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第二王子からのお願い
昼間は暖かく比較的過ごしやすかったのが、最近では1日中寒い日が多くなってきた。
俺は文官棟を出て、外気の寒さに思わず唸る。
「うー……。」
仕事は、大きな案件が増え急に忙しくなり、俺とシバは前回のお泊まりから、会えない日々が続いていた。
(シバ、最近はずっとダライン様と行動してるみたいだ。)
執務室にはしばらく来なくていいとお達しがあり、少しだけ寂しく思った。
「セラ、どうしたの?」
「寒いなって思って。」
「セラ薄着すぎよ。制服の上は何着ても自由なんだから上着羽織ったら?」
シュリはもこもこしたダウンのような服に包まれて暖かそうだ。
「外に出るって聞いてなかったんだ。」
「そうなの?あ……そっか、最近アインラス様から仕事を振られてないんだっけ。」
「うん。アインラス様の采配がどれだけ素晴らしかったか、やっと気付いたよ。」
最近の俺は、別の文官から仕事を貰っている。
シバから言われた仕事をする時は、内容も明確でイレギュラーなことはめったに起きない。そして時間以内に必ず終わっていた。それが、担当が変わってからは、突然仕事の内容が変更したり、こうやって外に出ることも事前に知らされなかったりと、結構大変だ。
(シバって本当に凄い上司だったんだなぁ。)
彼のいない数日間で、俺は自分の上司の凄さを改めて知ることとなった。
「そうだよ。今更気付いたの?」
「うん。今までが普通じゃなかったんだね。」
俺とシュリは歩いて城の入り口へ向かっていた。この敷地は城のあるエリアと、文官棟・騎士棟のあるエリア、宿舎棟の3つが完全に分かれている。
敷地内に住んではいるものの、宿舎と文官棟と食堂を往復する日々を送っている俺は、馬車に轢かれ街からここへやって来た日以来、城内に足を踏み入れていなかった。めったに入ることのない城の内装を見ながら、俺達は目的の部屋へ向かう。
「相変わらず豪華……文官棟とは大違い。」
はぁ……と呆れた声を出すシュリに場所を尋ねる。
俺達の今回の仕事は、客室の改装費の見積もりだ。何でも、急に訪問することが決まった隣国の王子のために宿泊する部屋を用意するのだとか。
(元々ある部屋で良くない?)
庶民である俺には分からないが、訪問の度に部屋を作り替えられてはたまらない。しかし、シュリの情報によると、『今回の訪問で同盟を組むかどうか決める』と言われているようだ。
(そりゃ気合も入るか……。)
「ここみたいよ。」
シュリに連れられ、俺達は扉を開けた。
「失礼いたします。文官長マクゼン・ダラインより遣わされましたシュリ・ティアモとセラ・マニエラです。」
シュリが挨拶をし、俺がペコッと礼をして顔を上げると、そこにはまさかの姿があった。
(ナンパ王子と、それに眼鏡側近もいる……ッ!)
俺は久しぶりに攻略キャラである第二王子エヴァンと王の側近ウォルを見た。
彼らは俺に気付くと、こちらに近づいてくる。
「やぁ、久しぶりだね。城には慣れた?」
「はい。」
エヴァンがにこやかに話し掛けてくる。
(ゲームにあるイベントなのか定かじゃないけど、返事を間違えないようにしないと……。)
ウォルが不思議そうにエヴァンに尋ねる。
「お知り合いでしたか?」
「ああ、彼とはいろいろあって……ね?」
(意味ありげに言うなよ!偶然2回会っただけだろ!)
