女神に裏切られたので、世界を救うことをやめたいと思います

何歳

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プロローグ

爺さんと俺

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 牢屋に放り込まれてから何時間経過したのだろうか。
 気づくと寝ていたらしい。

「……い。……おい。起きるんじゃ」

「……ん」

 しわがれた声に目を覚ますと、俺の目の前にキャベツの芯だろうか、それが乗った皿が置いてあった。

 そして、その皿の奥に、誰かが立っていることにに気づいた。いつ牢屋に入ってきたのだろうか。

「いや、わしも疑問に思うんじゃが、どうしてこの牢屋で眠れるんじゃ?」

 その声に、俺は意識が覚醒した。

 起き上がって上を見上げると、何やら白い鎧を着た、灰色の髭を生やした爺さんが立っていた。
 そしてその足元には、キャベツの芯らしきものが乗った皿が置いてある。爺さんが持ってきてくれたのだろうか?

 爺さんの言葉に俺は苦笑した。まあ確かに、ジメジメしていて隅に毒々しいキノコが生えているような場所だからな。だが、別に匂いも気にならんし、不自由もない。

「飯じゃ。悪魔にはこれで十分だと、光の女神を信仰しとるあの男が言ったのじゃ」

 なるほど、悪魔だからまともな食にありつけなくても問題ないと?

「わしは闇の女神を信仰しとるから、特にお主が悪魔かどうかについては何も思っとらん」

「つまり、信仰している女神を一番に信用するってことですか?」

かしこまらんでもいいんじゃが……そうじゃな。そう受け取ってもらっても構わん」

 何か含みのある言い方だな。まあいいや。今は脱出だな。

「脱出を考えているようじゃが……?」

 おかしいな、声に出ていたか?

「まあ良い。先ほど他の四人の目が覚めたようじゃが、詳細は聞くか?」

「いや、いい。興味ない」

 俺の答えに、爺さんは呵々かかと笑った。そんなにおかしいことを言ったか?
 いや、それよりも爺さんや、そんなに大きな声を出しても大丈夫かい?

「なあに、心配いらん。防音とか時間とかに関係する結界を、すでにかけておるからな。
 ……ボソッ(本来なら、ここは魔法が使えないのじゃが……)」

 何かボソボソと呟いていたが、この爺さん、実はすげえ強いんじゃないか?

 ふと、自分の黒歴史を思い出してしまった。よし、忘れよう。

「しかし、他の勇者に興味が湧かぬか……そうじゃ!」

 おおう、なんだなんだ?

「お主、心の中で『ステータス』と念じてみよ」

 まるでゲームとかラノベみたいだが、念じてみよう。

「『ステータス』」

「念じるだけなのじゃが……」

 つい声に出したくなる気持ち、わかるかね?

 まあ、そして出てきたのがこれだ。

***

×××(20)

Lv.1

種族:人

真偽の悪魔
消の勇者

体力:10/10
魔力:1/1

<スキル>
『真』
[看破][解析][読唇][察知][認知]

『偽』
[隠蔽][隠密][隠熱][偽装][変装][声変わり][声真似]

『真偽』
[判定]

『消』
[消音][消痛][消毒][消傷][消魔][消呪][消罠]

『通常』
無し

<固有スキル>
『真』
[真界]

『偽』
[虚界]

『真偽』
[真偽の瞳]

『消』
[生滅の瞳][焼滅の瞳][消滅の瞳]

『通常』
[言語学習(人族:話)][魔力二乗増加]

<魔法>
無し

<加護>
[リュミエールの裏切り]

[悪魔の同情]

***

 ガッデム!!

 マジかよ!勘弁してくれ!!

 これは、バレたら、一巻の終わり。

 悪魔ってなんだよ!処刑されても文句言えねえよ!

