をミツヤは右の拳で正拳突きを入れた。
鋼より堅い拳は、頭蓋骨を粉砕し致命傷を与える。
白目をむいて事切れたブラックベアは、仰向けにドスンと倒れた。
「良い感じだったよ。二人ともご苦労さん」、地面に座り見物していたクリスが手を叩いて二人を称賛する。
「無茶ぶりでしたよ。素手でクマと戦うなんて」
「そんなこと言ったって、倒せただろ。勇者なんだから武器が無くてもそれくらい出来るよ。それに、サーシャの援護もあったしな」
「私は、あまり上手く出来なかったと思います」
「気にするな。サーシャも経験を積めば、効率的に魔法が使えるようになるさ。それに練習してもらわないと、コントロールの悪い攻撃魔法を後ろから食らうのは勘弁だからな」
冗談のつもりだったが、痛い所を突かれたサーシャは、頬を膨らませてムッとした表情を見せた。
「クリスさん、倒した害獣はどうするんですか? 今晩の食料になるんですか」
「まさか、ブラックベアは食べないよ。肉は固くて不味いからな。適当に穴を掘って焼いてしまおう」
結局、山の中で遭遇した害獣はブラックベアだけだったが、ミツヤとサーシャの二人には良い訓練になったとクリスは満足だった。
やはり山の中には、危険が潜んでいるものだ。
安全だと勝手に思い込み気が緩んでいたのか、クリスだけでなくミツヤもサーシャも猛獣の気配に気が付くのに遅れを取ってしまった。
サーシャのペースに合わせて歩いていた三人の目の前には、手負いのブラックベアが立ちはだかる。幾度となく冒険者とやり合って来たのだろう、殺気を放つブラックベアは今にも襲い掛かって来そうだった。
「丁度良い機会だから、ミツヤとサーシャでブラックベアを駆除してくれよ」
「えっ、僕とサーシャさんだけでですか?」
「そうだ、ミツヤは勇者の力と剣を使わず戦う事、サーシャは初級と中級魔法でミツヤの援護をしてくれ」
素手で戦えと言われ驚いたミツヤは思わずクリスの方を見たが、サーシャは冷静にクリスには何か考えがあるのだろうと察していた。
「ミツヤさん、私が支援しますから大丈夫ですよ。さあ、始めましょう」
「・・・分かりました。僕は、攻撃に集中するから援護をお願いします」
後方に退いたクリスは、両手を組み二人の戦いぶりを見物する。
旅をしながらクリスはミツヤに剣技を教えているが、彼の腕はまだまだ未熟だ。
勇者の力を使えば力任せに相手を打ちのめす事は出来るが、あまり良い戦い方とは言えない。それに、心のどこかに恐怖心があるのだろう。ミツヤは肝心な時に目をつぶる、そのせいで剣を大振りしてしまう癖があるのだ。
剣に頼らず素手ならしっかりと相手を見て戦うだろうと、クリスは考えていた。
サーシャに関しては、使う魔法が中級や上級魔法に偏りがあり、魔力を気にせず魔法を放ってしまう。いずれ長期戦になった時に、対処出来なくなる恐れがあるのが気になっていた。後は、経験を積んで彼女にはもっと自信を持って欲しいと思っていた。
クリスは二人の短所を実戦で気が付かせ、自分達で直して欲しかったのだ。
「ミツヤ、不用意に飛び込まず相手の動きを見極めろ」
後ろから聞こえるクリスの指示に従おうとするが、慣れない戦い方を強いられるミツヤは、ブラックベアの攻撃を捌くのに精一杯だ。
「ほら、サーシャは早く魔法で援護しないか」
「でも、今、攻撃魔法を放てばミツヤさんに当たってしまいますよ」
「やっぱり攻撃魔法のコントロールが苦手なんだな。自信が無いのならブラックベアの動きを鈍らせるか封じ込める魔法を使えば良い」
「あっ、・・・そうですよね」、と言ったものの支援魔法はサーシャにとって苦手な分野の魔法なのだ。しかし、上手く行くか分からないなどと悩んでいる暇はない。
「悪戯なる風の支援を彼に、【初級魔法】ウインドブロー」
ミツヤとブラックベアに向かって突風が吹き抜けたが、タイミングが悪かった。
近距離で戦うミツヤは、ブラックベアと同様に視界を遮られてしまった。
「サーシャ、それだとミツヤの視界を妨げてしまうから彼の動きが鈍ってしまうな」
「あわわわ、それじゃあ、【中級魔法】アースバインド」、あたふたしながらサーシ
ャは杖を地面に突き刺し詠唱した。
案の定、彼女の魔法にミツヤも巻き込まれてしまう。
ミツヤとブラックベアは、地面に足が沈み動きを止められてしまった。
「きゃぁぁぁ、ご、ごめんなさい」
「ははは、ミツヤの動きまで封じ込めてしまってどうするんだよ」
「サーシャさん、僕は大丈夫ですから。支援を続けてください」と、ミツヤは地面に沈み込んだ足を軽々と引き抜いた。
「風の魔法を使うのなら、ミツヤの動きをサポートしてやった方が良いんじゃないのか」
「じゃあ、優しき風の友よ、彼をサポートしたまえ【中級魔法】フォローウインド」
温かいそよ風に包まれた様に感じたミツヤの身体能力、特に素早さが上昇した。
「これは、おまけだ。素手で殴って拳を痛めたくないだろ」と、ミツヤに向けてクリスは手を伸ばし創造神の力で硬化を付与した。
体が軽くなったミツヤはブラックベアの攻撃が良く見えているのか、最小限の動きで避け始めた。集中する彼の心の中は、恐れや不安が消え去り無心に近い状態になった。
足が地面に埋まったブラックベアは、狂ったように両手を振り回していたが、そんな大ぶりな攻撃はミツヤに当たるはずも無く、虚しく空を切っていた。
目の前の敵に攻撃が当たらないのが余程気に入らないのか、両手を高々と上げたブラックベアが吠えた。
その瞬間を狙ったかのように、サーシャの放ったファイアーボールがブラックベアの胸に直撃した。タイミングも当たった箇所も全て計算していた訳では無かった、単純に彼女の運が良かっただけだった。
衝撃で後ろにのけ反るブラックベアの眉間をミツヤは右の拳で正拳突きを入れた。
鋼より堅い拳は、頭蓋骨を粉砕し致命傷を与える。
白目をむいて事切れたブラックベアは、仰向けにドスンと倒れた。
「良い感じだったよ。二人ともご苦労さん」、地面に座り見物していたクリスが手を叩いて二人を称賛する。
「無茶ぶりでしたよ。素手でクマと戦うなんて」
「そんなこと言ったって、倒せただろ。勇者なんだから武器が無くてもそれくらい出来るよ。それに、サーシャの援護もあったしな」
「私は、あまり上手く出来なかったと思います」
「気にするな。サーシャも経験を積めば、効率的に魔法が使えるようになるさ。それに練習してもらわないと、コントロールの悪い攻撃魔法を後ろから食らうのは勘弁だからな」
冗談のつもりだったが、痛い所を突かれたサーシャは、頬を膨らませてムッとした表情を見せた。
「クリスさん、倒した害獣はどうするんですか? 今晩の食料になるんですか」
「まさか、ブラックベアは食べないよ。肉は固くて不味いからな。適当に穴を掘って焼いてしまおう」
結局、山の中で遭遇した害獣はブラックベアだけだったが、ミツヤとサーシャの二人には良い訓練になったとクリスは満足だった。
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