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婚約は無しで
しおりを挟む「なぁ、婚約──────」
「ようやく見つけわっ! このドクズ野郎!!」
「……ちょっ、ちょっとアナタ! 誰なんですかっ!?」
「アタイわね! そこにいる男のせいでこんな有様になった
のよ!!」
「………………えっ………………?」
男が婚約を告げる。
その瞬間に、ズカズカと乗り込んで来た見知らぬ女性。
唐突に叫ぶなり、目深に被ったフードを勢いよく剥ぎ取った。
「………………っ!?」
日の下に照らされたその顔には、大きく爛れた傷跡がくっきりと存在していた。
「………………ヒッ!?」
「おいっ! いきなり現れてなんなんだ!! とっとと消え失せ」
「クキエエエエエエェェェェェッ────────!!」
結局、 男の言葉は最後まで言い終えられなかった。
女性が突然あげた奇声に掻き消され。
憎しみのこもった表情で振るった杖から勢いよく飛び出した光が、男の顔面へとぶつかったからだ。
「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ──────────!!?!?」
悲鳴を上げた男は、顔面に手を押し付けながら床の上で身悶える。
その姿は、顔から伝わる苦痛からなんとか逃れようと悪足掻きをしているように見えた。
「ア~ッハッハッハッハッ──────────! アタイの受けた苦しみ! よぉ~く味わいなさいなぁ! アハハハハハハハハハハハハ──────────!!」
怒号と混乱。
困惑と罵声。
周囲の人々は、みな大騒動。
………………………………わけも分からずポカンとしたままのわたしを置いて、事態は進んでいく。
────────その日は、今までにないほどに人生史上最低最悪の一日となったのだった ────────
それから女は魔法による傷害罪で。
男は魔法警察の調査によって明らかにされた罪の数々でそれぞれ逮捕された。
そんな騒動が終わって早数日。
わたしは、恋人のいない日常を過ごしている
そんな中、ふと考える。
────────もしも、わたしがあの男と結婚して生活を共にしていたら──────────。
いつの日か酷い目にあわされ、そのことで憎しみを募らせ。
あの女性みたいに狂った邪竜のような精神状態になって復讐だけを望むようになっていたのだろうか、と。
──────────そんな考えが思考に浮かんで、背筋が寒くなった。
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