滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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奔走 6

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 夕焼けの光を浴びたフリスコン川が赤く染まる。

 草原を通り抜けた3人は、馬車を引く旅人が往来する橋を渡りシルナスに入った。

 アルフェリアからダンディルグへ向かった時とは違い、ラングスに貰った王家の刻印が入ったネックレスを衛兵に見せるだけで、ダンディルグ王国領内を自由に行き来できるようになった。
 
 通行書の代わりだとクリスは軽く考えていたが、面倒臭い応対から解放されすんなりと街に入れる事や衛兵の対応の良さから今になってラングスに感謝していた。

 流石は魔族の王、これから幾度となく人族と魔族の国を往来すであろうクリスの事を考え、気の利いた贈り物をしてくれたのだ。

「やっとシルナスに着いたから、久しぶりに野宿から解放されるな」

 何気なく呟いたクリスの言葉を聞いたサーシャは、温かい食事と寝床を想像したのか嬉しそうに手を合わせた瞬間にお腹が鳴った。

 思わずお腹を押さえて顔を赤らめた彼女は、恥ずかしいのかチラリと男性二人の様子を伺う。

「気にしなくて良いよ。生きてりゃ、誰でも腹は減る。今日は美味い物でも食って、ゆっくり休もう」と、クリスはサーシャの頭を撫でた。

「楽しみですね」と、サーシャに微笑みかけたミツヤは、一人になってから長い間、食事を楽しむ事すら忘れていた自分に気が付く。

 クリスとサーシャと一緒に旅をする内に程よく緊張が解けている様だ。よく笑う二人のおかげで、一緒に居るのが心地良くなっていた。

 アルフェリアから一人でクリスを追いかけダンディルグ王国へ向かう道中、ミツヤはずっと孤独だったのだ。しかも不安な気持ちを抑えていた彼に旅を楽しむ余裕など無かった。

「でも、食事の前にギルド会館に寄るぞ」

「何か用事でもあるのですか?」

「せっかくミツヤも冒険者登録したんだ。山の中で駆除したブラックベアの報奨金を貰うのさ」

「えっ、お金が貰えるんですか」

「ああ、手負いだったからな。多分、駆除依頼が出ているはずだよ。ミツヤとサーシャが受け取るべき報酬だ」

 ミツヤはおもむろに一ツ星しかないカードをポケットから取り出し見つめた。

 勇者だからと言って特別扱いはしない。それがギルドの定めたルールだから。初めて登録した冒険者は、必ずブロンズの一ツ星からスタートするのだ。

 シルナスのギルド会館は、他の街のギルド会館に比べで少し小さな石造りの建物だった。

 カウンターに立つ受付嬢は、獣人族の女性で胸元の名札にはミオと書かれていたが、ミツヤはこの世界の字は読めないので彼女の名前は分からなかった。ただ、彼女の頭の上でピンと立つ三角形の耳や容姿を珍しそうに見入っていた。

「あの、すいません。良いですか?」

「はい、ようこそシルナスのギルド会館へ。どのようなご用件でしょうか」

「此処へ来る途中、山の中で手負いのブラックベアを駆除したのですが」と、焼却する前に解体したブラックベアの毛皮や爪、牙などの素材をミツヤはカウンターに置いた。

「有り難うございます。丁度、駆除依頼をしていた所です」

「やっぱり、駆除依頼は出ていたんだな。ここに所属する者が取り逃がしたのか?」

 クリスの質問にミオは、部屋の片隅に置かれた丸テーブルを囲む冒険者達の方に視線が行った。まだ若い男ばかりの冒険者が三人で談笑している。

「ええ、あの子達なんです。取り逃がしたと言うか、駆除するほどの実力が無いのに無理にブラックベアと戦ってしまって」

「駆け出しか。早く上のレベルに上がりたくて無茶な行動をするからな。若い時ほど怖いもの知らずだから、仕方が無いか」

「そう言っても、命あっての職業ですから。今回は、運よく帰って来られましたが、また同じような事をしそうで・・・」

「まあ、怪我も無く逃げ帰れたんだから、次も同じような事をするだろうな。痛い目に遭う時が、命を落とす時じゃないように願うしかないんじゃないのか」

「そうですが・・・」、ミオは困惑した表情を見せる。

何か彼等に特別な思い込みがある様子だ。

「そんなに気になるのなら、熟練の冒険者に指導や注意をしてもらったらどうかな」

「それが、シルナスには居ないんですよ。ここは、滅多に魔獣の出ない平和な土地です。冒険者達にとっては、通過点の様な場所になります。だから、熟練の冒険者も専従者も居ないんですよ」

