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俺達、バカップル?
「本当にこれでいいのか?」
「はい。美味しそうだったので。」
俺が注文したのは、ステーキセット。1枚肉にマッシュポテトとライスのみ。まさに男飯といった料理だ。アックスはハンバーグと揚げ物とご飯は大盛……今日も胸やけしそうな量だ。
俺はそんなに大量に食べることはできないけれど、胃袋は至って健康な男子だ。
ゲームでも同じ台詞を言われたが、彼女は細身の女の子であり、自分とは全く違う。同じ会話であることは、返事に迷わないので大変有難いが、俺はなぜ男の自分をそんなに心配するのか分からなかった。
(背が小さいから……?いや、俺はあっちの世界じゃ、いたって平均だ!)
この世界では、周りを見渡せば体格の良い男ばかり。俺は、大きすぎるこの世界の人々のせいだ……と思うことにした。
「本当に全部食べたな。」
俺とアックスは出てきた料理をぺろりと平らげ、今は食後のお茶を飲んでいる。
「これくらいは余裕ですよ。でも、もし予想より大きかったらアックスに食べてもらおうと思ってました。」
「はは、そうだったのか。」
俺は的確に会話を進めながら、今日の雑技団について話す。
「後で、会場の近くに寄ってみたいです。」
「俺も気になっていたんだ。セラさえ良ければ一緒に観るか?」
「え?いいんですか?!」
「その顔は行きたそうだな。」
「決まりだ」と微笑みかけられ、俺はサクサクと思い通りに進んでいく展開に、「やった!」と心の中で声をあげた。
「わ~、賑わってますね。」
「本当だな。平日なのに人があんなにいるぞ。」
食事を終えた俺とアックスが会場に向かうと、屋台が立ち並び盛り上がっていた。
あの後、帰りにまた「デート楽しんでな!」と絡んできた男2人にアックスが「お前らは飲みすぎるなよ!」と注意していた。
(また、デートを否定しなかった。いや、あえて否定するのも面倒だよね……。)
人の集まるテントを見ていると、どうやら俺の思い出のフルーツジュースのお店が出店しているようだ。
「あれです。父と出掛けた時に飲んで、すごく美味しかったんですよ。」
「買おうか。」
アックスが店の方へ向かうが、俺は慌てて引き留める。
「私が払います!さっきも知らない間にお会計されてて……びっくりしました。」
「気にするな。俺はそんなに貧乏に見えるか?これくらいなんてことはない。」
「いえ、奢ってもらってばかりじゃ、今度から遊ぶのに気兼ねします。」
「……。」
アックスは俺の言葉に少し目を開くと、ふっと笑った。
「また一緒に出掛けてくれるのか?」
「え、はい。俺はそのつもりでしたが……すみません。」
俺はゲームに無い台詞を言ってしまった自分に気付き、少し気恥ずかしくなる。そんな俺に「そうだな。」と言ったアックスは、サンプルのジュースの1つを指差して言う。
「ここはセラにごちそうになろう。俺はこれだ。」
「はい!」
俺はアックスご所望のメロンを注文し、自分は初の試みであるイチゴとオレンジを頼んだ。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
俺達はそれを持ってチケット売り場に並ぶ。アックスはメロンジュースに口を付け、「お、美味いな。」と明るい表情で言う。それに安心しながら、俺も自分のものを飲んでみる。さわやかで2種類の果物の味が均等にする。
「美味しいか?」
「はい。飲んでみますか?」
俺は無意識でストローをアックスの口元に持って行く。アックスはそれに躊躇なく口を付け、「俺はこっちの方が好きかもしれない。」と感想を述べた。
「こっちも試してみるか?」
「んっ……、」
アックスが俺の口に自分のジュースを近づけ、俺の唇に軽くストローが当たる。俺は角度を微調整し、それを一口飲んだ。
「美味しい……。私はこちらの方が好みです。交換しませんか?」
「いいのか?では、」
そう言ってお互いのものを交換すると、アックスが笑って俺の頭を撫でてきた。
そこでやっと、周りの視線が俺達に集まっていることに気付いた。
(わっ、もしかして俺達、アミューズメントパークで並んでる時にイチャついてるカップルみたいな図になってないか?!)
