滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

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奔走 12

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 ミツヤとシルクは魔獣の元へ向かう。

 冒険者達は、クリスの言う通り魔獣から逃げるふりをしながら街へと走り出した。

 自信が無いのか小刻みに震えるサーシャの背中をクリスは叩いた。

「一発だけで良い。もし、サーシャの魔法が外れたら俺はメテオで攻撃するから」

 メテオと聞いてサーシャの震えが止まった。彼女からすれば、どれだけ被害が出るか分からない禁じ手の様な魔法を使われたく無かったのだ。

「クリスさんに魔法は使わせませんから。あんな物騒な魔法を使われたら本陣は蒸発して消えてしまいます。それに、どれだけ被害が出るのか想像できませんし。だから、私が必ず決めて見せます」

「頼もしいな。じゃあ、被害を最小限にする為に光の矢を本陣目がけて射ってくれ」

「えっ、ライトアローですか」

「そうだ。初歩的な魔法だが、通常の倍以上の魔力を込めて欲しい。そうすれば、遠く離れた本陣まで威力を保ったまま届くだろ」

「届きますけど・・・、」と、サーシャの目が右往左往する。

「動揺してるみたいだけど、どうした?」

「あのですね・・・、大変、言い難いのですが・・・」

「もしかして、ライトアローが撃てないのか? 初歩魔法だぞ」

「ち、違います。ちゃんとライトアローは使えますよ。ただ、命中しないんです」

「ははは、当たらないのか。そうか、ノーコンだったのか」

「笑い事じゃありませんよ! エルフ族として矢を射るのが下手だなんて、とっても恥ずかしい事なんですから」と、サーシャは頬を膨らませた。

「悪かった。怒るなよ、俺も君の目になるから。多少コントロールが悪くても何とかなるさ。そろそろ始めようか、ミツヤ達の事だから直ぐに魔獣を連れて来るだろうし」

 詠唱を唱えライトアローを出したサーシャは、弓を引く仕草のまま動きを止めた。

 彼女の肩に右手を添え後ろに立つクリスは、目線が同じになるよう顔を近づける。

「良いか、サーシャ。俺には本陣の最後尾で騎士達に囲まれ馬に乗る白い鎧の大将が見えている」

「ひっ、ひぁ・・・」と、耳元でクリスが話すのでこそばゆくなり変な声が漏れてしまった。

「おい、大丈夫か? ちゃんと集中しろよ」

「は、はい」と、頭の中で集中集中と気持ちを落ち着かせる。

「もう少しだけ上に上げたら右に向けてくれ」

「はい、これで良いですか」

「バッチリだ。そのまま、ミツヤ達が戻って来るまで動くなよ」

「分かりました」

 そうは言ったものの緊張状態で数分間腕を伸ばしたまま制止するのがこんなにも辛く、長く感じるのかとサーシャは思っていた。

 額から汗が滲み出て来る。早く来て、そう願いながらサーシャは目をつぶっていた。合図となる魔獣が走って来る音かミツヤ達の声が聞こえたら目を開けるつもりでいたのだ。

「よし、今だ」

 思っていたのと違うタイミングでクリスの声が聞こえたので、目を開ける前にライトアローを射ってしまった。

「し、しまった・・・」と、サーシャは慌てて目を開けた。

 矢、矢はどこと、次第に小さくなる光に気が付けないほど焦ってしまった。失敗したと思い下唇を噛みしめたサーシャの頭をポンポンとクリスは軽く叩いた。

「上出来だ、サーシャ。さあ、逃げるぞ」と、クリスはサーシャを抱き上げて走り出した。

「あ、当たったの」と、サーシャは半信半疑だ。

「ああ、本陣の大将の頭に当たったよ。ちゃんと見えていたからね」

 良かったと、サーシャが胸をなで下ろすと地鳴りが聞こえて来た。クリスに抱かれながら後ろを見ると、魔獣を引き連れたミツヤとシルクが猛スピードでグランベルノ軍の方へ走って行った。

「作戦は、成功だよ。俺達は、このままアルフェリアに行こう」

 創造神と女神に加護される者達の運は、別格なのである。そんな事など露知らず、全てが思い通りになったクリスはとても爽快たった。

 サーシャの放ったライトアローが勢いよく当たりそのまま首を吹き飛ばされ戦死したのは、グランベルノ王国の第一王子のアランだった。手柄が欲しくて自ら戦場に赴き、一番安全な後方でふんぞり返っていたのに。

 王族であっても神からすれば、無数に存在する人間族の一人でしかない。それ故、彼は人並みの運しか持っていなかった。気付かなかったとは言え、神にとって特別な存在を相手する羽目になったのは、彼にとって運の尽きだったのだ。

 次期王と称されていた王子を失い混乱する本陣に、前線が魔獣に襲われているとタイミング良く報告が入る。

 こんな状況ではまともに戦えないとクリスの思惑通りの判断をした軍司は、前線で魔獣と戦う兵士達を残し撤退するよう指示を出した。

 幾ら前線を任された兵士達でも魔獣を仕留める事は出来ない。それでも、撤退するまでの時間稼ぎぐらいにはなるだろうと考えたのだった。

 暴れ疲れた魔獣が森の中へ帰るまで、ボロボロになりながら兵士達は戦った。

 本来なら命令に従い勇敢に戦った彼等は、称賛されるのだろう。しかし、それは無事国に帰れたらの話しだ。

 戦い終えた兵士達は、体力的にも精神的にも疲れ切ってその場で倒れていた。

 そんな彼等は、アルフェリアの兵士や冒険者達に抵抗する事も出来ずあっけなく拘束されてしまったのだった。
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