鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

文字の大きさ
75 / 115

舞い上がったり落ち込んだり

 街から城に帰った俺とアックスは、早速騎士棟に行き肉まんを同僚達に渡した。そして執務室で話しながらそれを食べ、仕事終わりに部屋にやってくる騎士達に差し入れだと渡した。
 全てを渡し終えた頃には外が暗くなっていたため、俺はそのまま彼らと食事をして帰ってきたのだ。
「はぁ~、楽しかった……。」
 歩いて宿舎近くまで戻って来た俺は、つい今日の感想を漏らす。しかし部屋に近づくにつれ、考えなければいけないことがあったのだと思い出した。
(そうだ……今日のイベントの事、確認しようと思ってたんだ。)
 部屋に帰ってリビングに入る。父は今頃、元仕事仲間と騒いでいる頃だろう。明るい父がいない部屋はシーンとしていて少し寂しい。
 暖房を付けそのまま自室へ入り、椅子に座ると一目散に攻略ノートを開いた。
 今日、初めてアックスがゲーム通りの行動をしなかった。自分が何か会話の選択肢を間違えたのかと思ったが、ノートを確認する限りそれはない。
 ゲームでは、特に主人公が何かを言ったから隣に座ったわけではなく、自然とアックスが座ってきたようだ。
 そのままパラパラとノートをめくる。
(特別何かする必要があったわけじゃないんだ……。だったら、)
「俺がダンスの時、寸止めできなかったからかなぁ?」
 思い当たる部分はそこしかない。街での会話は全て完璧だったし、踊りも、別の曲を踊ってしまったがおおむね流れは良かったように思う。ーーとなると、やはりあのキス?が原因かもしれない。
(どうしよう。このままだと本当に告白してくれるのか怪しい。)
 最後のハグも、ドキドキしていたというよりは俺の奇怪な行動に笑い、冗談で抱き返してきたようだった。
(ゲームでは、どんな感じだったっけ。)
 俺はノートに事細かに書いてあるメモ隅々に目を通す。それと同時に、ゲームの記憶を思い出そうと頭をひねった。
「馬車のシーンはぼんやり覚えてる。たしか、1枚絵もあって……。」
 はっきりとは思い出せないが、目元を少し赤くしたアックスがこちらをじっと見ている絵であったように思う。
(うーん、やっぱり俺の時とは雰囲気が違うような……。)
 考えながら、意味もなくノートをめくっていると、電話が鳴った。
「あ、シバだ!」
 俺はドタドタと走って電話を取りに行く。
「はい!セラ・マニエラです!」
 つい張り切った声を出してしまった。これではまたシバに揶揄われてしまう……。顔をしかめつつ相手の声を待っていたが、聞こえてきたのは聞き慣れた人物のものだった。
「セラさん?ああ、帰ってたんですか。良かった~。」
「ラルクさん?どうしたんですか?」
「いや、今日騎士棟に来てたでしょ。知り合いからセラさん達が外にご飯食べに行ったって聞いたんですが、ちゃんと帰ってきたのか心配で。」
「あの、俺もうすぐ20歳ですよ。ちゃんと帰れます。その、心配してくれたことは嬉しいですけど……。」 
「そうなんですけどね。今日はシシルさんもいないし、一応連絡しとこうと思って。」
 兄のような立場から、若干父2号になりつつあるラルクは、声の感じからして本当に俺のことを心配していたようだ。
「ラルクさんって、やっぱりいい人ですね。」
「え、なんですか急に!」
「急じゃないです。いつも父とラルクさんのいいところ話してますよ。」
「え!シシルさん、俺のこと何か言ってるんですか?!例えばどんな……?」
「職場体験の時にラルクさんが剣を振るのを見て、かっこいいって言ってましたよ。」
「ええ!そうなんですか!? そういうの、もっと……あります?」
 俺が中途半端に情報を与えたせいで、期待させてしまったようだ。「小さなことでもいいんで!」とぐいぐい聞いてくる。
「えっと……、」
 俺の言葉をワクワクと待っているラルクをがっかりさせないようにと、俺は最近の父との会話を思い出すことに集中した。