今更ながら、人目を気にせずラブラブな感じを出していたのではないか、と恥ずかしく思った。俺が慌てている中、アックスが「俺たちの番だぞ。」と、チケット売り場の空いている窓口を指差した。
俺は複雑な気持ちでチケット売り場を後にした。
チケットは買えたし、席も前の方だ。しかも少し安くなった。全てうまくいったが、その理由が少し恥ずかしい。
店員は俺達をカップルだと思い、「カップル割はいかがですか?」と聞いてきた。そして普通なら1人ずつ座るのだが、カップル割を使った客は前列の方へ案内されるらしい。その代わり2人掛けの席で、少し狭いのだと言う。
アックスは俺に気を遣って「いや、」と通常の席を買おうとしたが、俺は「その席がいいです。」と押した。
結局カップルシートを利用することになり、ピンク色のチケットを2枚受け取った。
(少しでも好感度上げとかないとな……。)
ゲームには無かった演出にどうするか迷ったが、こうするのが1番だと直感を信じた。
俺がうーんと頭を悩ませていると、アックスが嬉しそうに話しかけてきた。
「俺達が2人でいると、得することが多いな。」
「たしかにそうですね。」
「席へ行こうか。」
「はい。」
パン屋の件といい、今日のことといい、すぐにカップルだと決めつける店員は問題だが、そのおかげで俺はアックスとのハッピーエンドにまたひとつ近づく。
先程の件は忘れることにし、「行きましょう。」とアックスの少し前を歩いた。
俺達はチケットの販売員の言う通り、前の席へ案内された。そして周りにはカップルばかり。俺は気まずくなってずっと下を向いていたが、アックスはこの状況を楽しんでいるようだ。狭いからと俺の背もたれに手を回している姿は、どっからどう見てもかっこいい理想の彼氏だ。
(周りがカップルばっかりで助かった。)
周りは自分達の世界に入っている恋人同士ばかりで、俺達のことは気にしていない。そのことには安心するが、目の前の席のカップルがさっきからキスばかりしているのには、耐えれそうにない。
(早く始まってくれ~!)
俺が目を背けているのに気づいてか、横からくつくつと笑い声が聞こえる。
俺は「いつ始まりますか?」と小さな声でアックスに聞いた。
雑技団によるショーは終わり、俺はソファー席から立ちあがる。今にも落ちそうな小さい台に乗っていた男がロープを渡って、向かいの台へ行く姿は見ているだけでヒヤヒヤし、思わずアックスの腕を掴んで見入ってしまった。
「凄い見応えありましたね!」
「ああ、久しぶりに見たが驚いた。」
「見たことあるんですか?」
「小さい頃にな。だが、今の方が技術が上がっている。」
アックスが子どもの頃に見た時は、あんなに飛んだり跳ねたりしていなかったらしい。
(さて、次は市場に行かないとな。)
ショーの間もゲーム通りに会話を進めることができ、俺は今回のお出掛けに大満足だった。続きも抜かりなく進行していきたい。
「何か飲み物でも買ってこよう。」
「あ、俺も行きます。」
「いや、そこだから大丈夫だ。待っていてくれ。」
そう言って俺を会場外にあるベンチに座らせると、見える範囲にある露店を指差す。背を向けて店へ歩いていく背中を見ながら、俺はなぜか急に今朝のことを思い浮かべた。
(シバの顔、なんだか寂しそうだったな。)
俺は無表情な上司のことをぼんやりと考える。もしも今日、文官長が帰ってこなかったら、俺はシバとここに来ていたのだろうか。
ゲーム通りに進んでいることは有難いし、シバと一緒に来たかったというわけでは無いのだが、なぜか彼の表情と最後に名前を呼ばれた時の声が頭に残っている。
俺はシバと街に来て遊んでいる姿を想像した。
昼間に行ったお店の大きなステーキも、彼は上品に食べるのだろうか。さっきのショーを見たら、さすがのぶっちょう面も少しは変化するのだろうか。
