鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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お酒はほどほどに…?

シバに全てを話したあの日から数日が経ち、俺は今友人であるシュリと共に文官棟の食堂に来ていた。

ゲームの流れを最優先にし、常に気を張っていた生活から解放された俺は、自由な人生を謳歌している…のだが、1つだけ不満がある。

(ずっとシバに会えてないんだよなぁ。)

実は俺達は何日も顔を合わせていない。というのも、春になり騎士棟が慌ただしくなってきたことで、シバは騎士達との合同会議に出ずっぱりだ。最近では朝のお茶の時間もなく、週末も電話で話すのみで会う事は叶わなかった。何度もこういったケースはあったため慣れてはいるが、さすがに付き合ったばかりでこんなにも会えないというのは寂しい。

(いや、今日は絶対会えるんだし、暗い顔してたら駄目だよな。)

俺は気持ちを切り替えて夕方からの予定を楽しみに思った。
今夜は文官棟全体の飲み会だ。参加は自由だが、今回はシバが参加すると事前に決まっていたためかなりの人数が集まったらしい。パーティで使うような大きな会場を押さえてあると聞き、どんな会になるのか予想が付かない。
本音を言えば2人でゆっくり過ごしたいところだが、皆でワイワイとする雰囲気も悪くはないと思う。

(だって今日はそのままお泊りだし。)

彼の恋人は自分であるという事実によって余裕が生まれ、俺は今日くらいは他の文官達に会話を譲ってもいいと寛容な心持ちでいた。

俺が上機嫌で昼食を席へ運ぶと、先に座って待っていたシュリがさっそく本題に触れた。

「セラ、話があるって…どうしたの?」
「えっと…大きな反応しないでね。」

シュリは首をかしげてこちらを見ている。

昨夜電話でシバと話をした際、周りに関係を公表するのかどうか話し合いをした。

『私は隠したくはない。』
『私もです……が、自分から言いふらすのもちょっと…。もし恋人の有無について聞かれた場合には正直に答えましょう。』
『分かった。しかし報告をしたい者もいる。兄には以前君の事で少し相談をしたから結果を伝える必要がある。』
『え…!お兄さんに相談したんですか?!』
『ああ。』

(シバが兄弟に恋愛相談…。)

シバの兄とは会ったこともないが、もしシバのようなタイプだったとすれば、恋愛相談の光景はかなり面白い図だ。俺がクスクスと笑っていると、『君も好きに報告して良い。』と言われ、シュリの顔が浮かんだ。
思えば、数日前に「嬉しい報告があるかも」と匂わせたまま何も告げていなかったことを思い出す。もしかしたら彼女はその約束をすっかり忘れているかもしれないが、ずっと俺達のことを心配してくれていたシュリには幸せな結果をきちんと伝えたかった。

そして今、俺はこの食堂でシバとの関係を話すことにした。シュリは俺の様子を気にしつつも、カレーを口に運んでいる。周りに気を遣いながら、「あのさ、」と小さな声を出した。

「俺、アインラス様とお付き合いを始めたんだ。」

簡潔にそう告げると、シュリは顔を上げて固まる。そして持っていたスプーンを落とし「ええええええええ!!」と大きな声を上げた。周りは急に響いた声にギョッとした顔でこちらを見るが、シュリが「すみません。」と謝ると皆気にせず食事を再開した。

「ちょっ、大きい声出さないでって言ったじゃん! 」
「しょうがないでしょ!出すなって方が無理ッ………というか、あの、本当に?」
「シュリ、ずっと恋人同士じゃないか疑ってたのに、そんなに驚く?」
「えー!だって前に聞いた時、セラがあまりに否定したから…。」
「あの時は本当に付き合ってなかったんだって。」
「…アインラス様が、セラと…。」

シュリはぽつりと呟いた後、興奮したように頬を上気させた。

「セラ!おめでとう!」
「え…と、ありがとう?」

誰かと付き合うことも、こうやって交際を祝われることも初めてだ。俺は少し気恥ずかしく、「そういうことだから、早く食べよ。」と声を掛けておかずに箸をつけた。

実は、俺達の関係について初めて明かしたのがシュリであり、まだ他の誰にも言っていない。そもそも俺に「恋人はいるか」と尋ねてくる者もおらず、また父とラルクに関しては、シバ提案で今週末に改めて報告をしようと計画している。4人で食事をしながらでも…と以前行った花屋兼業のレストランを予約していた。

(今日は飲み会でそのままシバの家に行って、明日は父さん達と食事会か…楽しみ。)

自然に口元が緩み、それを見たシュリは「あーあ、幸せそうな顔しちゃって!」と指差しながら俺をからかってきた。



「席が…遠い。」
「あ~、アインラス様効果で参加人数がすごいことになっちゃったからね。まぁ、したっぱの私達は末端の席で我慢しなきゃ。」

今日はレストランをまるごと貸切っている。1階はフロア全体を、そして2階への階段を上ると1階の様子が分かるようになっており、歳が比較的若く幹事達の手伝いをすることとなったシュリと俺は2階席の端に座っていた。

