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バッドエンドに向かって
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(…よく寝てる。)
小さくスーッと寝息が聞こえ、彼がぐっすりと眠っているのだと分かる。俺の背中に回された手をそろーっと退け、彼の腕から抜けると足音を立てないようにリビングへ向かう。
そして静かに服を着替え、寝間着を洗濯かごに入れた。
(シバ、大好きだよ。)
俺は心の中で彼にそう告げると、そっと部屋を出て宿舎を後にした。
「急ごう。」
俺は走って騎士棟の馬小屋を目指した。
昨日はシバの寝かしつけによって眠ってしまったが、気を張っていたのもあって朝6時に起きることができた。そして、アックスがエマの世話をするのは決まって仕事前の朝と仕事後の夕方。今はまさに彼が馬小屋にいる時間なのだ。
走って騎士棟の横を通り目的の場所へ着くと、俺の予想通り彼がいた。
「アックス。」
「…セラ?」
俺は彼に走って近寄ると、後ろから声を掛けた。アックスは驚いていたが、すぐにいつもの優しい顔に戻ると、「座ろう。」と俺を馬小屋近くのベンチに座らせた。
シン…とした空気が流れ、俺は「あの、」と声を出す。
「昨日はすみませんでした。」
俺が頭を下げて謝ると、アックスはじっと黙って、「気にするな。」と言った。
昨夜、俺は彼に対して失礼なことをした。アックスにそれを謝ることも目的ではあったが、今からバッドエンドを迎えるであろう俺は、そうなった場合、父だけでも助けてくれとお願いをする為にここへやって来た。
「あれは約束じゃない。行っただろ?もし来てくれるなら…と。」
「でも、行けないのに連絡もしなくて……本当にすみません。」
「謝らなくていい。俺が勝手に言ったことだ。」
「アックス…。」
俺はどう声を掛けて良いのか分からない。告白まで進んだゲームの攻略者の誘いに赴かない主人公などいないだろう。結ばれなかった俺達はどうなってしまうのか…想像したこともなかった。
(やっぱり他の攻略者達と同様、闇落ちして俺をどうにかして酷い目に合わせるのかな…。)
某動画投稿サイトでは、眼鏡側近ウォルと第二王子エヴァンを攻略しようとして失敗に終わった動画を見たことがある。主人公が間違えた会話選択をした場合は、決まって彼らが自分の闇の部分をさらけ出し、俺を追放した。
(アックスがそんなことしそうには見えないけど…。)
今の彼との会話の中でも、身勝手な行動で迷惑を掛けた俺を責めたりはしなかった。
(でも、もう俺とは会いたくないよね。)
寂しく思い黙っていると、アックスがスッと手を伸ばし俺の頭を撫でてきた。思ってもみなかった行動に、バッと彼の顔を見上げる。
「セラ、本当に気に病まないでくれ。」
アックスは俺を撫でながら優しい声で言う。
「…本当はセラの気持ちは分かっていたんだ。」
「…。」
「だが、最初は勘違いしていた。もしかしたら俺にそういった意味で好意を持っているんじゃないかと…。」
「それは…ッ!」
(勘違いじゃない! 俺はアックスと本当に恋人になるつもりで、好きになってもらおうと行動してきた。)
しかし俺が好きになったのはシバだ。それを説明するわけにもいかず、拳を握ってまた黙ってしまう。
「実を言うと…俺も分からなかったんだ。セラに恋人になってほしいのか、友達でいてほしいのか。」