俺は驚いて目を丸くしているシバの顔を考え、プッと噴き出した。
「どうした?何か面白いことでもあったか?」
「……アックス。あの、思い出し笑いです。」
「今日のことか?」
「いえ……仕事のことで。」
(シバは上司だし、彼のことを思い浮かべて笑ったのだから、『仕事』だろう。)
「よほど楽しい職場なんだな。」
アックスは微笑んで俺に飲み物を手渡す。
「ありがとうございます。」
「熱いけどいいか?」
夕暮れまではまだだが、少し肌寒い。俺はアックスの細かい気遣いにも感謝しながら、「いただきます。」と飲み物に口をつけた。
市場が立ち並ぶ活気ある通りを歩いていく。
俺がお土産を選んでいると、アックスが「やけに多いな。」と俺の袋を覗いてきた。
「父とラルクさんへ夕食を作ろうと思って。変わった材料を買ってみたんです。」
「セラは料理ができるのか?」
「はい。父も得意ですよ。」
「そうか、ラルクが惚れるはずだな。」
その言葉に俺が「えっ!」と声を出すと、アックスがしまったという顔をした。
「てっきり知っているものかと……忘れてくれ。」
「いえ、知ってはいるんですが……アックスまでご存じなことに驚いただけです。」
(まぁ、俺は偶然知ったんだけどね。)
アックスはそれならと、なぜラルクの想いを知っているのかを話した。
「シシル殿が騎士棟で人気なのは知っているだろ?」
「はい。そちらでお世話になることも聞きましたし、食堂でも父はよく声を掛けられます。」
父は、いろんな部署の研修を終え、騎士達のいる騎士棟で働くことになった。
最初は雑務であったが、今では武器の管理をしている部署に配属になり、手入れをしたり貸し出しの為にいろんな騎士と関わるうちに、皆が父を認識し始めたのだ。
そしてあの人懐っこい笑顔である。無骨な現役騎士達には新鮮な柔らかい口調と笑顔に皆が癒されているとラルクから聞いた時は、たしかに……と納得した。
そして、それを俺に伝えるラルクの顔が死にそうだったのを覚えている。
「シシル殿に話しかける者が多くなって、飲み会でも彼の話が挙がった時に、酔っぱらったラルクが皆の前で『シシルさんには手を出すな!』と言ってしまったんだ。それからは他の者に根掘り葉掘り聞かれて……。」
「あー……。」
「酔っている人間は何でも答えるからな。」
アックスは少し気の毒そうに眉を寄せている。
「では、騎士の皆さんは全員知っているんですか?」
「全員ではないが……ほぼ、そうだな。」
アックスの言葉を聞いて、ラルクが騎士棟で公認の『シシル好き』になっていることを初めて知った。
「シシル殿にはまだバレていないようだがな。」
「あー、父さんは少し鈍いので。」
「……セラもな。」
アックスがボソッと言った言葉に俺が口を膨らませる。
「俺は結構そういうのに敏感な方です。」
(こっちはリアル乙女ゲームをしてるんだぞ!)
舐めてもらっては困ると、俺は目の前のアックスをジロッと見た。それに対して「……そうは思えないが、」と続けて何かを言いかけたが、俺の圧力にこれ以上は何も言えなくなったようだった。
空がオレンジがかかってきて、俺が「そろそろ帰ります。」と言うと、アックスが帰り道を指差した。
「そうだな。今日は夕日が大きそうだし、見ながら歩いて帰ろうか。」
「はい!」
俺は今日の完璧なイベント達成に心が躍った。
このイベントは夕日の中、2人で城へと歩いていく場面で終了となっていた。会話選択はもう無いし、あとはリラックスして帰るだけだと俺は笑顔で答えた。
「俺は一応事務室に寄るが、セラはどうする?」
「私も、今日の報告の為に文官棟に行こうと思います。」
「では、ここで別れようか。」
アックスが「今日は楽しかった。」と言って微笑む。俺も「ありがとうございました。」と告げ、手を振って別れた。
(か、か、か、完璧じゃん!!)
