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罰は与えられる
しおりを挟む「どういうことですのっ!? わたくしという婚約者がいながら、他に女がいるというのはっ!!」
「…………」
「ちょっと、聞いてますの!!」
「………………黙れよ」
「………………えっ?」
男へと詰め寄った少女は、壁へと魔法で叩きつけられた。
「きゃあああぁぁっ!!」
「大して可愛くもねぇブスが、ピーピーピーピーとうるせえんだよ!お前との婚約なんてのはな、破棄だよ破棄! ちょっとチヤホヤしてやっただけの、ただのお遊びに本気になってんじゃねえよ!!」
悲鳴を上げた少女は倒れたまま、ピクリとも動かなくなっていた。
どう見ても、即死。
魔法で攻撃されたことに加えて、打ちどころが悪かったらしい。
「──────ちっ、無駄に手間を増やしやがったな」
どう処分をするか困った男は、死体に重りを括り付けて人がほとんど来ない泉へと沈めることにした。
放り投げ、しっかり沈んだまま浮かんでこないことを確認するなり帰ろうとした時である。
『神たる我の領域に、ちっぽけな者は何をしでかした?』
なんということだろう。
この泉には、神が住んでいたのだ。
『──────愛を偽り、挙げ句に殺し捨てるとは! なんたる外道なるかっ!!』
「………………なっ!?」
男が何かを言おうと口を開ききる前に、神はひと睨みしただけで全てを見通してしまったようだ。
男の行いは何もかも知っているとばかりに、怒り狂って吠え猛る。
『己が犯せし愚かな罪は! その身を贄として償うがいいっ!!』
その瞬間、男は腕に走った痛みに眉をしかめて、異常を確認する。
「………………ひぃっ!?」
──────鱗だ。
鱗が手の甲から素早く広がり続けている。
それは宝石の如く綺麗ではなく、枯れた落ち葉のようにくすんでいる。
「ぎゃあああぁぁっ!? ………………痛いっ!………………たっ、助け………………」
悲鳴を上げている間にも変化は止まらない。
全身へと広がっていく。
肉体へと次々に流れ込んでくる痛みに耐えきれなくなった瞬間、意識を失う。
男の目の前は黒い泥で塗り潰されたように、真っ暗闇になった。
「────────あらっ? わたくしは何を?」
気付けば、少女は見知らぬ場所で一人ポツンと佇んでいた。
靄がかかった頭で、そういえばなんとなくこの泉に一人で来たんだっけと思い至る。
(……………………?)
ここへと来た理由は?
何故、一人だけで?
そもそも前後の記憶が無いのは自身に何か起きたのか?
………………どうしてかを考えても、思考が上手く纏まらない。
だから、まぁいいかと無理矢理に結論付けてしまった。
「………………?」
その時、バシャバシャという音がして背を向けていた泉へと振り向いた。
「………………っ!?」
音の出処へと目を向けて、言葉を詰まらせる。
イボだらけの蛙をベースに、醜さをこれでもかとふんだんに盛り込んだ造形の、かろうじて魚と思わしきヒレや尾などがある水性生物がいた。
ギョロギョロ動く泥水のごとく濁りきった瞳。
それは怯えて身体が竦んでいる少女を眼へと捉えた。
「………………い………………い………………い………………嫌あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────────!?!?」
少女は喉の奥からあらん限りの悲鳴を上げて、心の底から噴き出した恐怖と嫌悪感を振り切らんばかりに駆け出した。
そうして、走りに走り。
疲れきって息を切らした頃には、泉だけでなく男のことも頭の中からは完全に無くなっていた。
それはまるで、そんなものは最初からこの世界になかったかのように。
────────存在を綺麗さっぱり忘れ去られた男はどうなったか?
彼は世にも醜い魚へと変えられ、神のいる泉の住人となっているそうです。
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殺さないという慈悲で神は泉の住人にしました。