アックスの顔は真剣で、その言葉が本心であると伝わってくる。
「だから、確かめたかったのかもな。」
ということは、一昨日の時点で彼はまだ俺を好きではなかったようだ。ゲームの告白シーンでは、ダンスをした時に主人公のことを好きだと自覚したと言っていた。
「街でダンスをした日にセラと口がぶつかっただろ?事故だと特に気にしてない様子のセラを見て…俺はセラと友達でいようと思った。」
(だから帰りの馬車は、ゲームと違って目の前に座ったのか…。)
「昨日は、ただ自分の気持ちを整理したかった。あとは、もしセラが俺を好きなら…とも思ったが、やはり違ったみたいだな。」
アックスは全てを話してすっきりした顔をしている。
「セラ、好きなやつがいるんだろ?」
「…え。」
「見てたら分かる。セラは分かりやすいからな。」
アックスはからかうように俺の顔を窺うと、「当ててやろうか。」と言ってニヤリと笑った。
「アインラス殿か?」
「は、え…ッ?!」
いきなりその名前を挙げられ、俺は動揺して変な声が出た。その反応にアックスが笑う。
「彼は幸せ者だな。」
アックスはそう言って俺を撫でると、「よし!」と言って俺に向き直る。
「改めて言うのも照れるが……これからも友として一緒にいてくれないか?」
彼は少し耳を赤くしつつ、俺に問いかけた。
「俺はセラと今まで通りの関係でいたいと思っている。正直、昨日までははっきり分からなかったが、セラとずっと…くだらない話をして笑ってたいんだ。」
こんな展開は知らない。照れながらそう話すアックスをじっと見てしまう。
(だってゲームはどれもハッピーエンドかバッドエンドか2択で…。こんなことって…。)
一体どうなっているのかと、混乱しながらアックスを見つめていると、彼が笑いながら手を差し伸べてきた。
「おい、返事をくれないのか?」
(友情エンドなんて、あり得るの…?!)
この光景が信じられなかった。しかしこれからも彼とこうやって話ができるのだと思うと胸が温かくなる。
(アックスが、俺と友達でいたいって言ってくれた。)
片手を差し出しているアックスの手を両手でしっかり握り、真っ黒な瞳を見て言った。
「はい。アックスとずっと一緒にいます。」
「誰と、ずっと一緒にいると?」
早朝であり誰もいないはずの場所に、聞きなれた低い声が響いた。
後ろを振り向くと、無表情で殺気を放つシバがこっちを見て立っていた。
(なんでここに?)
「アインラス様!」
「…セラ、来い。」
俺は唖然としており、アックスはその様子を窺っている。シバは、アックスに添えられた俺の手を掴むと、ぐいっと引いてきた。
「いた…ッ」
いつもはふんわりと優しく握る手がぎゅっと俺の手首を掴み、条件反射で痛いと口に出してしまった。
「やめろ。セラが痛がってる。」
「トロント殿は黙っていてくれ。私は彼に話がある。」
「アインラス殿は勘違いしている。私とセラは、」
「話は本人から聞く。」
シバは俺を掴んで立ち上がらせるが、アックスが俺を助けるように反対の手を掴む。
「アインラス殿、落ち着いてくれ。」
「…手を離せ。」
「そちらが離せ。セラに乱暴なことをするな。」
一発触発と言った現場の中で、俺は深呼吸してシバの顔を見上げた。
すぅ…
「シバ!愛しています!」
俺の大声が響き、その音量に驚いたのか2人は黙ってしまった。
(とりあえず…ピリピリした雰囲気じゃなくなった…よね?)
