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プロローグ
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華やかな晩餐会の会場が突如として煙に包まれる。誤ってそれを吸い込んだ従者らしき人影が、煙のなかでゆっくりと倒れた。
「毒だ!全員床に伏せろ!下の方は煙が薄い!」
王太子であるエドモンドの声でその場の全員が動く。
だが、
「声はそっちからだ!」
会場を襲撃した暗殺者たちが、声を便りにエドモンド様の方へ走っていく。初めからエドモンドを狙っていたのか、その動きに迷いはなかった。
「誰か!殿下をお助けしろ!」
親衛隊の一人が叫ぶが、暗殺者は一人ではないらしく、敵たちは助けに向かった彼らの前に立ちはだかった。
だから、エリシア=フォン=イスヴァルドは迷わずに駆け出した。
毒の煙を吸い込むことも厭わず、武器の一つも持たずに走る。
即効性の毒は即座にエリシアの体を蝕んだ。一瞬もしないうちに全身に激痛が走り、口からは血が吹き出た。
それでもエリシアは走り、今にもエドモンドを殺そうとする暗殺者の前に立ちはだかり―――そして、当然のように剣で貫かれた。
「なっ」
エドモンドが唖然とエリシアを見つめる。毒によって視力すら失ったエリシアは、エドモンドがいるであろう方を振り向き、小さく笑った。
―――これで終われるのね。ようやく、お父様やお母様たちに会えるのね。
死の間際、エリシアに恐怖はなかった。既にこの世に未練がなかったから。むしろ、終われることが救いですらあった。
―――どうか、このまま、目覚めることなく。
意識がなくなる直前、エリシアが最後に感じたのは、よく知る人が愛用する香水の匂いだった。
―――私が愛したエドモンド様。どうか、私のいない世界でお幸せに。
その願いと共に、エリシアの意識は闇に呑まれた。
エリシア=フォン=イスヴァルド公爵令嬢の毎日は幸せに包まれていた。
騎士として威厳ある父に、強く優しい母、そして可愛い弟。暖かな家庭ですくすくと育つエリシアは笑顔を絶やさず周囲を明るくした。
学院の初等部ではクラスの中心で、次期王太子候補である王子エドモンドとの婚約も結ばれ、その人生は誰から見ても輝いていた。
そんな生活が一変したのは、エリシアが八歳の頃だった。
美しく、優しかった母親が謎の病死を遂げ、そしてそれと同時にキースも戦争で死亡したのだ。
一度に両親を無くしたエリシアだが、それでも彼女は明るく振る舞った。周囲を元気付けるために心の内側に痛みを押し込んで、無理矢理笑みを浮かべ続けた。
その結果、王家からの支援や新たに当主となったキースの弟の手腕の良さもあり、家はなんとか立て直す事ができた。
しかし、それ以降エリシアが笑うことはなかった。
原因は政権争いであった。
新当主の就任後も、本来の当主はキースでありその息子であるエリシアの弟が次の当主になるべきだと主張する者が、公爵家の中で大勢いたのだ。
当然新当主としては自分の息子を次の椅子に据えたい。故に翌年、エリシアの弟は『事故死』によって亡くなった。
賢いエリシアは弟が誰に何故殺されたのかを理解していた。残された自分がこのままだとどうなるのかも。
だから、エリシアは皆の『憧れ』をやめた。
まず周囲を元気付ける笑顔をやめた。
次に、美しさを隠すために身だしなみの手入れをやめた。侍女にきれいにされてもすぐに汚した。
そして、賢くあることもやめた。
でなければ、エが自分が次期当主に相応しいと思われてしまえば、公爵家の実験を握っている当主に殺されてしまうから。
徐々に、エリシアは周囲から孤立していった。
「毒だ!全員床に伏せろ!下の方は煙が薄い!」
王太子であるエドモンドの声でその場の全員が動く。
だが、
「声はそっちからだ!」
会場を襲撃した暗殺者たちが、声を便りにエドモンド様の方へ走っていく。初めからエドモンドを狙っていたのか、その動きに迷いはなかった。
「誰か!殿下をお助けしろ!」
親衛隊の一人が叫ぶが、暗殺者は一人ではないらしく、敵たちは助けに向かった彼らの前に立ちはだかった。
だから、エリシア=フォン=イスヴァルドは迷わずに駆け出した。
毒の煙を吸い込むことも厭わず、武器の一つも持たずに走る。
即効性の毒は即座にエリシアの体を蝕んだ。一瞬もしないうちに全身に激痛が走り、口からは血が吹き出た。
それでもエリシアは走り、今にもエドモンドを殺そうとする暗殺者の前に立ちはだかり―――そして、当然のように剣で貫かれた。
「なっ」
エドモンドが唖然とエリシアを見つめる。毒によって視力すら失ったエリシアは、エドモンドがいるであろう方を振り向き、小さく笑った。
―――これで終われるのね。ようやく、お父様やお母様たちに会えるのね。
死の間際、エリシアに恐怖はなかった。既にこの世に未練がなかったから。むしろ、終われることが救いですらあった。
―――どうか、このまま、目覚めることなく。
意識がなくなる直前、エリシアが最後に感じたのは、よく知る人が愛用する香水の匂いだった。
―――私が愛したエドモンド様。どうか、私のいない世界でお幸せに。
その願いと共に、エリシアの意識は闇に呑まれた。
エリシア=フォン=イスヴァルド公爵令嬢の毎日は幸せに包まれていた。
騎士として威厳ある父に、強く優しい母、そして可愛い弟。暖かな家庭ですくすくと育つエリシアは笑顔を絶やさず周囲を明るくした。
学院の初等部ではクラスの中心で、次期王太子候補である王子エドモンドとの婚約も結ばれ、その人生は誰から見ても輝いていた。
そんな生活が一変したのは、エリシアが八歳の頃だった。
美しく、優しかった母親が謎の病死を遂げ、そしてそれと同時にキースも戦争で死亡したのだ。
一度に両親を無くしたエリシアだが、それでも彼女は明るく振る舞った。周囲を元気付けるために心の内側に痛みを押し込んで、無理矢理笑みを浮かべ続けた。
その結果、王家からの支援や新たに当主となったキースの弟の手腕の良さもあり、家はなんとか立て直す事ができた。
しかし、それ以降エリシアが笑うことはなかった。
原因は政権争いであった。
新当主の就任後も、本来の当主はキースでありその息子であるエリシアの弟が次の当主になるべきだと主張する者が、公爵家の中で大勢いたのだ。
当然新当主としては自分の息子を次の椅子に据えたい。故に翌年、エリシアの弟は『事故死』によって亡くなった。
賢いエリシアは弟が誰に何故殺されたのかを理解していた。残された自分がこのままだとどうなるのかも。
だから、エリシアは皆の『憧れ』をやめた。
まず周囲を元気付ける笑顔をやめた。
次に、美しさを隠すために身だしなみの手入れをやめた。侍女にきれいにされてもすぐに汚した。
そして、賢くあることもやめた。
でなければ、エが自分が次期当主に相応しいと思われてしまえば、公爵家の実験を握っている当主に殺されてしまうから。
徐々に、エリシアは周囲から孤立していった。
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