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ネックレスの行方
「えっと…これを捨てろって言ったんですか?」
「ああ。私が弁償するから、それは捨ててくれ。」
ソファに座っているシバは俺を見上げて、苦しげな声を出した。
心臓がドクドクと鳴り、目が合ったまま動けない。そして頭には文官棟で聞いた女性達の声が響く。
『本気のお付き合いじゃないのかな?』
『遊びなんじゃない?』
今言われたばかりの彼の言葉があまりに衝撃で、ぎゅっと手の中にある箱を握る。小さな青い宝石は、電気の下でも十分に輝いており、月明りに当てたらどんなに綺麗だろうか。それを2人で笑って見つめる予定が、彼は弁償してでもそれを処分したいと言ってきた。
「分かりました。」
そう言うと、明らかにホッとした顔で「ありがとう」と言ってきたシバ。
綺麗で、部屋に置いていたらまた彼に渡したいと欲が出てしまいそうだ。俺は窓辺に立ち、中身を掴むと悲しい気持ちのままそれを遠くに投げた。
小さい粒は音もせず暗闇に消え、俺はそのまま窓辺で立ち尽くした。
「セラ…すまない。」
俺がじっと窓の外を見ていると、シバが後ろから抱きしめてきた。
(シバは、俺の事が好きだ。)
それは分かっており、この数日で彼の愛を何度も感じた。しかし、シバはお互いをモノで縛るような付き合いはしたくないのだろう。こちらの世界で恋人がいることを表すネックレスは、まだ付けたくないと思ったようだ。
(一人で舞い上がって…俺って本当に子どもだ。)
今日はスマートにかっこよく渡すと決めていただけに、失敗してしまって恥ずかしく思う。それと同時に俺の気持ちと彼の気持ちの差を感じてしまい、胸がギュッと締め付けられた。
背中に感じる彼の体温に期待してしまうのが嫌で、前に回った手を退かす。
「セラ…?」
「シバ……今日は帰って下さい。」
「セラ、怒ったのか?…弁償はする。」
「弁償は結構です。…また、今度会いましょう。今日はなんだか、気持ちの整理がつかなくて。」
このままシバと話していたら泣いてしまいそうだ。
(今日明日で心の整理をして、また仕事が始まったら何もなかったように過ごそう。)
「…帰ってください。」
絞りだした声は震えてしまい、予想していた通り涙で前がかすんできた。
「セラ、泣いてるのか?」
俺が震えているのに気づき、シバは肩を掴んで振り向かせた。シバの焦った顔を見て、また彼を困らせてしまったと自己嫌悪の涙がボロボロ目から溢れる。
シバは困った顔のまま俺を抱きしめると、「セラ、泣かないでくれ…。」と言ってぎゅっと手に力をこめる。
「ふっ、…うう。離して。」
「セラ、私が悪かった。」
グッと喉が詰まり、胸がヒックと上下した。
「…ぅ、シバは、悪くない、です…ッ。私が、シバとずっといたいって…好きって、ぅう、…伝えたくてッ、…っ、ごめんなさいッ、」
(…泣きたくなんかなかったのに。)
俺の思いとは反対に、胸は詰まり視界が滲む。
「……一体、どういうことだ?」
シバは俺の話の意図が分からないといった様子で、焦った声で聞き返してきた。
「いつか…ッ、また、ずっと先…シバが、私をす、好きだったら、また渡しても、いいですか…ッ?」
何度も詰まりながら言いきると、シバが俺の頬を両手で掴んだ。
「セラ……今捨てたのは、私へのネックレスか?!」
(え…なんでシバそんなこと…。当たり前じゃん、この部屋には俺とシバしかいないんだから。)
俺が止まらない涙と共にこくりと頷くと、シバは「何だとッ!」と大きな声を出した。
「私はなんて勘違いを…ッ!セラ、泣かないでくれ。いや、違う…すまなかった。」
シバがここまであたふたしている姿は珍しい。
悲しい気持ちではあるが、その貴重な光景を滲んだ視界で見つめる。
「セラ、聞いてくれ。私は、あのネックレスが自分に用意された物だと思わなかった。…てっきり、トロント殿への贈り物かと…勘違いしていたんだ。」
(本気でそう言ってるの?なんでアックスへのプレゼントだって思うんだよ…。)
シバは俺の目を見つめ、その表情は泣きだしそうだ。
「私は馬鹿だ。話を聞かずに…君を泣かせてしまった。」
「シバ、…うぅ…。」
シバは俺を再び抱きしめる。ネックレスを拒否されたのではないという安堵で涙が浮かんだが、シバは再び泣き出した俺を抱きしめ背中をさすり、何度も何度も謝った。
「シバ…あの、もう大丈夫です。」
「…セラの目が。」
腫れているだろう俺の目を覗き込み、シバはちゅっと目元に唇を寄せた。
「あの、なんでアックスに買ったものだと思ったんですか?」
「ああ…それは、」
シバは先程までの心情を全て話した。
アックスと口がぶつかった話を聞かされて動揺したこと。そしてそのノートが入った棚から出したネックレスの箱に、俺がアックス攻略の為に前から準備していたものだと勘違いしたこと。そして、アックスと結ばれる為に用意していたネックレスなど見たくないと思ったこと。