俺は、最近の失敗続きのイベントを思い、ガッツポーズをした。
小さなものは、天然(?)なシバのせいでことごとくクリアできておらず、今日も出だしが危ぶまれた。しかし、結果すべての会話選択をこなし、俺はこの城に帰ってきた。
(……感無量。)
俺はジーンと感動しながら、文官棟へと軽い足取りで向かった。
「はい。美味しそうだったので。」
俺が注文したのは、ステーキセット。1枚肉にマッシュポテトとライスのみ。まさに男飯といった料理だ。アックスはハンバーグと揚げ物とご飯は大盛……今日も胸やけしそうな量だ。
俺はそんなに大量に食べることはできないけれど、胃袋は至って健康な男子だ。
ゲームでも同じ台詞を言われたが、彼女は細身の女の子であり、自分とは全く違う。同じ会話であることは、返事に迷わないので大変有難いが、俺はなぜ男の自分をそんなに心配するのか分からなかった。
(背が小さいから……?いや、俺はあっちの世界じゃ、いたって平均だ!)
この世界では、周りを見渡せば体格の良い男ばかり。俺は、大きすぎるこの世界の人々のせいだ……と思うことにした。
「本当に全部食べたな。」
俺とアックスは出てきた料理をぺろりと平らげ、今は食後のお茶を飲んでいる。
「これくらいは余裕ですよ。でも、もし予想より大きかったらアックスに食べてもらおうと思ってました。」
「はは、そうだったのか。」
俺は的確に会話を進めながら、今日の雑技団について話す。
「後で、会場の近くに寄ってみたいです。」
「俺も気になっていたんだ。セラさえ良ければ一緒に観るか?」
「え?いいんですか?!」
「その顔は行きたそうだな。」
「決まりだ」と微笑みかけられ、俺はサクサクと思い通りに進んでいく展開に、「やった!」と心の中で声をあげた。
「わ~、賑わってますね。」
「本当だな。平日なのに人があんなにいるぞ。」
食事を終えた俺とアックスが会場に向かうと、屋台が立ち並び盛り上がっていた。
あの後、帰りにまた「デート楽しんでな!」と絡んできた男2人にアックスが「お前らは飲みすぎるなよ!」と注意していた。
(また、デートを否定しなかった。いや、あえて否定するのも面倒だよね……。)
人の集まるテントを見ていると、どうやら俺の思い出のフルーツジュースのお店が出店しているようだ。
「あれです。父と出掛けた時に飲んで、すごく美味しかったんですよ。」
「買おうか。」
アックスが店の方へ向かうが、俺は慌てて引き留める。
「私が払います!さっきも知らない間にお会計されてて……びっくりしました。」
「気にするな。俺はそんなに貧乏に見えるか?これくらいなんてことはない。」
「いえ、奢ってもらってばかりじゃ、今度から遊ぶのに気兼ねします。」
「……。」
アックスは俺の言葉に少し目を開くと、ふっと笑った。
「また一緒に出掛けてくれるのか?」
「え、はい。俺はそのつもりでしたが……すみません。」
俺はゲームに無い台詞を言ってしまった自分に気付き、少し気恥ずかしくなる。そんな俺に「そうだな。」と言ったアックスは、サンプルのジュースの1つを指差して言う。
「ここはセラにごちそうになろう。俺はこれだ。」
「はい!」
俺はアックスご所望のメロンを注文し、自分は初の試みであるイチゴとオレンジを頼んだ。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
俺達はそれを持ってチケット売り場に並ぶ。アックスはメロンジュースに口を付け、「お、美味いな。」と明るい表情で言う。それに安心しながら、俺も自分のものを飲んでみる。さわやかで2種類の果物の味が均等にする。
「美味しいか?」
「はい。飲んでみますか?」
俺は無意識でストローをアックスの口元に持って行く。アックスはそれに躊躇なく口を付け、「俺はこっちの方が好きかもしれない。」と感想を述べた。
「こっちも試してみるか?」
「んっ……、」
アックスが俺の口に自分のジュースを近づけ、俺の唇に軽くストローが当たる。俺は角度を微調整し、それを一口飲んだ。
「美味しい……。私はこちらの方が好みです。交換しませんか?」
「いいのか?では、」
そう言ってお互いのものを交換すると、アックスが笑って俺の頭を撫でてきた。
そこでやっと、周りの視線が俺達に集まっていることに気付いた。
(わっ、もしかして俺達、アミューズメントパークで並んでる時にイチャついてるカップルみたいな図になってないか?!)