「セラさん、おやすみなさい。」
「ラルクさんも。また明日の夜待ってます。」
 明日の夜は泊まりに来るというラルクに挨拶をし、ガチャンと電話を切る。あれからずいぶんと話してしまい、気付けば夜の11時だ。
「ふぁ……。」
あくびも出てきたところで、もう寝るかと洗面所に向かい鏡を見た時、思い出した。
「あ! シバの電話!」
 ラルクとの長電話で、シバと話す貴重なチャンスを逃してしまった。
(癒しの時間が……。)
 がっくりとうなだれながら、マイナスな気持ちが膨らむ前にさっさと寝ようと洗面台にある歯ブラシに手を伸ばした。



「セラ、元気ないね。」
「え、そんなことないけど。」
 アックスとダンスを踊ったあのイベントから1週間が過ぎた。
 俺はシュリと2人で作業室で昼ごはんを食べている。週末は何も考えないように無心で料理をしたが、ずいぶんと作り過ぎてしまったため、朝シュリの分もとお弁当を作って渡したのだ。食べたいと騒ぎそうな他の先輩達の分も用意して渡したところ、予想以上に喜んでいた。
「落ち込んでる理由は分かってるけどね!」
「え、な、なんだよ。」
 シュリがふふんと笑っている。
(シュリに分かるわけないよ。だって、俺の悩みは……、)
 考えるとまた溜息をつきそうになる。
 俺が沈んでいる原因は、シバからの電話が無くなってしまったということだ。あの日、ラルクと長々話したことでシバと会話をすることはできなかった。そして次の日、絶対に出るぞという気持ちでリビングでスタンバイしていたのだが、シバはいつもの時間になっても電話をしてこなかった。
 それから毎日ソワソワと待っていたものの、電話は1度も鳴ることはなく、だんだんと待っているのが悲しくなってきた。
(俺があの時出なかったからかな……。でも、だからってこんなに連絡しないことってある?)
 シバは俺と話して楽しいのだといつも言ってくれる。その言葉に嘘はなかったように思うが、何か理由があるのだろうか。
(それか、単純に忙しいとか?)
 そう考えて、最初は苦労しているであろうシバを心配していたのだが、眼鏡先輩にシバから仕事の事で連絡があったと聞き、俺は漫画であれば『ガーン!』と背景に音がつきそうなくらい落ち込んだ。
「なんでもないよ。」
そう言っておかずを箸でつまんだ俺に、目の前のシュリは衝撃の一言を放った。
「アインラス様のことでしょ?」
 俺は持っていた唐揚げをポロッと落とす。それは弁当を包んでいた布にコロッと落ちた。
「あ、良かったね、床じゃなくて。無事だよ!」
 明るく言うシュリの顔を無意識にじっと見る。
「セラ、アインラス様から連絡が来ないことで悩んでるんでしょ。」
「え、ど、どうして!」
 俺の今一番の悩みを言い当てる彼女に、俺の目が見開く。
「だって、セラ最初も連絡無かった時元気なかったし、さっき先輩が電話あったって言った時、ショックな顔してたから。」
(か、顔に出てたのか!)
「でも、気にしなくていいと思う。アインラス様はセラのことちゃんと、」
「あの!ち、違うから!」
 シュリは驚く俺を置いてどんどん話を進めようとしてくる。これ以上勝手な想像をしてもらっては困ると、俺は強く否定した。
「違うって?」
「だ、だから、アインラス様のことじゃないっていうか……第一、落ち込んでない!」
「え~、絶対そうでしょ。私そういうの分かるんだから!」
 得意げに言うシュリの言葉は全て正解なのだが、「うん!俺、シバに片思い中♡だから電話が来なくて寂しいんだ……。」など言えるはずがない。
「えっと、そもそもなんだけど……俺は他の人よりちょっと仲良くさせてもらってるだけで、別に、その……、」
 焦る俺に、シュリはにやにやしながら顔を近づける。
「まぁ、認めなくてもいいけど……いいこと教えてあげよっか。」
「…………なに。」
