ダンジョンでサービス残業をしていただけなのに~流離いのS級探索者と噂になってしまいました~

KK

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第五章

第122話 息抜きピクニック


「ん~……久しぶりの故郷だぞ、みんな」
「クゥ」
「キャンキャン!」
「キャウン!」


 秋葉原ダンジョン。

 第一階層は自然公園として、一般人にも解放されている。

 第二階層から第十階層までが上層に分類されており、そこも牧歌的な光景が続いている。

 とは言え、立派なダンジョンだ。

 モンスターが生息し、場合によっては襲われかねない環境である以上、油断は出来ない。

 ……まぁ、このパーティーを襲おうなどというモンスターがいるはずないのだが。


「念の為、殺気を飛ばして露払いしてはいるが……全くモンスターの気配が感じられないな」
「クゥ」


 換装状態の俺と三匹のフェンリル。

 昼食を兼ねたピクニックへとやって来た俺達は、高原のような風景の中で腰を下ろす。

 ここは、秋葉原ダンジョンの第四階層。

 フェンリル達には蘭が置いて行ったモンスターフードを与え、俺はここに来るまでに買っておいたサンドイッチを食べる。

 ……本当に長閑だ。


「………じ~」
「………」
「………じ~」
「………」
「……じ~、じ~、じ~」
「………」


 いつの間にか、俺の真横に一人の女性がいた。

 赤い目に浅黒い肌、ボンテージ風の露出が多い衣装、背中には黒い翼。

 そんな人型のモンスターが、俺の手元のサンドイッチを凝視している。


「ばくっ!」
「やらんぞ」


 サンドイッチに食らいつこうとしてきたので、俺は一瞬早くひょいと手を持ち上げて躱す。


「ンヌワッ!? なんじゃなんじゃ! 妾が食べたそうな目で見ていたのがわからんかっったのか!? それは妾のじゃ! よこせ!」
「またお前か、サキュバス」


 モンスター――サキュバスは、子供のように駄々をこねる。

 サキュバス。

 かつて、この秋葉原ダンジョンの中層に生息し、他の種族のモンスター達を【魅了】の力で従え最強の軍団を作りだそうとしていた亜人タイプのモンスター。

 探索系配信者になったばかりの俺が、トーミケの二人とコラボ配信していた最中に遭遇し戦闘――結果、【峰打ち】でレベル1の状態に戻す形で退治した。

 その後、どさくさに紛れ上層まで生き延び、今はこの辺りを中心に活動しているようだ。


「これは俺の昼食だ。というか、お前も一応モンスターだろ? 人間の食い物は――」
「掛かったな、バカめ!」


 俺が顔を向けた瞬間、サキュバスが意気揚々と目を輝かせた。

 赤い目から、赤い光が放たれる。

 サキュバスの【魅了】だ。

 かつて、この【魅了】の力により多くのモンスターがこいつの支配下となった。


「くっくっく! どうじゃ! あれから再び成長を遂げた妾の【魅了】の力は! これで貴様も妾のとりこ――」
「オレンジ、ヒスイ、あまり遠くに行っちゃダメだぞ~」
「キャンキャン!」
「キャウン!」
「ぜんっぜん効いとらん!?」


 そりゃそうだろ。

 サキュバスは、俺の【峰打ち】で一度、レベルを1の状態に戻されているのだ。

 あれから少し時間は経っているが、かつての力を取り戻すには、まだまだ早過ぎる。


「何故じゃ!? この上層での過酷な生存競争を生き抜き、確実に経験値を積んでレベルアップしているはずなのに!?」
「お前、ここで一匹でも他のモンスターを倒したか?」
「倒したぞ! めっちゃちっさスライムとか何匹か! 強敵じゃった……」


