鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

文字の大きさ
107 / 115

ネックレスの行方

「えっと…これを捨てろって言ったんですか?」
「ああ。私が弁償するから、それは捨ててくれ。」

ソファに座っているシバは俺を見上げて、苦しげな声を出した。
心臓がドクドクと鳴り、目が合ったまま動けない。そして頭には文官棟で聞いた女性達の声が響く。

『本気のお付き合いじゃないのかな?』
『遊びなんじゃない?』

今言われたばかりの彼の言葉があまりに衝撃で、ぎゅっと手の中にある箱を握る。小さな青い宝石は、電気の下でも十分に輝いており、月明りに当てたらどんなに綺麗だろうか。それを2人で笑って見つめる予定が、彼は弁償してでもそれを処分したいと言ってきた。

「分かりました。」

そう言うと、明らかにホッとした顔で「ありがとう」と言ってきたシバ。
綺麗で、部屋に置いていたらまた彼に渡したいと欲が出てしまいそうだ。俺は窓辺に立ち、中身を掴むと悲しい気持ちのままそれを遠くに投げた。
小さい粒は音もせず暗闇に消え、俺はそのまま窓辺で立ち尽くした。

「セラ…すまない。」

俺がじっと窓の外を見ていると、シバが後ろから抱きしめてきた。

(シバは、俺の事が好きだ。)

それは分かっており、この数日で彼の愛を何度も感じた。しかし、シバはお互いをモノで縛るような付き合いはしたくないのだろう。こちらの世界で恋人がいることを表すネックレスは、まだ付けたくないと思ったようだ。

(一人で舞い上がって…俺って本当に子どもだ。)

今日はスマートにかっこよく渡すと決めていただけに、失敗してしまって恥ずかしく思う。それと同時に俺の気持ちと彼の気持ちの差を感じてしまい、胸がギュッと締め付けられた。
背中に感じる彼の体温に期待してしまうのが嫌で、前に回った手を退かす。

「セラ…?」
「シバ……今日は帰って下さい。」
「セラ、怒ったのか?…弁償はする。」
「弁償は結構です。…また、今度会いましょう。今日はなんだか、気持ちの整理がつかなくて。」

このままシバと話していたら泣いてしまいそうだ。

(今日明日で心の整理をして、また仕事が始まったら何もなかったように過ごそう。)

「…帰ってください。」

絞りだした声は震えてしまい、予想していた通り涙で前がかすんできた。

「セラ、泣いてるのか?」

俺が震えているのに気づき、シバは肩を掴んで振り向かせた。シバの焦った顔を見て、また彼を困らせてしまったと自己嫌悪の涙がボロボロ目から溢れる。
シバは困った顔のまま俺を抱きしめると、「セラ、泣かないでくれ…。」と言ってぎゅっと手に力をこめる。

「ふっ、…うう。離して。」
「セラ、私が悪かった。」

グッと喉が詰まり、胸がヒックと上下した。

「…ぅ、シバは、悪くない、です…ッ。私が、シバとずっといたいって…好きって、ぅう、…伝えたくてッ、…っ、ごめんなさいッ、」

(…泣きたくなんかなかったのに。)

俺の思いとは反対に、胸は詰まり視界が滲む。

「……一体、どういうことだ?」

シバは俺の話の意図が分からないといった様子で、焦った声で聞き返してきた。

「いつか…ッ、また、ずっと先…シバが、私をす、好きだったら、また渡しても、いいですか…ッ?」

何度も詰まりながら言いきると、シバが俺の頬を両手で掴んだ。

「セラ……今捨てたのは、私へのネックレスか?!」

(え…なんでシバそんなこと…。当たり前じゃん、この部屋には俺とシバしかいないんだから。)

俺が止まらない涙と共にこくりと頷くと、シバは「何だとッ!」と大きな声を出した。

「私はなんて勘違いを…ッ!セラ、泣かないでくれ。いや、違う…すまなかった。」

シバがここまであたふたしている姿は珍しい。
悲しい気持ちではあるが、その貴重な光景を滲んだ視界で見つめる。

「セラ、聞いてくれ。私は、あのネックレスが自分に用意された物だと思わなかった。…てっきり、トロント殿への贈り物かと…勘違いしていたんだ。」

(本気でそう言ってるの?なんでアックスへのプレゼントだって思うんだよ…。)