 話の流れからシバに関することだろう。俺は小さい声でシュリの言葉を待った。
「あのね……アインラス様、あっちの国の人達にセラのこと『恋人』だって言ってるみたい。」
「は???!!!」
 俺は叫んで立ち上がる。ガタッと揺れた椅子が後ろに倒れ大きな音が出るが、気にせずシュリに詳細を聞いた。
「どういうこと?なんでシュリがそんなこと知ってるの?」
「先輩から聞いたの。仕事の事で連絡があったって言ってたでしょ。それで先輩が詳しく聞いたら、『ここ1週間、仕事終わりに食事やパーティに誘われる事が多くなって大変だ。』って言われてたらしいの。だから、単純に時間が無くてセラに連絡しないんだと思うよ。」
「だから、俺は別にそんなの気にしてないから。」
(夜、パーティに出て……そうだったんだ。)
 ごまかす俺を「はいはい。」とあしらったシュリは、そのまま『恋人』とはどういう意味かを教えてくれた。
「アインラス様ってかっこいいじゃない?本人はおっしゃってないけど、そういうお誘いが多いんだと思う……。でも、恋人がいるって伝えてるから大丈夫なんだって。」
「それが……俺?」
「うん!名前も出したらしいよ。」
「それ、本当……?」
(それって、まさかシバは俺のこと……。)
 結局は結ばれることのない運命だが、想い人であるシバに恋愛感情で好かれているかもしれないというのは、正直言って凄く……かなり……いや、凄く嬉しい。
(って、何喜んでんだよ!俺はアックスと恋人同士にならなきゃいけないのに!)
 シバは、恋人であると公表してしまうくらいに俺のことが好きなのか……?そう思うと胸がジワッと熱くなり、シュリの顔がまともに見れない。
「えっと、そうなんだ?」
 照れた顔や声はどうしようもなく、シュリに上ずった声でそう返した。
「先輩は『女避けにセラを使った』って笑ってたけどね。」
(…………あ、そういう事か。)
 一瞬舞い上がった気持ちがスンと冷めていく。
(俺の名前を使ったってだけか……。)
「うん。……先輩の言ってることが真実だと思う。俺相手ならそう言ってもいいって思ったんだよ。」
「え!それはないでしょ。アインラス様は真面目な方だし。」
「真面目ならそもそも嘘つかないでしょ。俺は恋人じゃないんだし。」
「……えっと、本当に付き合ってない、の?」
(シュリは本気で、俺とシバが恋人同士だと思ってたのか!)
「あのさ、誤解してるみたいだけど、付き合ってないよ。」
「え?あの、本当に?」
「うん。」
 今度はシュリが焦りだした。
 先輩の話を聞いて、嘘や冗談を言わないシバが言ったとなれば本当だろうと思っていたらしい。
(はぁ……俺の喜びを返してよ……。)
 俺は包みに落ちた唐揚げを拾って、ふっと息を吹きかけると静かに口に運んだ。
感想 4

あなたにおすすめの小説

恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しい」という実母の無茶な要求で、ランバートは女人禁制、男性結婚可の騎士団に入団する。 そこで出会った騎兵府団長ファウストと、部下より少し深く、けれども恋人ではない微妙な距離感での心地よい関係を築いていく。 友人とも違う、部下としては近い、けれど恋人ほど踏み込めない。そんなもどかしい二人が、沢山の事件を通してゆっくりと信頼と気持ちを育て、やがて恋人になるまでの物語。 メインCP以外にも、個性的で楽しい仲間や上司達の複数CPの物語もあります。活き活きと生きるキャラ達も一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。 ー!注意!ー *複数のCPがおります。メインCPだけを追いたい方には不向きな作品かと思います。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。