エヴァンがウォルに答え、最後に俺を見ながら「ね?」とウインクしてくる。横ではシュリが驚いた様子でこちらを見ていた。
(なんだかややこしいことになってきた……。)
俺は頭を抱えながらも、曖昧に笑ってごまかした。
「では、あとは見積もりをお出しして報告いたします。」
「頼んだ。」
シュリはテキパキと仕事をこなし、俺は言われたことをメモしていく。
やっとすべてが終わり、安心して「失礼いたします。」と挨拶をした時、エヴァンが俺を呼び止めた。
「君、ちょっといいかな?」
「はい。」
嫌な予感がする。変なこと言わないでくれよ……と祈ったが、その願いは叶わなかった。
「王子の訪問の時、僕の側にいてくれない?」
「……え。」
俺は固まった。
「セラ、セラってば。」
「……。」
シュリが俺を揺さぶる。
空は晴れ渡っており、空気が清々しい。しかし俺の心はどんよりと曇っていた。その理由は、間違いなく攻略対象者エヴァンだ。
日が差して暖かくなってきた文官棟の庭のベンチに座り、俺はシュリに「どうするの?」と心配されていた。
「どうって……断れるわけないよ。」
「セラ、殿下と知り合いだったの?」
「うん、偶然2回会ったことがあって。」
「それだけ?」
シュリは目を丸くしており、どうやら予想していた回答ではなかったみたいだ。俺は溜息をつく。
(ただでさえアックスにあまり会えてないのに、こんな変なことまでやってられるか!)
シバ以外の文官が振る仕事は時間以内には終わらず、俺は最近馬小屋に行けていなかった。
そして今日聞いた話によると、隣国の王子訪問の前日から、俺は第二王子エヴァンと行動を共にしなければならない。
(隣国の王子はここで一泊するんだよね……?つまり3日間エヴァンと一緒……。)
それを考えると頭が痛くなり、俺はがっくりと項垂れた。
「セラ!早かったね。」
夕方、部屋に帰るとちょうど食堂に向かう準備をしていた父。ラルクと食べる予定だというので、それに混ぜてもらうことにした。
「ラルクさん、これ食べました?美味しいですよ。」
「そんなのありました?取りに行ってみます。」
「私のを一口食べて決めたらどうですか?ほら、あーん。」
「あ、……はい。」
ラルクがおずおずと口を開ける。
父は、チーズにハムが巻いてあるおかずをフォークで刺してラルクの口に入れた。
「あ、本当ですね。美味しい。」
「でしょ!これ明日もあるといいなぁ。」
父はにこにこと笑っている。
(なんだこれは……。)
俺は2人の距離に違和感を感じる。
ここ最近……いや、街に花火を見に行った日から、何だか父とラルクの距離が近い気がするのだ。
(あ、父さんがラルクさんの口元を拭いた。)
目の前ではバカップルのようにいちゃつく2人の姿。俺はどうなっているのか不思議に思った。
ラルクはさりげないどころか、ばっちりボディータッチをしているし、父はそれに嫌がる素振りもない。そしてお互いを見つめあっている時間も長い気がする。
(え、いよいよ結ばれた……?)
俺は、父がデザートを取りに行った隙を見計らってラルクに真相を聞くことにした。
「あの、父と何か進展があったんですか?」
「セラさん!言おうと思ってたんですよ。この前、花火を2人で見に行ったでしょう?」
「はい……。」
「その時に手を繋いでみたんです。人混みだったからはぐれないようにって。」
「ラルクさん、やりますね。」
「それから、ちょっといい感じになって……その、まだ付き合ってはいないんですが……」
俺は、付き合ってないんかい!と思いながら、続きを待った。
「好きだと言ってしまいました。」
「え!言ったんですか?!」
「ちょッ……しぃ~、声が大きいですよ。」
「あ、すみません。付き合ってないって言ってたからビックリしちゃって。」
俺は自分の手で口を覆う。
「『私も好きですよ』って言われて、俺すっげー嬉しくて……でも恋愛的な意味じゃなかったみたいです。」
