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ペットには愛情、君には手錠を

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 アタシの名前はクラッサ。田舎の小さな村での女性警察官。

 平和であろうと気を緩ませずパトロールをしたり、皆の困りごとを解決したりして穏やかな日常を過ごしている。

 今まで、とんでもない事件が起きたことは無い。

 なにせ、今まで一番大きな事件と言えば、ちょっと遠い街から偶然この村に悪人が逃げてきたぐらいだ。

 因みにそいつは小さなナイフ片手にヨネ婆さんを人質にしようと襲いかかったので、ワンパンでのして縛り上げた後、街の警察に突き出してやった。

 全く、お婆さん殺傷事件になってしまう前に取り押さえられたのは本当に良かった。

 街での犯罪に加え、か弱い老人への狼藉。牢屋で罪を存分に反省してほしいものだ。



「おはようございます。クラッサさん……あれ、どうしたんですか?
その子、昨日いませんでしたよね」

 アタシに朝の挨拶をしたのは二メートル程の大きさの先週この村に越してきたドラゴン。名前はラゴ。
 この小さな村の交番に毎日、朝の散歩がてら顔を見せてくれる律儀な奴である。
 本来、もっと大きいらしいが魔法で人間と同じくらいのサイズにしているらしい。

「おはよう、ラゴ。さっき森をパトロールしていたら見慣れない魔物がいたから拾ったんだ」
「クェッ」

 返事を返すように鳴いたのは、ペンギンの魔物であるサラマンダー。
 熱い場所でも自身の冷気で平気でいられる魔物。
 雛の時はかなり小さいが、成長すると結構大きくなってしまう。
 捨てられた理由はそれだろうか。


「最近、住んでいる場所より遠くの森などに捨てる輩が多いらしいんだ。昔は普通の動物が多かったらしいが、今は魔物も同じくらいに多いみたいでな」

 遠い場所まで行って、捨てられる魔物。
 引き取り手がいないか、街に行って探すのをこれまで三度しているが、今度で四度目になってしまうようだ。

「……捨てるなんて酷いです。手に負えないなら負えないで、ちゃんと引き取ってくれる所を探せばいいのに……。全く、生き物を飼うのに愛情が無いなんて。捨てられていたのを拾って飼ってるから、特に腹立たしいですよ」

 頬を膨らませて怒る姿は愛嬌のある蛙のようで、ちょっと可愛いと思ってしまう。

 ……言ったら大変失礼なので言わないが。

「ほほぉ、それはなんと優しい。ところで、どういう生物を飼っているんだ?動物?それとも魔物か?」
「魔物ですよ。魔物図鑑で調べたらバジリスクって書いてありました」

 成程、図鑑でちゃんと調べ──────ちょっと待て。バジリスクとは同族以外を一睨みで石像へと変えてしまう魔法の眼を持つ魔物ではなかったか。


「ラゴ、バジリスクは相手を石に変えてしまうらしいな」
「えぇ、確かにそう書いてありましたが、防護魔法で大丈夫ですよ。今まで石にされたことは一度もありません」
「それは、自分にだけのものか?」
「へっ? えぇ、まあ。家には自分しかいませんし」
「万が一、逃げた場合に備えての石化対策は何かしているのか?」
「──────あっ」

 石化を無害化する首輪を付けるなどの他者に配慮した処置をせずに飼育している場合、罪となる。
 誰も石化させていない場合は軽くで済むらしいが。

「……君、逮捕ね」



「今まで脱走させたこともなく、わざとではなかったということで今回だけ特別にお咎め無しになったが、本当に気を付けてくれ。ペットに愛情は大事だが、責任も同じくらい重要なんだからな?」
「はいっ、本当にすみませんでした。
あぁ、そうそう。他にも魔物を拾っていましてね」
「……」
「そ、そっちは大丈夫ですよ。だから手錠は仕舞って下さい!?」


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