今更ながら、人目を気にせずラブラブな感じを出していたのではないか、と恥ずかしく思った。俺が慌てている中、アックスが「俺たちの番だぞ。」と、チケット売り場の空いている窓口を指差した。
俺は複雑な気持ちでチケット売り場を後にした。
チケットは買えたし、席も前の方だ。しかも少し安くなった。全てうまくいったが、その理由が少し恥ずかしい。
店員は俺達をカップルだと思い、「カップル割はいかがですか?」と聞いてきた。そして普通なら1人ずつ座るのだが、カップル割を使った客は前列の方へ案内されるらしい。その代わり2人掛けの席で、少し狭いのだと言う。
アックスは俺に気を遣って「いや、」と通常の席を買おうとしたが、俺は「その席がいいです。」と押した。
結局カップルシートを利用することになり、ピンク色のチケットを2枚受け取った。
(少しでも好感度上げとかないとな……。)
ゲームには無かった演出にどうするか迷ったが、こうするのが1番だと直感を信じた。
俺がうーんと頭を悩ませていると、アックスが嬉しそうに話しかけてきた。
「俺達が2人でいると、得することが多いな。」
「たしかにそうですね。」
「席へ行こうか。」
「はい。」
パン屋の件といい、今日のことといい、すぐにカップルだと決めつける店員は問題だが、そのおかげで俺はアックスとのハッピーエンドにまたひとつ近づく。
先程の件は忘れることにし、「行きましょう。」とアックスの少し前を歩いた。
俺達はチケットの販売員の言う通り、前の席へ案内された。そして周りにはカップルばかり。俺は気まずくなってずっと下を向いていたが、アックスはこの状況を楽しんでいるようだ。狭いからと俺の背もたれに手を回している姿は、どっからどう見てもかっこいい理想の彼氏だ。
(周りがカップルばっかりで助かった。)
周りは自分達の世界に入っている恋人同士ばかりで、俺達のことは気にしていない。そのことには安心するが、目の前の席のカップルがさっきからキスばかりしているのには、耐えれそうにない。
(早く始まってくれ~!)
俺が目を背けているのに気づいてか、横からくつくつと笑い声が聞こえる。
俺は「いつ始まりますか?」と小さな声でアックスに聞いた。
雑技団によるショーは終わり、俺はソファー席から立ちあがる。今にも落ちそうな小さい台に乗っていた男がロープを渡って、向かいの台へ行く姿は見ているだけでヒヤヒヤし、思わずアックスの腕を掴んで見入ってしまった。
「凄い見応えありましたね!」
「ああ、久しぶりに見たが驚いた。」
「見たことあるんですか?」
「小さい頃にな。だが、今の方が技術が上がっている。」
アックスが子どもの頃に見た時は、あんなに飛んだり跳ねたりしていなかったらしい。
(さて、次は市場に行かないとな。)
ショーの間もゲーム通りに会話を進めることができ、俺は今回のお出掛けに大満足だった。続きも抜かりなく進行していきたい。
「何か飲み物でも買ってこよう。」
「あ、俺も行きます。」
「いや、そこだから大丈夫だ。待っていてくれ。」
そう言って俺を会場外にあるベンチに座らせると、見える範囲にある露店を指差す。背を向けて店へ歩いていく背中を見ながら、俺はなぜか急に今朝のことを思い浮かべた。
(シバの顔、なんだか寂しそうだったな。)
俺は無表情な上司のことをぼんやりと考える。もしも今日、文官長が帰ってこなかったら、俺はシバとここに来ていたのだろうか。
ゲーム通りに進んでいることは有難いし、シバと一緒に来たかったというわけでは無いのだが、なぜか彼の表情と最後に名前を呼ばれた時の声が頭に残っている。
俺はシバと街に来て遊んでいる姿を想像した。
昼間に行ったお店の大きなステーキも、彼は上品に食べるのだろうか。さっきのショーを見たら、さすがのぶっちょう面も少しは変化するのだろうか。
俺は驚いて目を丸くしているシバの顔を考え、プッと噴き出した。
「どうした?何か面白いことでもあったか?」
「……アックス。あの、思い出し笑いです。」
「今日のことか?」
