夢は泡沫

谷川ベルノー

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夢は泡沫

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「結婚おめでとう」

 白一色の部屋。
 ニコニコと満面の笑みを浮かべて、彼はわたしの前に立っていた。

「………………」
「どうしたの?」
「…………怒らないの?」
「どうして?」
「だって、貴方以外の男性と結婚するのよ。嫌なら嫌だと正直に言って──────」
「いいんだよ」
「────えっ?」


 一瞬だけキョトンと呆けた顔は、さっきよりも更に優しい微笑みへと変えて彼は言葉を続けていく。


「僕以外を好きになっても、いいんだよ」
「……でも、それじゃあ……」
「幸せになって欲しい。それが僕の願いだから」
わたしの言葉を遮るように彼は言葉を紡いでいく。


「僕じゃあ、もう君を幸せに出来ないから」


 ──────気付けば、上に真っ白な天井が見えた。

 目を覚ましたのだと理解した時には、ベッドの上。


「…………」

 慌てて上半身を起こす。
 周りをキョロキョロと見渡すけれど誰かがいる気配はない。
 ここには今、わたし以外は誰もいない。
 死んだあの人は当然もういない。

 熱い炎で遺体は焼かれ。
 今は冷たい土の下。
 魂というものがあるなら、今頃天国か、もしくは墓の中で微睡んでいるのだろうか。


「…………なに、都合良すぎる夢なんて見てるのよ」

 口から小さく自虐を吐き出す。
 目の端から涙がこぼれ落ちる。

 夢は夢。

 それでも、ただの夢だと言い切りたくはなかった。


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