「そ、そうなんですか?」
「『セラと兄弟みたいで可愛いです。』って言われちゃって……多分、俺が息子みたいな目線で好きって言ったと思ってるみたいです。」
「それは……なんというか、」
(父さんらしい勘違いだ。)
「でも!」とラルクは元気に言う。
「おかげで距離が縮まったんです。頭を撫でてくれたりとか、さっきも見ました?あーんって……幸せです。」
(あー、完全に俺と同じ扱いだ。)
俺は、聞けば聞くほど俺に接する時の父と同じであると分かり、ラルクを少し気の毒に思った。
「いつか、男として意識してもらえるように頑張ります!」
「応援してます。」
拳を向けてくるラルクに、俺も拳をコツンとぶつけてエールを送った。
俺は文官棟を出て、外気の寒さに思わず唸る。
「うー……。」
仕事は、大きな案件が増え急に忙しくなり、俺とシバは前回のお泊まりから、会えない日々が続いていた。
(シバ、最近はずっとダライン様と行動してるみたいだ。)
執務室にはしばらく来なくていいとお達しがあり、少しだけ寂しく思った。
「セラ、どうしたの?」
「寒いなって思って。」
「セラ薄着すぎよ。制服の上は何着ても自由なんだから上着羽織ったら?」
シュリはもこもこしたダウンのような服に包まれて暖かそうだ。
「外に出るって聞いてなかったんだ。」
「そうなの?あ……そっか、最近アインラス様から仕事を振られてないんだっけ。」
「うん。アインラス様の采配がどれだけ素晴らしかったか、やっと気付いたよ。」
最近の俺は、別の文官から仕事を貰っている。
シバから言われた仕事をする時は、内容も明確でイレギュラーなことはめったに起きない。そして時間以内に必ず終わっていた。それが、担当が変わってからは、突然仕事の内容が変更したり、こうやって外に出ることも事前に知らされなかったりと、結構大変だ。
(シバって本当に凄い上司だったんだなぁ。)
彼のいない数日間で、俺は自分の上司の凄さを改めて知ることとなった。
「そうだよ。今更気付いたの?」
「うん。今までが普通じゃなかったんだね。」
俺とシュリは歩いて城の入り口へ向かっていた。この敷地は城のあるエリアと、文官棟・騎士棟のあるエリア、宿舎棟の3つが完全に分かれている。
敷地内に住んではいるものの、宿舎と文官棟と食堂を往復する日々を送っている俺は、馬車に轢かれ街からここへやって来た日以来、城内に足を踏み入れていなかった。めったに入ることのない城の内装を見ながら、俺達は目的の部屋へ向かう。
「相変わらず豪華……文官棟とは大違い。」
はぁ……と呆れた声を出すシュリに場所を尋ねる。
俺達の今回の仕事は、客室の改装費の見積もりだ。何でも、急に訪問することが決まった隣国の王子のために宿泊する部屋を用意するのだとか。
(元々ある部屋で良くない?)
庶民である俺には分からないが、訪問の度に部屋を作り替えられてはたまらない。しかし、シュリの情報によると、『今回の訪問で同盟を組むかどうか決める』と言われているようだ。
(そりゃ気合も入るか……。)
「ここみたいよ。」
シュリに連れられ、俺達は扉を開けた。
「失礼いたします。文官長マクゼン・ダラインより遣わされましたシュリ・ティアモとセラ・マニエラです。」
シュリが挨拶をし、俺がペコッと礼をして顔を上げると、そこにはまさかの姿があった。
(ナンパ王子と、それに眼鏡側近もいる……ッ!)
俺は久しぶりに攻略キャラである第二王子エヴァンと王の側近ウォルを見た。
彼らは俺に気付くと、こちらに近づいてくる。
「やぁ、久しぶりだね。城には慣れた?」
「はい。」
エヴァンがにこやかに話し掛けてくる。
(ゲームにあるイベントなのか定かじゃないけど、返事を間違えないようにしないと……。)
ウォルが不思議そうにエヴァンに尋ねる。
「お知り合いでしたか?」
「ああ、彼とはいろいろあって……ね?」
(意味ありげに言うなよ!偶然2回会っただけだろ!)
