鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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『貴方とおでかけ』

 あれからまた更に1か月が過ぎ、俺がここに来てもうすぐ4か月が経とうとしていた。
(あと8か月くらいで告白イベントか。)
 最近の俺は、重要なイベント②『貴方とおでかけ』が起こるのを今か今かと待っている。
(そろそろだと思うんだけどなぁ。)
 秋らしい天気がすっかり冬に代わる頃――とメモには書いてある。
 この数ヶ月で、だんだんこのゲームについての記憶が曖昧になってきた俺は、イベントに関しては、すべて自作の攻略ノートと走り書きのメモ頼りである。
(最初にこのノートを作った自分を褒めたい。)
 そして、ノートを見返して気付いたことがある。
 攻略者の1人であるシークレットはラルクではないか……ということだ。ラルクはこの城に来てからずっと俺達親子と仲良くしてくれる。そして、見た目の良さもゲームのキャラとしてピッタリだ。
 スパダリの黒騎士アックス、優しげな第二王子エヴァン、冷徹なメガネ側近ウォル、あとはワンコ系騎士のラルク。騎士被りは否めないが完璧なキャラ設定だ。
 しかしそんなラルクは、どうやら父に気があるようだ……。俺も鈍いわけじゃない。ラルクの恋心を知ったのはつい最近だが、気付いてからは、彼が父を見る視線に熱が籠っていると感じた。
(まぁ、実を言うとラルクが寝てる父さんのおでこにちゅーしたのを見ちゃったからなんだけど……。)
 先週、毎週のように泊まりに来るラルクが父とリビングで酒を飲んでいた。俺は部屋で今後の作戦を立てていたが、シーンと静まったリビングに「2人とも寝たのか?」と確認しに向かった。
 扉をゆっくり開けると、父は酔っているのか机に頬をつけて眠っており、そんな父のおでこにかかった髪を軽く払ったラルクは、そこに優しく口づけたのだ。
 俺は正直かなりびっくりしたが、思い返してみるとラルクはいつも父に優しく紳士だった。
 少しだけ開いた扉をまたゆっくりと閉めた俺は、ベッドに転がって呟いた。
「ラルクさんって、父さんのこと好きだったのか……。」
(というわけで、俺はシークレットの存在に怯える必要が無くなった!)
 オーラのあるイケメンと会うたびに「まさか、この人だろうか……」とドキドキしていた生活から解放され、俺は今、絶好調と言ってよい。
(あとはイベント②が早く起こらないと動くに動けないんだよな……。)
 俺はいつ始まるか分からない次のイベントのことを考えながら、布団に入った。

 朝の執務室。
 いつも通りお茶を淹れ、仕事について尋ねたところシバに「出掛けるぞ」と声を掛けられた。
「今日は、街に行く。」
「……はい。」
 俺はシバのこの台詞に、これがイベントの始まりだとすぐに分かった。
(き、来た!イベント②!!)
「身構えなくて良い。文書を渡しに行くだけだ。」
 俺がピタッと固まったのを見て、緊張していると思ったのだろう。しかし、俺はイベントが無事始まったという嬉しさをごまかす為に身体に力を入れただけだ。
 しかし、シバの言葉に少し違和感を覚え、俺はそれを解消するために尋ねる。
「はい。……あの、アインラス様もご一緒されるんですか?」
「そうだ。」
(一緒に来ちゃうの?!)
 俺は少し焦った。
 今回のイベントの流れは――まずシバが主人公に伯爵家へ文書を持っていくようおつかいを頼む。記憶が曖昧で道に自信のない主人公は、文官棟に用事があって来ていたアックスに「道案内しようか?」と言われて一緒に向かうことになるのだ。
 その後、おそらくこの部屋に文官長が入って来るのだが、彼は「伯爵は話が長いので、君は午後休みにしなさい。」と提案してくれるのだ。
 主人公とアックスは、このイベントで初めて1日中一緒に過ごす。
(ちょ……、この雰囲気じゃ、シバも付いて来そうなんだけど。)
 上司に向かって付いて来るという表現は失礼だが、俺はこのイベントに全てを掛けているため言葉を選んでいる余裕はない。失敗するわけにはいかないのだ。
 この1か月、シバのせいで達成できなかった小さいイベントは数知れず……俺は「気にしない気にしない……」と、無理やり自分を落ち着けていたが、今回はそうはいかない。
「さて、行くか。」
 シバが出掛けるために書類を鞄に入れた時、執務室の扉が開かれた。 
(アックスか?!)
 俺は期待のこもった目で扉を振り向くと、そこには初老の男が立っていた。
「ダライン様。」
 シバが男の名前を呼び、俺はゲームで見た文官長の登場に、驚いて頭を下げた。
(本当だったらアックスが来て、文官長様が来てって順番だから、ちょっと焦った。)
「おかえりなさいませ。」
 シバが頭を下げるのに、俺も真似をして再び頭を下げる。
 文官長マクゼン・ダラインは、俺を見て「新人かい?」とシバに聞く。
「はい。彼自身は文官ではありませんが、計算が得意で頭もよく回りますので、手伝いをお願いしております。」
「そうか。文官長のマクゼン・ダラインだ。」
「セラ・マニエラです。」
 俺の言葉に、ダラインは「これから頼むぞ。」と笑った。
(凄くオーラのある人だな。渋くて笑顔もかっこいい。)
「お帰りのところ申し訳ありませんが、今からマニエラと出掛けて来ます。」
「何?それは困ったな。私が居ない半年間の仕事に関して報告を聞かねばならん。」
「それは……。」
 ゲーム同様、文官長は半年間、隣国の視察に行っていた。
 ダライン文官長が「すまないが、別の者を付けてくれるか。」と言ったところで、扉が再び叩かれた。
「失礼します。……ダライン様?」
「おお~、アックス!元気だったか?」
(来た!アックス!!!)
 俺はやっと現れたアックスに、パァっと顔が明るくなる。
「久しぶりですね!今日お帰りで?」
「そうなんだよ。帰ってすぐに仕事に行けと言われて……はぁ、年寄りを何だと思ってるんだ。」
「ダイラン様にしかできないことが沢山あるからですよ。」
「はっはっは、君は俺をやる気にさせるのが上手いな!」
 2人は仲が良いのか、ずいぶん盛り上がっている。
 そして、今度飲みにでも……と約束したところで、アックスが本題に入る。
「今日は予算のことで、書類を見て頂きたく参りました。」
 急ぎでは無いので、また後日取りに来ると言い、アックスがシバにそれを手渡す。
「出掛けるのか?」
「ああ。」
 アックスの問いかけに、シバが答えると、横からダラインが入ってきた。
「アックスは今日は街には出んのか?うちの新人が伯爵家に文書を渡しに行くんだが、シバは私に付き合わねばならんもんで……。」
「ダライン様。他の者を呼びます。」
 ダラインが突然アックスに申し出たが、シバがそれに言葉をかぶせた。
「今から見回りに行くので、良かったら護衛としてお送りしましょう。」
「それは助かる。」