「全て話しますから…帰りましょう。」
黙ってしまったシバを今度は俺が引っ張り、ぺこっとアックスに頭を下げた。
アックスはさっきまでの剣幕が嘘のように噴き出して笑うと、「早く誤解を解いた方がいい。」と言い、軽く手を上げ俺達を送り出した。
大きなシバの手を掴み、無言で宿舎まで向かう。シバは何も発さず静かに付いて来た。
さっきまではバッドエンドへの覚悟のみを胸に宿舎を出たが、こうなってみるとシバに対して罪悪感を感じる。
(恋人になった次の日に別の男の手を取って笑ってるなんて…シバ、傷ついたよね。)
アックスとのまさかの友情エンドに感動し、行動が大胆になってしまっていた。
宿舎に着き玄関を閉め、俺はやっと後ろにいるシバを振り返ると、謝ろうと口を開いた。
「シバ…ごめんなさ、」
「セラ」
「っわ…!」
俺が頭を下げて気持ちを伝えようとすると、言葉を遮るようにシバが俺を抱きしめた。ぎゅう…と抱きしめる力は強く、本当に心配を掛けてしまったのだと胸が痛んだ。
「朝起きたら君がいなかった。」
「…すみません。」
シバは俺を胸に抱きながら、静かに続ける。
「起きたら、目覚めのキスをするつもりだった。そして寝坊する君をリビングで待って、一緒に昼食を作ろうと思っていた。」
そう告げるとぎゅっと抱きしめていた腕を緩めて視線を合わせる。
「まさかと思い騎士棟へ行ったら、トロント殿の手を取っている君が見えて……心臓が止まったかと思った。」
シバは掴んだ方の手首を撫で「すまない。」と謝ってきた。
「痛かったか?」
「いえ…びっくりして、つい痛いと言ってしまいました。」
「声を掛けて話を聞こうと思ったんだ。…しかし、呼び方が以前のように戻っていたので、つい…。」
急に現れたシバに対して、俺は確かに『アインラス様』と呼んだ。彼は俺がアックスへ向けた言葉と、シバへの呼び方が変わったことで焦ったようだった。
「それはアックスの前ですし、2人きりの時に名前を呼び合う約束でしょう?」
「……それはやめる。セラには常に名前で呼んで欲しい。」
拗ねたような声が可愛らしく、俺はつい彼の胸に抱き着くと「シバ」と名前を呼んだ。
「君が愛していると言ってくれて…安心した。しかし、なぜトロント殿と会っていたのか説明してほしい。」
安心したと口では言っているが、まだ納得はしていないようだ。俺は覚悟を決めた。
「分かりました。…長くなりますが良いですか。」
(シバに、ちゃんと話さなきゃ…。)
今までの事、そして今日の事、俺は誰にも話せなかったこの1年間の出来事を、彼に伝えようと決めた。
小さくスーッと寝息が聞こえ、彼がぐっすりと眠っているのだと分かる。俺の背中に回された手をそろーっと退け、彼の腕から抜けると足音を立てないようにリビングへ向かう。
そして静かに服を着替え、寝間着を洗濯かごに入れた。
(シバ、大好きだよ。)
俺は心の中で彼にそう告げると、そっと部屋を出て宿舎を後にした。
「急ごう。」
俺は走って騎士棟の馬小屋を目指した。
昨日はシバの寝かしつけによって眠ってしまったが、気を張っていたのもあって朝6時に起きることができた。そして、アックスがエマの世話をするのは決まって仕事前の朝と仕事後の夕方。今はまさに彼が馬小屋にいる時間なのだ。
走って騎士棟の横を通り目的の場所へ着くと、俺の予想通り彼がいた。
「アックス。」
「…セラ?」
俺は彼に走って近寄ると、後ろから声を掛けた。アックスは驚いていたが、すぐにいつもの優しい顔に戻ると、「座ろう。」と俺を馬小屋近くのベンチに座らせた。
シン…とした空気が流れ、俺は「あの、」と声を出す。
「昨日はすみませんでした。」
俺が頭を下げて謝ると、アックスはじっと黙って、「気にするな。」と言った。
昨夜、俺は彼に対して失礼なことをした。アックスにそれを謝ることも目的ではあったが、今からバッドエンドを迎えるであろう俺は、そうなった場合、父だけでも助けてくれとお願いをする為にここへやって来た。
「あれは約束じゃない。行っただろ?もし来てくれるなら…と。」
「でも、行けないのに連絡もしなくて……本当にすみません。」
