家族の願い

谷川ベルノー

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家族の願い

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 ある所に喧嘩ばかりしている夫婦と、その二人の娘がおりました。

 喧嘩の理由は日によって様々。
 今日の料理は味が薄いだったり、お前の態度が気に入らないだったりと、もはや喧嘩をしていないのが珍しいぐらいです。


 そんな喧嘩っ早い両親とは
真逆の温厚な娘は、喧嘩が起こる度にいつも悲しんでいました。

 だって、喧嘩を止めて仲良くして欲しいと思っても、子供の自分ではどうすることも出来ないからです。


『望みを一つ、叶えよう』

 ある日、霧が人型になったような存在が突然現れ、そう言いました。
 百年に一度だけ現れては願いを叶えてくれる魔人という存在がいる。
 この国には、そんな言い伝えがあることを思い出すと早速
願いを言いました。

 夫は世界一の大金持ちになることを、妻は世界一の美貌を
望みましたが、叶う願いは一つだけ。

 互いに互いを譲らない二人は今までにないほどの取っ組み
合いの大喧嘩。

 あっという間に家の中が
滅茶苦茶になってしまいました。


 それを見た魔人は困りました。
 願いは些細なことしか叶えられないというのに、二人は
とんでもないことを言い出したばかりか喧嘩を始めてしまったからです。

 どうやら月日が経つ内に
言い伝えが誤ったものになっていたようで、次の何処かの誰かの前に現れる時にはなんでも
叶えられる訳ではないと
一言添えることを心に誓いながら、今はどうするべきかと考えていました。

 その時です。

「パパとママの喧嘩を止めて」

 俯いて黙っていた娘が
そうお願いしてきました。

『うむ、分かった』


 その瞬間、二人は急に喧嘩をしたく無くなり一緒に首を
傾げました。

 一体何故……?

「良かった! パパとママが喧嘩を止めてくれた!!」

 その時、無邪気にはしゃぐ声が耳に入りました。
 一瞬、理解が追い付きませんでしたが、娘のその言葉で全てを悟りました。

 一生に一度の奇跡を自分達はつまらないことで台無しにしてしまった。

 なんということだ。そう反省したときにはもう手遅れ。

 嬉しそうに満面の笑みを
浮かべる娘を怒るに怒れないと揃って肩落とし、荒れた部屋を片付けました。


 それから夫婦は仲睦まじくはなくとも、喧嘩を控えるようになったとさ。

 めでたし、めでたし。
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