「いえ……仕事のことで。」
(シバは上司だし、彼のことを思い浮かべて笑ったのだから、『仕事』だろう。)
「よほど楽しい職場なんだな。」
アックスは微笑んで俺に飲み物を手渡す。
「ありがとうございます。」
「熱いけどいいか?」
夕暮れまではまだだが、少し肌寒い。俺はアックスの細かい気遣いにも感謝しながら、「いただきます。」と飲み物に口をつけた。
市場が立ち並ぶ活気ある通りを歩いていく。
俺がお土産を選んでいると、アックスが「やけに多いな。」と俺の袋を覗いてきた。
「父とラルクさんへ夕食を作ろうと思って。変わった材料を買ってみたんです。」
「セラは料理ができるのか?」
「はい。父も得意ですよ。」
「そうか、ラルクが惚れるはずだな。」
その言葉に俺が「えっ!」と声を出すと、アックスがしまったという顔をした。
「てっきり知っているものかと……忘れてくれ。」
「いえ、知ってはいるんですが……アックスまでご存じなことに驚いただけです。」
(まぁ、俺は偶然知ったんだけどね。)
アックスはそれならと、なぜラルクの想いを知っているのかを話した。
「シシル殿が騎士棟で人気なのは知っているだろ?」
「はい。そちらでお世話になることも聞きましたし、食堂でも父はよく声を掛けられます。」
父は、いろんな部署の研修を終え、騎士達のいる騎士棟で働くことになった。
最初は雑務であったが、今では武器の管理をしている部署に配属になり、手入れをしたり貸し出しの為にいろんな騎士と関わるうちに、皆が父を認識し始めたのだ。
そしてあの人懐っこい笑顔である。無骨な現役騎士達には新鮮な柔らかい口調と笑顔に皆が癒されているとラルクから聞いた時は、たしかに……と納得した。
そして、それを俺に伝えるラルクの顔が死にそうだったのを覚えている。
「シシル殿に話しかける者が多くなって、飲み会でも彼の話が挙がった時に、酔っぱらったラルクが皆の前で『シシルさんには手を出すな!』と言ってしまったんだ。それからは他の者に根掘り葉掘り聞かれて……。」
「あー……。」
「酔っている人間は何でも答えるからな。」
アックスは少し気の毒そうに眉を寄せている。
「では、騎士の皆さんは全員知っているんですか?」
「全員ではないが……ほぼ、そうだな。」
アックスの言葉を聞いて、ラルクが騎士棟で公認の『シシル好き』になっていることを初めて知った。
「シシル殿にはまだバレていないようだがな。」
「あー、父さんは少し鈍いので。」
「……セラもな。」
アックスがボソッと言った言葉に俺が口を膨らませる。
「俺は結構そういうのに敏感な方です。」
(こっちはリアル乙女ゲームをしてるんだぞ!)
舐めてもらっては困ると、俺は目の前のアックスをジロッと見た。それに対して「……そうは思えないが、」と続けて何かを言いかけたが、俺の圧力にこれ以上は何も言えなくなったようだった。
空がオレンジがかかってきて、俺が「そろそろ帰ります。」と言うと、アックスが帰り道を指差した。
「そうだな。今日は夕日が大きそうだし、見ながら歩いて帰ろうか。」
「はい!」
俺は今日の完璧なイベント達成に心が躍った。
このイベントは夕日の中、2人で城へと歩いていく場面で終了となっていた。会話選択はもう無いし、あとはリラックスして帰るだけだと俺は笑顔で答えた。
「俺は一応事務室に寄るが、セラはどうする?」
「私も、今日の報告の為に文官棟に行こうと思います。」
「では、ここで別れようか。」
アックスが「今日は楽しかった。」と言って微笑む。俺も「ありがとうございました。」と告げ、手を振って別れた。
(か、か、か、完璧じゃん!!)
俺は、最近の失敗続きのイベントを思い、ガッツポーズをした。
小さなものは、天然(?)なシバのせいでことごとくクリアできておらず、今日も出だしが危ぶまれた。しかし、結果すべての会話選択をこなし、俺はこの城に帰ってきた。
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