「セラ、私は嫉妬に駆られて君に酷い事を…。」
「いいんです。…もう捨てちゃいましたし、また改めて用意します。」
俺は泣いてスッキリしたのか、落ち着いた気持ちでそう言うことができた。彼が勘違いで捨ててくれと頼んだのだと知り、さっきの悲しい気持ちも薄れつつある。
(まぁ、せっかくシバに似合いそうな石だったから、少し残念だけど。)
しかし、あの宝石店には魅力的な商品が多数取り揃っており、今度また違うものを用意すれば良い。
(とは言っても結構値段はするから、またお金貯めないとな…。)
少し考え、「あと3か月待っててください。」と言ったところで、シバが立ちあがって俺に告げた。
「私は今からネックレスを探しに行く。セラは私が帰らなくても先に寝ていてくれ。」
そう言うと、部屋の窓から茂みの位置を確認し玄関へ急いで向かって行ってしまった。
「シバ、部屋に戻りましょう。もう見つかりませんよ。」
「セラは先に帰っていろ。私は見つかるまで探す。」
シバは部屋を急いで出ると、俺の部屋のある窓の方角に回り、茂みを捜索し始めた。明かりは俺達が持っている2つのみで頼りなく、部屋から洩れる光も外からだとぼんやりとしている程度で役に立たない。
かれこれもう30分は探し続けている。俺は、悲しかった気持ちも薄れ、今はどうにかしてシバを帰らせようと説得を続けていたのだが、彼はずっと茂みを手でかき分けている。
(はぁ…絶対見つからない気がするけど。)
これだけ諦めろと伝えても帰らないのだ。これ以上は言っても仕方がないと、俺もネックレス探しに参加することにした。
互いに背を向けて茂みを探っていると、シバが改まって俺に謝ってきた。
「セラ。先程は君を傷つけて、本当にすまなかった。」
「もういいですよ。…私も勘違いしてましたし。」
(俺とシバって…いつもこうだな。)
今までも勘違いやすれ違いを沢山経験してきた。今回も「なんでそうなったんだ…!」と後からツッコミを入れたくなるような事件だ。
俺は「お互い様です。」と言ってフッと笑うと、また黙って草をかきわけた。
「おい!何をしている!」
2人でしゃがみ込み、黙々と捜索を続けていると、誰かに明かりで照らされる。
(ま、眩し…っ!)
一体誰だと明かりの先の人物に目を凝らす。すると光が下に下げられ、ゆっくりと誰かが近づいてきた。
「セラ?…とアインラス殿…?」
そこに立っていたのは、騎士服姿のアックスだった。
「ああ。私が弁償するから、それは捨ててくれ。」
ソファに座っているシバは俺を見上げて、苦しげな声を出した。
心臓がドクドクと鳴り、目が合ったまま動けない。そして頭には文官棟で聞いた女性達の声が響く。
『本気のお付き合いじゃないのかな?』
『遊びなんじゃない?』
今言われたばかりの彼の言葉があまりに衝撃で、ぎゅっと手の中にある箱を握る。小さな青い宝石は、電気の下でも十分に輝いており、月明りに当てたらどんなに綺麗だろうか。それを2人で笑って見つめる予定が、彼は弁償してでもそれを処分したいと言ってきた。
「分かりました。」
そう言うと、明らかにホッとした顔で「ありがとう」と言ってきたシバ。
綺麗で、部屋に置いていたらまた彼に渡したいと欲が出てしまいそうだ。俺は窓辺に立ち、中身を掴むと悲しい気持ちのままそれを遠くに投げた。
小さい粒は音もせず暗闇に消え、俺はそのまま窓辺で立ち尽くした。
「セラ…すまない。」
俺がじっと窓の外を見ていると、シバが後ろから抱きしめてきた。
(シバは、俺の事が好きだ。)
それは分かっており、この数日で彼の愛を何度も感じた。しかし、シバはお互いをモノで縛るような付き合いはしたくないのだろう。こちらの世界で恋人がいることを表すネックレスは、まだ付けたくないと思ったようだ。
(一人で舞い上がって…俺って本当に子どもだ。)
今日はスマートにかっこよく渡すと決めていただけに、失敗してしまって恥ずかしく思う。それと同時に俺の気持ちと彼の気持ちの差を感じてしまい、胸がギュッと締め付けられた。
背中に感じる彼の体温に期待してしまうのが嫌で、前に回った手を退かす。
「セラ…?」
「シバ……今日は帰って下さい。」
「セラ、怒ったのか?…弁償はする。」
「弁償は結構です。…また、今度会いましょう。今日はなんだか、気持ちの整理がつかなくて。」
このままシバと話していたら泣いてしまいそうだ。
(今日明日で心の整理をして、また仕事が始まったら何もなかったように過ごそう。)
「…帰ってください。」
絞りだした声は震えてしまい、予想していた通り涙で前がかすんできた。
「セラ、泣いてるのか?」
俺が震えているのに気づき、シバは肩を掴んで振り向かせた。シバの焦った顔を見て、また彼を困らせてしまったと自己嫌悪の涙がボロボロ目から溢れる。