《ミニスライム》のことだろうか。

 遠くを見詰め黄昏れているサキュバスには悪いが、ミニスライムなんて何百匹倒しても大した経験値にならない羽虫に近い扱いのモンスターである。

 というかコイツ、前は第十階層にいたのに、ちゃっかり上の階層に逃げてきてるじゃないか。


「どうやら、お前がかつてのような脅威に成長するまでには途方も無い時間が掛かりそうだな。逆に安心したよ」
「ぐぬぅ……むちゃくちゃ舐めとるな貴様ァ……こうなれば」


 そこで、サキュバスはちょこんと俺の真隣に腰を落とす。


「うっふ~ん、なぁなぁ、カゲロウ~」


 そして俺の体に身を寄せて、何やら甘い声を発し出した。


「どうじゃ? 妾と一緒に外の世界で暮らさんか? お主、人間社会でモンスターと共に生活できるだけの地位を持っておるのじゃろ? 妾を外に出してくれたら、お主の愛人になってやってもよいぞぉ? ほれほれ、あんな事やこんな事だってしてやるぞぉ? 綺麗でえっちなお姉さんサキュバスとあはんうふんし放題――」
「クゥ」


 瞬間、途轍もない圧力がその場に降り注いだ。

 突如、重力が五倍になったのではないかという重圧。

 マリンが立ち上がり、その水色の双眸から刃のような視線をサキュバスに向ける。

 彼女の殺気が正体だったようだ。


「ぴえっ」


 サキュバスは震え上がり、一瞬で涙目になった。


「マリン、すまない、抑えて抑えて」
「クゥ」
「サキュバス、何度も言うが俺はお前を上に連れ出すつもりはない。お前は色々と危険思想の持ち主だし……まぁ、今は大した脅威じゃないが……何より、俺の家で保護したら、確実にマリン達とイザコザが起こりそうだしな」


 俺の言葉に、サキュバスは「ぐぬぬ……」と歯噛みする。

 が、依然降り注ぐマリンの殺意の籠もった視線を前に、その場からすぐさま飛ぶように離れた。


「い、言われんでもわかっておるわ! 貴様等こそ覚悟しておけよ! いつか妾が外の世界に侵攻し人間界を支配した暁には、一生シモベとして扱き使ってやるからな! 後で泣いても許さんぞ!」
「それ前にも聞いた気がする」


 バーカ! バーカ! と、いつもの捨て台詞を吐いてサキュバスは逃げて行った。

 俺は、一人嘆息を漏らす。

 フェンリル達のストレス解消にと訪れたピクニック。

 実は、一応――今日は、サキュバスの様子を見る目的もあってここに来たのだが、どうやら問題は無さそうだ。


「後でタイマにも報告を上げておくか」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ふぅ……さて」


 ピクニックから帰って来たところで、オレンジとヒスイはお昼寝タイムに突入した。

 俺は、自室のパソコンを起動させ、メールボックスやSNSアカウントのメッセージボックスを確認する。


「……うお」


 そこには、以前にも増して大量の通知が届いていた。

 息抜きの時間は、一旦ここまで。

 俺もそろそろ、個人事業主として働き始めるとしよう。


「ダンジョン探索系配信者・影狼、少しは新しい仕事に着手しないとな」
感想 119

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みんなの感想(119件)

Kaz
2025.12.15 Kaz

結局クソ課長にはハッキリお前の態度が耐えられなかったと言わず会社を去ったか。

先輩後輩の情があったにせよ会社なのだからパワハラ、サービス残業強要など間違っていることははっきり言わないと残される者が迷惑する。事実退社の際親の権力を振り翳して脅迫する小物ぶりを発揮。はっきり言って先輩への甘えというレベルを超えた害悪。

再度登場するかはわからないが再登場の際はきっちり成敗されることを期待。

解除
立ち読み愛好家
2025.12.02 立ち読み愛好家

やったー続巻!

解除
Kuni-maru
2025.08.06 Kuni-maru

第96話 魔法陣の猛攻
誤字報告 250806
一人切りなら、ただダンジョンの最奥に → 一人きり

2025.08.06 KK

ありがとうございます。
訂正させていただきました。

解除

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