シバは俺の目を見つめ、その表情は泣きだしそうだ。

「私は馬鹿だ。話を聞かずに…君を泣かせてしまった。」
「シバ、…うぅ…。」

シバは俺を再び抱きしめる。ネックレスを拒否されたのではないという安堵で涙が浮かんだが、シバは再び泣き出した俺を抱きしめ背中をさすり、何度も何度も謝った。



「シバ…あの、もう大丈夫です。」
「…セラの目が。」

腫れているだろう俺の目を覗き込み、シバはちゅっと目元に唇を寄せた。

「あの、なんでアックスに買ったものだと思ったんですか?」
「ああ…それは、」

シバは先程までの心情を全て話した。
アックスと口がぶつかった話を聞かされて動揺したこと。そしてそのノートが入った棚から出したネックレスの箱に、俺がアックス攻略の為に前から準備していたものだと勘違いしたこと。そして、アックスと結ばれる為に用意していたネックレスなど見たくないと思ったこと。

「セラ、私は嫉妬に駆られて君に酷い事を…。」
「いいんです。…もう捨てちゃいましたし、また改めて用意します。」

俺は泣いてスッキリしたのか、落ち着いた気持ちでそう言うことができた。彼が勘違いで捨ててくれと頼んだのだと知り、さっきの悲しい気持ちも薄れつつある。

(まぁ、せっかくシバに似合いそうな石だったから、少し残念だけど。)

しかし、あの宝石店には魅力的な商品が多数取り揃っており、今度また違うものを用意すれば良い。

(とは言っても結構値段はするから、またお金貯めないとな…。)

少し考え、「あと3か月待っててください。」と言ったところで、シバが立ちあがって俺に告げた。

「私は今からネックレスを探しに行く。セラは私が帰らなくても先に寝ていてくれ。」

そう言うと、部屋の窓から茂みの位置を確認し玄関へ急いで向かって行ってしまった。





「シバ、部屋に戻りましょう。もう見つかりませんよ。」
「セラは先に帰っていろ。私は見つかるまで探す。」

シバは部屋を急いで出ると、俺の部屋のある窓の方角に回り、茂みを捜索し始めた。明かりは俺達が持っている2つのみで頼りなく、部屋から洩れる光も外からだとぼんやりとしている程度で役に立たない。

かれこれもう30分は探し続けている。俺は、悲しかった気持ちも薄れ、今はどうにかしてシバを帰らせようと説得を続けていたのだが、彼はずっと茂みを手でかき分けている。

(はぁ…絶対見つからない気がするけど。)

これだけ諦めろと伝えても帰らないのだ。これ以上は言っても仕方がないと、俺もネックレス探しに参加することにした。



互いに背を向けて茂みを探っていると、シバが改まって俺に謝ってきた。

「セラ。先程は君を傷つけて、本当にすまなかった。」
「もういいですよ。…私も勘違いしてましたし。」

(俺とシバって…いつもこうだな。)

今までも勘違いやすれ違いを沢山経験してきた。今回も「なんでそうなったんだ…!」と後からツッコミを入れたくなるような事件だ。

俺は「お互い様です。」と言ってフッと笑うと、また黙って草をかきわけた。


「おい!何をしている!」

2人でしゃがみ込み、黙々と捜索を続けていると、誰かに明かりで照らされる。

(ま、眩し…っ!)

一体誰だと明かりの先の人物に目を凝らす。すると光が下に下げられ、ゆっくりと誰かが近づいてきた。

「セラ?…とアインラス殿…?」

そこに立っていたのは、騎士服姿のアックスだった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

恋愛騎士物語1~孤独な騎士の婚活日誌~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しい」という実母の無茶な要求で、ランバートは女人禁制、男性結婚可の騎士団に入団する。 そこで出会った騎兵府団長ファウストと、部下より少し深く、けれども恋人ではない微妙な距離感での心地よい関係を築いていく。 友人とも違う、部下としては近い、けれど恋人ほど踏み込めない。そんなもどかしい二人が、沢山の事件を通してゆっくりと信頼と気持ちを育て、やがて恋人になるまでの物語。 メインCP以外にも、個性的で楽しい仲間や上司達の複数CPの物語もあります。活き活きと生きるキャラ達も一緒に楽しんで頂けると嬉しいです。 ー!注意!ー *複数のCPがおります。メインCPだけを追いたい方には不向きな作品かと思います。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。