エヴァンがウォルに答え、最後に俺を見ながら「ね?」とウインクしてくる。横ではシュリが驚いた様子でこちらを見ていた。
(なんだかややこしいことになってきた……。)
俺は頭を抱えながらも、曖昧に笑ってごまかした。
「では、あとは見積もりをお出しして報告いたします。」
「頼んだ。」
シュリはテキパキと仕事をこなし、俺は言われたことをメモしていく。
やっとすべてが終わり、安心して「失礼いたします。」と挨拶をした時、エヴァンが俺を呼び止めた。
「君、ちょっといいかな?」
「はい。」
嫌な予感がする。変なこと言わないでくれよ……と祈ったが、その願いは叶わなかった。
「王子の訪問の時、僕の側にいてくれない?」
「……え。」
俺は固まった。
「セラ、セラってば。」
「……。」
シュリが俺を揺さぶる。
空は晴れ渡っており、空気が清々しい。しかし俺の心はどんよりと曇っていた。その理由は、間違いなく攻略対象者エヴァンだ。
日が差して暖かくなってきた文官棟の庭のベンチに座り、俺はシュリに「どうするの?」と心配されていた。
「どうって……断れるわけないよ。」
「セラ、殿下と知り合いだったの?」
「うん、偶然2回会ったことがあって。」
「それだけ?」
シュリは目を丸くしており、どうやら予想していた回答ではなかったみたいだ。俺は溜息をつく。
(ただでさえアックスにあまり会えてないのに、こんな変なことまでやってられるか!)
シバ以外の文官が振る仕事は時間以内には終わらず、俺は最近馬小屋に行けていなかった。
そして今日聞いた話によると、隣国の王子訪問の前日から、俺は第二王子エヴァンと行動を共にしなければならない。
(隣国の王子はここで一泊するんだよね……?つまり3日間エヴァンと一緒……。)
それを考えると頭が痛くなり、俺はがっくりと項垂れた。
「セラ!早かったね。」
夕方、部屋に帰るとちょうど食堂に向かう準備をしていた父。ラルクと食べる予定だというので、それに混ぜてもらうことにした。
「ラルクさん、これ食べました?美味しいですよ。」
「そんなのありました?取りに行ってみます。」
「私のを一口食べて決めたらどうですか?ほら、あーん。」
「あ、……はい。」
ラルクがおずおずと口を開ける。
父は、チーズにハムが巻いてあるおかずをフォークで刺してラルクの口に入れた。
「あ、本当ですね。美味しい。」
「でしょ!これ明日もあるといいなぁ。」
父はにこにこと笑っている。
(なんだこれは……。)
俺は2人の距離に違和感を感じる。
ここ最近……いや、街に花火を見に行った日から、何だか父とラルクの距離が近い気がするのだ。
(あ、父さんがラルクさんの口元を拭いた。)
目の前ではバカップルのようにいちゃつく2人の姿。俺はどうなっているのか不思議に思った。
ラルクはさりげないどころか、ばっちりボディータッチをしているし、父はそれに嫌がる素振りもない。そしてお互いを見つめあっている時間も長い気がする。
(え、いよいよ結ばれた……?)
俺は、父がデザートを取りに行った隙を見計らってラルクに真相を聞くことにした。
「あの、父と何か進展があったんですか?」
「セラさん!言おうと思ってたんですよ。この前、花火を2人で見に行ったでしょう?」
「はい……。」
「その時に手を繋いでみたんです。人混みだったからはぐれないようにって。」
「ラルクさん、やりますね。」
「それから、ちょっといい感じになって……その、まだ付き合ってはいないんですが……」
俺は、付き合ってないんかい!と思いながら、続きを待った。
「好きだと言ってしまいました。」
「え!言ったんですか?!」
「ちょッ……しぃ~、声が大きいですよ。」
「あ、すみません。付き合ってないって言ってたからビックリしちゃって。」
俺は自分の手で口を覆う。
「『私も好きですよ』って言われて、俺すっげー嬉しくて……でも恋愛的な意味じゃなかったみたいです。」
「そ、そうなんですか?」
「『セラと兄弟みたいで可愛いです。』って言われちゃって……多分、俺が息子みたいな目線で好きって言ったと思ってるみたいです。」
「それは……なんというか、」
(父さんらしい勘違いだ。)
「でも!」とラルクは元気に言う。
「おかげで距離が縮まったんです。頭を撫でてくれたりとか、さっきも見ました?あーんって……幸せです。」
(あー、完全に俺と同じ扱いだ。)
俺は、聞けば聞くほど俺に接する時の父と同じであると分かり、ラルクを少し気の毒に思った。
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