 「いや、結構……、」と挟むシバを抜きに話はどんどん進み、俺はゲームの通り、アックスと2人で街に行くことになった。
「マニエラと言ったか。伯爵はアックスの顔見知りだから、緊張せず行っておいで。」
「はい。」
「彼は話が長いから、午後は休みを取りなさい。私が許可する。」
「ありがとうございます。」
 俺は文官長の優しい言葉に頷いた。
 シバはずっと黙っている。ダラインは「よし、ではシバは私の部屋へ来い。」と言い、さっさとシバを引き連れてこの部屋から出て行った。
「マニエラ。」
 扉が閉まる時、シバの寂し気な声が聞こえた気がした。

「じゃあ、行くか?早めに終わらせた方がいいだろ。」
「ありがとうございます。」
 俺とアックスは顔を見合わせると、文書を手に執務室から出た。
「少し事務室に寄っていいか?」
「はい、もちろん。」
 騎士棟の前を通る時にそう言われ、俺は「どうぞ」と了承する。すぐに戻ると走って行ったアックスは、言葉通り5分も経たないうちに戻ってきた。
「大丈夫でした?やっぱりお忙しいんじゃ……」
「いや、その」
 アックスが照れくさそうに頭をかいている。
「休みを取ったんだ。今日はセラも午後休みだって聞いたから。」
「え……そうなんですか?」
(そっか、ゲームでもアックスは休みを申請してたのか。じゃないと俺と1日一緒に遊ぶって無理だもんな。)
 俺は「ありがとうございます。」と礼を言い、アックスは何かしたいことはあるかと尋ねてきた。
 それに、うーんと悩みながら、ゲームで主人公とアックスが行った、市場が立ち並ぶ通りの名前を告げた。アックスは「俺も久々に行ってみたい。」と前のめりでホッと安心した。

「アックスのおかげで助かりました。」
「何度か会った事があるからな。セラの役に立てて良かった。」
 伯爵家に無事送り届けてくれたアックスは、伯爵にシバが来れない理由を説明をしてくれた。そのまま中で話を……という流れになり、俺達は1時間近く拘束された。
「おしゃべり好きな方でしたね。」
「ああ、人は良いんだがな。」
 俺はふふっと笑って、アックスもそれに微笑んだ。
 そろそろお昼なので、どこかで食べようということになった俺達は、アックスの馴染みの店に行くことになった。そこは街の中心地から少し離れた場所にあるにも関わらず賑わっている。
「お、今日は可愛い子連れてるな。」
「本当だな。いつものムサい奴らはどうした。」
 店に入ると、アックスが客の男達に絡まれる。どうやら騎士ではないようだが、顔馴染みのようだ。アックスも「今日は絡むなよ。」と親し気に言う。
「他の者は仕事だ。」
「お前だけデートかよ。」
「悪いか?」
アックスがにやりと返すと、俺の肩を抱いた。
(冗談で言ってるんだよね?)
 まだ好感度がそこまで上がってるわけじゃないし、この言葉を鵜呑みにするのは良くない。俺はとりあえず、この場の空気を考えて、「へへ。」と笑ってアックスに合わせた。

「さっきはあいつらが悪かったな。昼間から飲んでたみたいで。」
「いえ、気にしないで下さい。」
 俺達は案内された奥の席に着き、店員からメニューを受け取る。
「昼間は静かなんだが、今日はやけに客が多いな。」
 アックスが周りを見ながら呟くと、店員が理由を説明した。
「今日はこの近くに雑技団が来てるんですよ。午後3時に始まるらしくて、今日はどの店も満員ですよ。」
「ああ、そうだったな。」
 アックスは思い出したように頷き、俺は「会場に絶対行かなければ!」と拳を握った。
 今日はここで食事を取り、その後店員の話を聞いたアックスがチケットを取ってくれるので、一緒にそれを観る。それからは街の市場で父へのお土産を買い、夕日を見ながら歩いて帰る。
 アックスは知る由もないが、今日のスケジュールは既に決まっているのだ。そして俺達の会話も。
 俺は、アックスが店員と話し終わるまで、今日の流れをもう一度頭の中で復唱していた。
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