「謝らなくていい。俺が勝手に言ったことだ。」
「アックス…。」
俺はどう声を掛けて良いのか分からない。告白まで進んだゲームの攻略者の誘いに赴かない主人公などいないだろう。結ばれなかった俺達はどうなってしまうのか…想像したこともなかった。
(やっぱり他の攻略者達と同様、闇落ちして俺をどうにかして酷い目に合わせるのかな…。)
某動画投稿サイトでは、眼鏡側近ウォルと第二王子エヴァンを攻略しようとして失敗に終わった動画を見たことがある。主人公が間違えた会話選択をした場合は、決まって彼らが自分の闇の部分をさらけ出し、俺を追放した。
(アックスがそんなことしそうには見えないけど…。)
今の彼との会話の中でも、身勝手な行動で迷惑を掛けた俺を責めたりはしなかった。
(でも、もう俺とは会いたくないよね。)
寂しく思い黙っていると、アックスがスッと手を伸ばし俺の頭を撫でてきた。思ってもみなかった行動に、バッと彼の顔を見上げる。
「セラ、本当に気に病まないでくれ。」
アックスは俺を撫でながら優しい声で言う。
「…本当はセラの気持ちは分かっていたんだ。」
「…。」
「だが、最初は勘違いしていた。もしかしたら俺にそういった意味で好意を持っているんじゃないかと…。」
「それは…ッ!」
(勘違いじゃない! 俺はアックスと本当に恋人になるつもりで、好きになってもらおうと行動してきた。)
しかし俺が好きになったのはシバだ。それを説明するわけにもいかず、拳を握ってまた黙ってしまう。
「実を言うと…俺も分からなかったんだ。セラに恋人になってほしいのか、友達でいてほしいのか。」
アックスの顔は真剣で、その言葉が本心であると伝わってくる。
「だから、確かめたかったのかもな。」
ということは、一昨日の時点で彼はまだ俺を好きではなかったようだ。ゲームの告白シーンでは、ダンスをした時に主人公のことを好きだと自覚したと言っていた。
「街でダンスをした日にセラと口がぶつかっただろ?事故だと特に気にしてない様子のセラを見て…俺はセラと友達でいようと思った。」
(だから帰りの馬車は、ゲームと違って目の前に座ったのか…。)
「昨日は、ただ自分の気持ちを整理したかった。あとは、もしセラが俺を好きなら…とも思ったが、やはり違ったみたいだな。」
アックスは全てを話してすっきりした顔をしている。
「セラ、好きなやつがいるんだろ?」
「…え。」
「見てたら分かる。セラは分かりやすいからな。」
アックスはからかうように俺の顔を窺うと、「当ててやろうか。」と言ってニヤリと笑った。
「アインラス殿か?」
「は、え…ッ?!」
いきなりその名前を挙げられ、俺は動揺して変な声が出た。その反応にアックスが笑う。
「彼は幸せ者だな。」
アックスはそう言って俺を撫でると、「よし!」と言って俺に向き直る。
「改めて言うのも照れるが……これからも友として一緒にいてくれないか?」
彼は少し耳を赤くしつつ、俺に問いかけた。
「俺はセラと今まで通りの関係でいたいと思っている。正直、昨日までははっきり分からなかったが、セラとずっと…くだらない話をして笑ってたいんだ。」
こんな展開は知らない。照れながらそう話すアックスをじっと見てしまう。
(だってゲームはどれもハッピーエンドかバッドエンドか2択で…。こんなことって…。)
一体どうなっているのかと、混乱しながらアックスを見つめていると、彼が笑いながら手を差し伸べてきた。
「おい、返事をくれないのか?」
(友情エンドなんて、あり得るの…?!)
この光景が信じられなかった。しかしこれからも彼とこうやって話ができるのだと思うと胸が温かくなる。
(アックスが、俺と友達でいたいって言ってくれた。)
片手を差し出しているアックスの手を両手でしっかり握り、真っ黒な瞳を見て言った。
「はい。アックスとずっと一緒にいます。」
「誰と、ずっと一緒にいると?」
早朝であり誰もいないはずの場所に、聞きなれた低い声が響いた。
後ろを振り向くと、無表情で殺気を放つシバがこっちを見て立っていた。
(なんでここに?)
