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復讐は果たされる
しおりを挟む男の目の前に現れたのは、過去に殺した女だった。
「…………アイシテルッテ…………イッタノニ…………」
「…………あっ…………あっ…………あぁっ…………!!」
男への恨みによるものか、はたまた身に宿る膨大な魔力によって為せたわざなのか。
もしくは、誰にも知られずひっそりと湖に不法投棄され続けていた違法の魔具の作用によるものか。
いかなる方法で女性が蘇ったかは不明。
ボロボロのドレスと複雑に絡み合った水草を纏い、泥まみれの身体を引き摺り男へと近付いていく。
異様過ぎる、変わりに変わり果てた恐ろしい風貌。
男は腰が抜けてその場から一歩も動けず、恐怖で歯がガチガチと鳴り続けて止まらない。
男が囮にしようとして失敗した妻は、男を置いて屋敷から逃げ去ってしまった。
「…………ヒドイ…………ダマシタ…………ドウシテ…………」
「くっ、来るなっ! 来るんじゃないっ!! 来るなぁっ!!」
緩慢な動きで足を引き摺るように男に向かって進んでいく。
大きく裂けた口から吐血の如くゴボゴボと泥を垂れ流し、濁ったあぶくの声で怨みを呟き続ける。
「…………ユル…………サナイ…………ユルサ…………ナイ…………」
一歩一歩踏みしめるごとに泥が滴り落ち、黒茶色の足跡が塵一つなく磨きぬかれていた床を汚していく。
「頼む、許してくれっ! し、死にたくないんだ! 殺さないでくれ!!」
涙と鼻水を垂れ流し、男は自身の身の安全を大声で懇願するが謝りの言葉は何もない。
──────まるで、己に罪など一つもないとでも訴えるように。
人ではなくなってしまった女が目の前に現れるまで、男にとって前の女のことはどうでもいい過去だった。
男は、人があまり来ない山へ旅行と偽り共に訪れ、魔法で痛めつけてから湖に沈めて殺した。
男にとって女は、邪魔だと思って叩き潰した虫の一つにすぎない。
「お、お前が悪いんだ! お前が婚約を破棄しないと言ったせいだろうがっ!!」
なんという身勝手。
──────だから、報いを受ける。
「………………」
目の前の男の言葉を聞き続けていた、かつては美女だったものは突然口を歪ませて嗤う。
「…………シナナイ…………シナセナイ…………クルシメ…………コウカイシロ…………フフッ…………フフフッ…………ウフフフフフフフ──────ッ!!」
大声で叫び狂ったように笑い出した瞬間。
もはや怪物と化した女性の身体から泥が際限なく溢れ出し、腰が抜けて逃げ出せない男の肉体を呑み込んだ。
それはまるで、怯える蛙を無慈悲に呑み込む大蛇のようだった。
後日、人気の少ない暗い森の中。
黒く濁りきった湖の側に不気味な木が一本増えていた。
その木は苦悶の表情を顔に浮かべた男性が醜く歪んだような気味の悪い形をしており、ぽっかりと空いた木のうろからは常に悲鳴に似た音がし続けているという………………。
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