「どうじゃ?自身のステータスが表示されたじゃろ?」

 爺さんは、俺のステータスに興味があるのか、どこかワクワクとした雰囲気で俺に訊いてくる。
 が、俺はそれどころではない。

「た、確かに表示されたが、これはちょっとヤバい」

「ほう、どんな風にヤバいか言ってみよ」

 俺は爺さんに、話せる範囲でステータスの内容を話した。もちろん、スキルに関しては話していない。こんなもの話してしまったら、後で何されるかわかったもんじゃないからな。

 俺の話を聞いた爺さんは、小さく唸ると考え込んでしまった。

 流石に、自分自身が悪魔であることは話しちゃまずかったか?と今頃になって後悔しているが、おそらくもう遅い。この爺さんが腰の剣を抜けば、俺は抵抗なく死に至るだろう。
 それだけ、俺という人間は弱い。

「のう、お主」

「な、なんだ爺さん」

 ついに俺は殺されるのか?

「何をそんなに怯えておる。別に殺そうとしておるわけではないわ」

「何でだ?俺は悪魔だぞ?」

「阿呆。自身のステータスをちゃんと見てみよ」

 爺さんに言われた通り、俺は自分のステータスを再び見る。しかし、何度見ても『真偽の悪魔』の文字は消えていない。

「お主はわしになんと説明した?
 自身の種族は『人』だとしっかり説明したじゃろうに……。
 それを阿呆と呼ばずに何と呼ぶ?」

 ……そういえば、俺の種族は『人』だと書いてあったな。
 そして、それを確かに説明した。

「悪魔の種族は『悪魔』であり、人間の種族は『人』じゃ。それだけは変わらん」

 爺さんは静かに、だが力のこもった声で、俺を諭す。
 その言葉は、俺の心に、確かに響いた。

「それに、本来なら悪魔の敵になるであろう勇者のくせに、女神に裏切られ悪魔に同情されておる。
 こんなに面白い小僧なら、『悪魔』になることもないじゃろう」

 それはどんな根拠を持って言っているのだろうか。
 俺は疑問に思うが、爺さんは空の見えない牢屋の天井を見て、小さく呟いている。
 不思議と、俺にはその言葉が聞こえた。

「……のう、そう思わんかの……テネーブル……」

 テネーブル。そう聞こえた。

 確か……フランス語で『闇』だった気がする。

 光の女神の名前がリュミエール。こっちはそのまま『光』。
 ってことは、闇の女神か……?

「それはさて置き、お主はこの牢から、出たいとは思わんか?」

 爺さんが俺に訊いてきたが、もちろん俺は出たいと思っている。
 せっかく異世界に来たのだがら、初っ端から殺されるわけにはいかない。

「出たいに決まってる。もちろん、観光目的でな」

「お主は勇者じゃぞ?最悪、勇者と聞いて魔族が殺しにくるかもしれんぞ」

 え、何?魔族って『勇者』の言葉で殺しにかかるくらい殺気立ってるの?

「それはまあ、悪魔のスキルで何とかする」

 ちょうど、面白いスキルがあることだし、実験も兼ねてやってみたいこともあるし。

「ふむ……つまり、お主は世界を救う気は無いと?」

 爺さんのこの言葉、どうも俺を試しているように聞こえてくる。何かあるのか……?
 ……もしかして。

「……思ったんだが、もしかしてこの世界、元々救わなくても平和だった世界だったんじゃ無いか?」

 俺の想像に爺さんの片眉が上がった。
 これは怒られるか?

 爺さんの表情を見ながら、俺はそんなことを考えるが、どうやら違ったらしい。

「うわっはっはっはっ!!お主も面白いことを考えよる」

 上を向いて、先ほどよりも大きな声で笑い出した。

 防音の結界が張ってあってよかったと、今更ながら思う。こんなでかい声で笑われたら、すぐに騎士たちが駆けつけてくるだろうから。

「だが、その想像で合っている。確かに、この世界は平和じゃった……今日まではな」
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