シバがいつ登場するのかとワクワクしながら待っていたが、現れたシバは幹事数名によって1階席の奥へと案内される。彼は周りを見まわし俺を探すようなそぶりを見せてはいたが、結局端にいる俺を見つけることはできず席に着いた。

「セラ、こっちはこっちで楽しもう。一緒に帰るんだから、後で話したらいいよ。」
「…うん。あと、俺まだ飲めないからね。」
「分かってる!飲むのは私だけだって。」
「勝手に注いだりしないでね…。」

誕生日まではあと10日。事故で何回か口をつけたことはあり酒の味を知ってはいるが、自分から飲んでは犯罪だ。瓶に入ったワインをご機嫌な顔で指差すシュリに、駄目だと念を押しておいた。



「なぁ、セラちょっといいか?」
「はい。」

すっかりテンションの高くなったシュリと先輩達に絡まれていたところに、眼鏡先輩が話し掛けてくる。

「どうしたんですか?」
「いや…アインラス様が「セラを呼んできて欲しい。」とおっしゃってて……何かしたのか?」
「何もしてませんけど…行ってみます。」
「眉間に皺が寄っていらしたぞ…。仕事の件で注意されるんじゃないか?」
「それは…ないかと。」
「まぁ、もし何かあったら俺を呼んでくれ。一緒に謝るから。」

眼鏡先輩は優しくそう言うと、「行ってこい」と言ってちゃっかりシュリの目の前の席をゲットしていた。


「アインラス様。私をお呼びになったと聞きましたが。」

しっかりと顔を合わせて会話をするのは久しぶりだ。俺はドキドキとしながらも、手招きされるままに彼の隣に座った。さっきまでシバを囲んでいた文官達は空気を呼んで俺達から少し距離を置く。

「久しいな。」
「そうですね。」
「セラ、もっとこちらに来てくれ。」
「こっちというのは…」

(皆の前でセラって呼んだらバレるんじゃ…。)

名前が自然に呼ばれたことにも動揺するが、続く言葉の意味が分からない。どうすれば良いのか考えていると、シバがスッと頬に手を伸ばした。

「あの、ご冗談はやめてください。」
「冗談ではない。」

俺は彼の手を退かし、どうしたのかとテーブルに置かれたコップを見る。グラスの中身は透明で水に見えるが、どうやら強い酒のようだ。俺は眉をひそめてシバに近づく。

「もう…何してるんですか。部屋まで我慢してください。」
「何が悪いんだ。」

俺が皆に聞こえないように小声で注意するが、シバは首をかしげ、また俺の頬に手を伸ばす。その手を掴んで下ろすと、「意地の悪い事をするな。」と拗ねた顔をした。

(わ……まじで酔ってるなこれは。皆に見られる前に連れていかないと。)

「シバ、もう帰りましょう?馬車を呼びます。」
「ああ。」

彼の硬派なイメージを崩さぬよう小声で提案すると、シバはフッと目を細め、向かい合う俺の肩に片腕を置き後ろ髪に手を差し込んだ。

(な、な、なに?)

俺達の周りはざわつき、女性陣はこちらを見てきゃあと高い声を上げている。

「あ、アインラス様は酔っ払ってらっしゃいますね!ずいぶん沢山お酒を飲まれたみたいですし!」

俺は透明な酒の入ったグラスを持って皆に聞こえるようにそう言った。

(こんなになるまで飲んで…。早く回収しないと!)

俺が周りに馬車を呼んで欲しいと伝えると、顔を真っ赤にした女性が急いで幹事に伝えに行った。

「あーあ、こんなに泥酔されていてはお辛いですよね!私につかまっていて下さい!」

大きな声で話し、『彼は酔っ払っており俺にもたれかかっているだけ』だと周りにアピールする。

「セラ。」

この後、入口までこの大きな身体をどうやって運ぼうかと悩んでいると、シバが俺の顔を覗き込んだ。

「どうしました?…もし歩けないようなら手を貸してくれる方を呼びますよ。」
「セラ、私は酒を飲んでいない。」
「……は?」

シバの言葉を聞き、思わず失礼な声を出してしまう。

(じゃあ、コップに入ってたのって、ただの水?!)

シバはそんな俺に構わず、立ち上がると近くのテーブルにいる文官に声を掛けた。

「私達はこれで失礼する。」
「は、はい。」
「もしセラに用があれば私の部屋に連絡をくれ。」

俺を含め、周りの文官一同はその言葉にピタッと止まる。
彼なりに、幹事の手伝い役である俺に連絡がつくよう配慮した言葉だろうが…

(そんなこと言ったら、俺が今からシバの部屋に行くってバレる!)

皆が皆、それはどういう意味だと聞きたげな表情をしているが、シバは気にもせず俺の手を掴むと、「行くぞ。」と言って会場の真ん中を堂々と歩いた。

文官達の視線を痛いくらいに感じながら、俺達はすでに用意されていた馬車に乗った。

(あぁ~…週末開けの職場が恐ろしい…。)

俺は先輩達に質問責めにあう自分を想像し、シバの胸の中でうなだれた。
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