シバは困った顔のまま俺を抱きしめると、「セラ、泣かないでくれ…。」と言ってぎゅっと手に力をこめる。
「ふっ、…うう。離して。」
「セラ、私が悪かった。」
グッと喉が詰まり、胸がヒックと上下した。
「…ぅ、シバは、悪くない、です…ッ。私が、シバとずっといたいって…好きって、ぅう、…伝えたくてッ、…っ、ごめんなさいッ、」
(…泣きたくなんかなかったのに。)
俺の思いとは反対に、胸は詰まり視界が滲む。
「……一体、どういうことだ?」
シバは俺の話の意図が分からないといった様子で、焦った声で聞き返してきた。
「いつか…ッ、また、ずっと先…シバが、私をす、好きだったら、また渡しても、いいですか…ッ?」
何度も詰まりながら言いきると、シバが俺の頬を両手で掴んだ。
「セラ……今捨てたのは、私へのネックレスか?!」
(え…なんでシバそんなこと…。当たり前じゃん、この部屋には俺とシバしかいないんだから。)
俺が止まらない涙と共にこくりと頷くと、シバは「何だとッ!」と大きな声を出した。
「私はなんて勘違いを…ッ!セラ、泣かないでくれ。いや、違う…すまなかった。」
シバがここまであたふたしている姿は珍しい。
悲しい気持ちではあるが、その貴重な光景を滲んだ視界で見つめる。
「セラ、聞いてくれ。私は、あのネックレスが自分に用意された物だと思わなかった。…てっきり、トロント殿への贈り物かと…勘違いしていたんだ。」
(本気でそう言ってるの?なんでアックスへのプレゼントだって思うんだよ…。)
シバは俺の目を見つめ、その表情は泣きだしそうだ。
「私は馬鹿だ。話を聞かずに…君を泣かせてしまった。」
「シバ、…うぅ…。」
シバは俺を再び抱きしめる。ネックレスを拒否されたのではないという安堵で涙が浮かんだが、シバは再び泣き出した俺を抱きしめ背中をさすり、何度も何度も謝った。
「シバ…あの、もう大丈夫です。」
「…セラの目が。」
腫れているだろう俺の目を覗き込み、シバはちゅっと目元に唇を寄せた。
「あの、なんでアックスに買ったものだと思ったんですか?」
「ああ…それは、」
シバは先程までの心情を全て話した。
アックスと口がぶつかった話を聞かされて動揺したこと。そしてそのノートが入った棚から出したネックレスの箱に、俺がアックス攻略の為に前から準備していたものだと勘違いしたこと。そして、アックスと結ばれる為に用意していたネックレスなど見たくないと思ったこと。
「セラ、私は嫉妬に駆られて君に酷い事を…。」
「いいんです。…もう捨てちゃいましたし、また改めて用意します。」
俺は泣いてスッキリしたのか、落ち着いた気持ちでそう言うことができた。彼が勘違いで捨ててくれと頼んだのだと知り、さっきの悲しい気持ちも薄れつつある。
(まぁ、せっかくシバに似合いそうな石だったから、少し残念だけど。)
しかし、あの宝石店には魅力的な商品が多数取り揃っており、今度また違うものを用意すれば良い。
(とは言っても結構値段はするから、またお金貯めないとな…。)
少し考え、「あと3か月待っててください。」と言ったところで、シバが立ちあがって俺に告げた。
「私は今からネックレスを探しに行く。セラは私が帰らなくても先に寝ていてくれ。」
そう言うと、部屋の窓から茂みの位置を確認し玄関へ急いで向かって行ってしまった。
「シバ、部屋に戻りましょう。もう見つかりませんよ。」
「セラは先に帰っていろ。私は見つかるまで探す。」
シバは部屋を急いで出ると、俺の部屋のある窓の方角に回り、茂みを捜索し始めた。明かりは俺達が持っている2つのみで頼りなく、部屋から洩れる光も外からだとぼんやりとしている程度で役に立たない。
かれこれもう30分は探し続けている。俺は、悲しかった気持ちも薄れ、今はどうにかしてシバを帰らせようと説得を続けていたのだが、彼はずっと茂みを手でかき分けている。
(はぁ…絶対見つからない気がするけど。)
これだけ諦めろと伝えても帰らないのだ。これ以上は言っても仕方がないと、俺もネックレス探しに参加することにした。
互いに背を向けて茂みを探っていると、シバが改まって俺に謝ってきた。
「セラ。先程は君を傷つけて、本当にすまなかった。」
「もういいですよ。…私も勘違いしてましたし。」
(俺とシバって…いつもこうだな。)
今までも勘違いやすれ違いを沢山経験してきた。今回も「なんでそうなったんだ…!」と後からツッコミを入れたくなるような事件だ。
俺は「お互い様です。」と言ってフッと笑うと、また黙って草をかきわけた。
「おい!何をしている!」
2人でしゃがみ込み、黙々と捜索を続けていると、誰かに明かりで照らされる。
(ま、眩し…っ!)
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