鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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来たる日に向けて

「セラ、すごい量だけど…今日誰か来るの?」
「へ…?」

帰って夕食の準備をしていると、帰宅した父が後ろから話し掛けてきた。思えば無心で料理をしていたが、テーブルには既に5,6品はメインとなりそうなおかずが並んでおり、手元の料理も合わせると軽く5人前はある。

「あ、何も考えずに作り始めちゃって…ラルクさん来るよね?」
「うん。でもそれでも食べきれないよ。」
「…明日のお弁当にする。」

(シバのも詰めて4人分作れば、大方無くなる…かな?)

父は「セラ、もうこれ以上作らないでね。」と言いながら着替えをしに部屋へ入っていった。
あの後、ゆっくりとした足取りで文官棟から帰った俺は、台所で料理をしながらシバについて考えていた。しばらくは、作業部屋で彼女達が言っていた『遊び』という言葉に落ち込んでいたが、これまでのシバとの1年を振り返っていると、徐々に彼女達の見解は間違っているのではないかと感じ出した。

(シバはあんなに真剣に想いを伝えてくれたんだ。絶対、軽い気持ちなんかじゃない。)

名前も知らない人達の言う事より、彼の言葉を信じるべきだ。
俺は心の中で頷くと、今度はなぜシバがネックレスを用意しなかったのか考えてみる。

(シバはもの凄く忙しいし、単純に時間が無かったのかも。それか、近々俺と買いに行くつもりだった…とか?)

想像しても答えは出ないが、何か理由があるのだろう。そこで俺はあることを思いついた。

(俺がプレゼントしたらいいんだ!)

今まで沢山告白をしてくれたシバに、俺も本気の想いを伝えたかった。さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように、今度は『恋人にネックレスを渡す』というミッションで頭がいっぱいになり、ワクワクと今後の予定を立てることにした。
そして「どこで買うのか」「いつ渡すのか」「どんなシチュエーションがいいのか」を真剣に考えていたところに父が帰宅したのだ。

(一応、ネックレスに関しては父さんにも聞いておこう。)

そもそもこの世界の告白に関してはさっぱり分かっていない。そうなれば大人である父に聞くのが一番だろう。
俺は出来上がった料理を机に並べると、父が着替え終わるのを待った。



「セラ~お待たせ~。ラルクさんもすぐ来るだろうけど、先に食べる?」
「ううん、せっかくだし待とうよ。」
「うん。」

父が笑顔で席に着く。仕事の制服であるボタン付きのシャツと違い、今はラフな部屋着を着ている父の胸元には、ちらっと控えめな赤い粒が見えた。

「父さん、質問があるんだけど。」
「ん、何?私に答えられることならいいけど。」

父は笑ってそう言うと、「言ってごらん。」と続きを促した。

「あのさ…ネックレスの事なんだけど、父さんはなんであの時ラルクさんに渡したの?」
「え…そりゃ、ずっと一緒にいたいなって思ったから……どうしたの?改まって。」
「事故で常識も忘れちゃってるから、教えて欲しいなって思って。…渡すタイミングは決まってるの?」
「うーん、特に決まりはないし、人それぞれじゃないかな?告白する時でもいいし、お互いのタイミングを見計らってでもいいし、自由だよ。」

(そっか。じゃあ恋人になってから渡すパターンもあるんだ。)

その言葉にホッとすると、どこで買ったのかを聞いた。父は街の裏通りにある店で買ったのだとその名前を言い、俺は忘れないように復唱した。

「あのさ、セラ…もしかして、」
「シシルさーん!セラさーん!お待たせしました!」

父は俺に何か言いたげに口を開いたが、玄関からラルクの声が聞こえたため話は一旦中断され、父は彼を出迎える為に席を立った。





「失礼します。」
「セラ、おはよう。」

次の日の朝、執務室へ入るとシバが顔を上げて嬉しそうに話しかけてきた。

「おはようございます。お茶を淹れますね。」
「ああ。セラも一緒にどうだ?」
「ご一緒します。あ、お弁当を作ったんですが、食べれそうですか?」
「ありがとう。外出するが昼過ぎに戻るので、その時に頂く。」

弁当が大きな机の上に置かれるのを見て、シバは席から立ち上がると、お茶の用意をし始めた俺に近づいた。

「セラ、今日もこちらへ寄らずに帰ってくれ。それと、週末まではずっと予定が立て込んでいる。」
「そうなんですね。あの…20日は会えますか?」

その日は休みであり、俺の誕生日でもある。忙しい彼に気を遣わせまいと事前には言わないことにし、ネックレスを受け取ってもらったタイミングで「最高の誕生日になった」と伝えるつもりだ。

(『恋人の笑顔が最高のプレゼント』って…余裕ある大人の男って感じ。)

「ああ。」
「良かった…。」

ホッとして、後ろを振り返りながら笑顔を向けると、シバが近づいてきた。

「執務室では、抱きしめるまでは良いんだったな?」

シバの出張前に「ハグまでならOK」と言ったのを覚えていたシバは、俺を後ろから抱きしめてきた。

「早くセラと2人きりで過ごしたい。」
「私もです。」

(待ってて、シバ!似合うネックレスを見つけて、当日はびっくりさせるからな!)

驚く彼の顔を想像すると嬉しくなり、俺は回された手を両手でぎゅっと握った。





「セラはいるか?!」

バンと扉の開く音とともに財政課の部屋に入ってきたのは、俺の友人であり騎士棟事務員のオリアだった。

「あ、オリア。どうしたの?」
「セラ!別の用事で来たんだが、セラが元気か気になったんだ。あと、頼みがあってな。」
「先週も会ったし、元気だって電話でも話したじゃん。」
「それでもだ。ちゃんと休みながら仕事をしているか?無理は良くないぞ。」

俺達は相変わらずこんな調子で仲良くしている。
前までは、彼自身が休むことを惜しんで働いていたというのに、今ではすっかり考えが変わったようだ。こうして文官棟へ用事で来た際には、必ず俺を訪ねて体調を確認してくる。

「目は充血してないしクマもないな。健康だ!」
「オリア…やめてってば。」

オリアは置かれた書類を見て、俺の顔を掴むと隅々までチェックした。
周りは俺達のいつもの会話にクスクスと笑っており、少し…いや、かなり恥ずかしい。歳の離れた妹に接するのと同じく俺に世話を焼く彼を、じろっと睨む。

「だから、俺を子ども扱いするなって。」
「しかし棟が違って様子が分からないからセラが心配だ。腹は減っていないか?」
「減ってないってば。…それで頼みって?」
「ああ、そうだった。」

オリアは目の前の席に座ると、「暇な日で良いんだが、」と前置きをした。

「街に一緒に行ってくれないか?上司が異動するので贈り物をするんだが、彼は茶が好きなんだ。セラにどういったものがいいか教えて欲しい。」
「うん、いいよ。……オリアが良ければ明日はどう?」
「早速すまんな。頼めるか?」
「うん。あのさ、俺も買い物あるんだ。良かったら付き合ってくれる?…アドバイスとかも、してほしい。」
「もちろんだ!」

オリアは俺に頼られて少し嬉しそうにフフンと口角を上げると、「では、明日の就業後、セラの部屋へ迎えに行く。」と言って部屋から出ていった。
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