少女への贈り物

谷川ベルノー

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少女への贈り物

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「さあっ! 観念したまえっ!! 虚偽によって更に罪が重くなる前に正直に言ったほうがいいぞ! 『わたしは貴方の息子に毒を盛りました』となっ!!」
「…………違います! …………これは…………これは…………これはなにかの…………間違いですっ!!」
「まだ、ワシに対してしらばっくれるつもりか!? 往生際が悪いぞ!!」
「…………嘘じゃない…………本当に…………嘘じゃあないんです…………違うのに…………わたしにも…………どうしてなのか…………何も…………分からないんです…………」

 嗚咽混じりに少女は必死に訴える。
 嘘偽りが一滴も含まれていない涙を流す、悲しみに満ちた泣き顔で。

 演技でないことは確か。
 だが、毒によって婚約者が倒れたという事実がある。


「尋問途中に失礼します、旦那様」

 急ぎ現れた執事は、自らの主人に耳打ちをする。
 そうすれば、ほんの数分前までは怒りで真っ赤に染まりきっていた顔が、みるみる内に真っ青な色へと変わっていく。




「君へのあらぬ疑い! まことに済まなかった!!」

 言うなり、当たれば魔物も一撃で即死させかねない勢いと力強さで、父親は少女へと頭を素早く下げた。
 

「………………………………えっ?そっ、それは一体全体どういうことなのでしょうか?」
「あぁ、実はだね────────」



 有能な執事の調査結果によれば、毒の出処は実は息子の方であることが判明。
 通常は目に見えぬ毒の痕跡を魔法によって解析したところ、何時の間にか屋敷に作られていた隠し部屋を探索したことで分かった事実。
 服毒云々についてはよく分からなかったが、何らかのミスで誤って扱ったせいによるものであろうということとなった。




 何も知らぬ無垢な少女を葬りし損なった男は牢屋行きとなり、婚約の契約は抹消。
 婚約は破棄され、少女には心からの詫びの謝罪と共に宝物が授けられたという。
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