「それは困ったね。俺達みたいな新参者が口出しすると、ややこしくなってしまうし」

「いっその事、館長から注意してもらったらどうだろう」

 そう話したクリスの後ろで無作法な若者たちがミツヤとサーシャに絡んでいた。

 テーブルで談笑していた彼等は、カウンターに置かれたブラックベアの毛皮が気になり近づいて来たのだ。

「なあ、お前達がこいつを倒したのか」と、革製の防具を身に纏い古めかしい剣を腰にぶら下げるチャックが興味津々にミツヤに尋ねた。

「はい、僕とサーシャさんの二人で倒しました」

 生理的に受け付けないのか、怪訝な顔をしたサーシャは、近づいて来た男達から離れ隠れる様にミツヤの後ろに移動した。

「へー、凄いね。魔法使いと剣士か、それじゃあ、その立派な剣で倒したんだ」

「いいえ、サーシャさんに魔法で援護してもらい素手で倒しましたよ」と、ミツヤは馬鹿正直に答えてしまった。

「そんな訳無いだろ! ブラックベアだぞ、俺達でも倒せなかったのに。素手で倒せるはずが無いだろう。嘘を言うのも大概にしな」

 大声でミツヤの言葉を否定した男とその仲間達は、みんな獣人族だった。人間族より身体能力の高い彼等からすれば、人間族のミツヤが素手でブラックベアを倒したなど信じられ無い。

 ギルド会館でいさかいを起こされると困るので、ミオが彼等に割り込み制止する。

「大きな声で騒ぎ立てないで、チャック!」

「姉さん、でも、こいつが嘘をつくから」

「いい加減にしなさい、素手であろうが無かろうが、この人達はあなたが取り逃がしたブラックベアを駆除してくれたのよ」

 言い争いになりそうな獣人族の姉弟にクリスは、身内だから彼女が心配しているのかと理解した。

「悪いな、ミツヤは嘘を付いていないんだ」

 ミオの後ろから声を掛けたクリスに向かってチャックは、尻尾を膨らませて睨みつけた。

「うるせえよ、おっさん。あんたもこいつ等の仲間なのか」

「あーあ、口の悪い子供だな。俺は、クリス。彼等の仲間だよ」

 クリスの方に歩もうとする血の気の多い弟を後ろからミオが抱きしめ止めた。

「ごめんなさい。クリスさん、この子は私の弟でチャックです。仲間のククルとリロの三人で冒険者をしていますが、まだ、駆け出しで何も分かっていないのです」

「そうか、別に気にしていないから良いけど。君は、弟だから心配していたのか」

「はい、危険な仕事なのに。自信過剰で困っています」

「俺は駆け出しじゃない。ブロンズの二ツ星だ。もう直ぐ、三ツ星になるんだから、もう新人じゃねえよ」

 チャックの言葉に不敵な笑みを浮かべたサーシャは、ポケットから自分のカードを取り出して彼等に見せつけた。

「えっ、シルバーの二ツ星」

「ふふふ、私の様な魔法使いは、あなた達と同じランクだと思ってた? 見た目で判断したら痛い目に遭いますよ」と、サーシャは自信満々だ。

 驚いて目を丸くするチャックは、ミツヤとクリスを指さす。

「それじゃあ、あんた達は、もっと上のランクなのか・・・」

 サーシャの言葉でランクアップの事をすっかり忘れていたのを思い出したクリスは苦笑いする。

「悪いな、サーシャ。俺は、ブロンズの三ツ星のままだ」

 クリスにつられてミツヤも正直に自分のランクを話してしまった。

「僕は、登録したばかりだからブロンズの一ツ星です」

「おかしいじゃないか、どうしてこの子がシルバーで、あんた等がブロンズなんだよ」

「そうですよ。ミツヤさんは良いとして、クリスさんは余裕で魔獣を倒せるレベルなのに。どうして更新していないのですか」と、サーシャは子供を叱りつけるかの勢いでクリスを責めた。

「仕方が無いだろ、色々と忙しかったんだから。別に更新しなくても困らないし、あまりランクを上げると面倒臭い事に巻き込まれるだろ。だからブロンズが良いんだよ」

「もう、そんな事を言っても十分巻き込まれているのに」

「あんた達、そんなに強いのか・・・」

「君よりかは、強いな。それにミツヤは、人間族でも勇者だし」

「えっ、ブロンズの一ツ星が勇者」

「すいません、ダンディルグ王国で初めて冒険者登録したもので」

「じゃあ、素手で倒したって・・・本当かよ」

「そうだ、見た目やランクに惑わされていると痛い目に遭うから気を付けた方が良いぞ。君も冒険者ならいつも死と隣り合わせだと言う事を忘れるな。油断すると、痛い目に遭うだけでは済まないからな」

 勝手に弱いと見下していた自分が恥ずかしくなったのか、肩を落としたチャックは下を向いて唇を噛んだ。威勢よく動いていた尻尾も、ダラリとなえてしまっていた。

「良い勉強になったでしょ、これからは、あまり危ない事はしないで」

 種族に関係無く自分が、自分達が強いと錯覚する冒険者は多い。特に規模の小さなギルドになればなるほど、比較できる者が少ないのでそんな考えに陥ってしまうのだ。

 まあ、誰が一番強いのか男ほど比較したがるものだから仕方が無いのだが、クリスの様に無頓着なのも困ったものだ。

 のほほんとするクリスを見ていたサーシャは、無性に腹立たしくなり思わず彼の脛を蹴飛ばした。

「痛いじゃないか! 何すんだよ」

 どうして蹴られたのか見当がつかないクリスに、サーシャは膨れっ面でそっぽを向いた。自身の力を奢らない態度には感心するが、あまりにむ無頓着なのが気に入らなかった様子だった。

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