「アインラス様!」
「…セラ、来い。」
俺は唖然としており、アックスはその様子を窺っている。シバは、アックスに添えられた俺の手を掴むと、ぐいっと引いてきた。
「いた…ッ」
いつもはふんわりと優しく握る手がぎゅっと俺の手首を掴み、条件反射で痛いと口に出してしまった。
「やめろ。セラが痛がってる。」
「トロント殿は黙っていてくれ。私は彼に話がある。」
「アインラス殿は勘違いしている。私とセラは、」
「話は本人から聞く。」
シバは俺を掴んで立ち上がらせるが、アックスが俺を助けるように反対の手を掴む。
「アインラス殿、落ち着いてくれ。」
「…手を離せ。」
「そちらが離せ。セラに乱暴なことをするな。」
一発触発と言った現場の中で、俺は深呼吸してシバの顔を見上げた。
すぅ…
「シバ!愛しています!」
俺の大声が響き、その音量に驚いたのか2人は黙ってしまった。
(とりあえず…ピリピリした雰囲気じゃなくなった…よね?)
「全て話しますから…帰りましょう。」
黙ってしまったシバを今度は俺が引っ張り、ぺこっとアックスに頭を下げた。
アックスはさっきまでの剣幕が嘘のように噴き出して笑うと、「早く誤解を解いた方がいい。」と言い、軽く手を上げ俺達を送り出した。
大きなシバの手を掴み、無言で宿舎まで向かう。シバは何も発さず静かに付いて来た。
さっきまではバッドエンドへの覚悟のみを胸に宿舎を出たが、こうなってみるとシバに対して罪悪感を感じる。
(恋人になった次の日に別の男の手を取って笑ってるなんて…シバ、傷ついたよね。)
アックスとのまさかの友情エンドに感動し、行動が大胆になってしまっていた。
宿舎に着き玄関を閉め、俺はやっと後ろにいるシバを振り返ると、謝ろうと口を開いた。
「シバ…ごめんなさ、」
「セラ」
「っわ…!」
俺が頭を下げて気持ちを伝えようとすると、言葉を遮るようにシバが俺を抱きしめた。ぎゅう…と抱きしめる力は強く、本当に心配を掛けてしまったのだと胸が痛んだ。
「朝起きたら君がいなかった。」
「…すみません。」
シバは俺を胸に抱きながら、静かに続ける。
「起きたら、目覚めのキスをするつもりだった。そして寝坊する君をリビングで待って、一緒に昼食を作ろうと思っていた。」
そう告げるとぎゅっと抱きしめていた腕を緩めて視線を合わせる。
「まさかと思い騎士棟へ行ったら、トロント殿の手を取っている君が見えて……心臓が止まったかと思った。」
シバは掴んだ方の手首を撫で「すまない。」と謝ってきた。
「痛かったか?」
「いえ…びっくりして、つい痛いと言ってしまいました。」
「声を掛けて話を聞こうと思ったんだ。…しかし、呼び方が以前のように戻っていたので、つい…。」
急に現れたシバに対して、俺は確かに『アインラス様』と呼んだ。彼は俺がアックスへ向けた言葉と、シバへの呼び方が変わったことで焦ったようだった。
「それはアックスの前ですし、2人きりの時に名前を呼び合う約束でしょう?」
「……それはやめる。セラには常に名前で呼んで欲しい。」
拗ねたような声が可愛らしく、俺はつい彼の胸に抱き着くと「シバ」と名前を呼んだ。
「君が愛していると言ってくれて…安心した。しかし、なぜトロント殿と会っていたのか説明してほしい。」
安心したと口では言っているが、まだ納得はしていないようだ。俺は覚悟を決めた。
「分かりました。…長くなりますが良いですか。」
(シバに、ちゃんと話さなきゃ…。)
今までの事、そして今日の事、俺は誰にも話せなかったこの1年間の出来事を、彼に伝えようと決めた。
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