女神に裏切られたので、世界を救うことをやめたいと思います

プロローグ

召喚の直後に

「よくぞ召喚に応じてくださいました、勇者様方！」

　意識が戻ったのは、そんな大きな声と、立っている地面が揺れるほどの大歓声だった。

「皆の衆、興奮するのはわからんでもない。だが、勇者様方は異世界から来たゆえ、その反動が残っておられる。頭に響くかもしれんから、声を抑えてくれ」

　どこか喜びを隠しきれていないような、そんな男性の声だった。

　目を開けると、最初に目に入ってきたのは目にクマのできた、宝石の装飾が施されている豪華な服を着た男だった。

　他の中学生や高校生は気を失っているのか、そこらへんに倒れている。

　男はこちらに歩み寄ってくるのだが、足取りがフラフラとしていてどこか疲れているようにも感じられた。

「あっ！」

　そして、その危なっかしい足取りから、いつか転ぶだろうと予想していたため、本当に転びそうになった男を支えようと、一歩足を踏み出した。
　その瞬間。

「やはり女神様のお告げの通りだ！」

　どこから現れたのか、倒れこみそうだった男を後ろから支える、少し力を加えただけで折れそうな体格をした男が、俺を指差してそう叫んだ。

　一体どういうことだ？

　答えはすぐに出た。

「王が倒れこんだ瞬間、一歩でも前に踏み出した者は、召喚した者を強く恨んでいると。
　そしてその者は、召喚した者を殺してやると、女神様の前で仰ったと！

　皆の者！こやつは勇者ではない……悪魔だ！勇者の皮を被った悪魔だ！！」

　細い男は、俺を指差しながら周りにいる偉そうな人たちに向けて、そう叫んだ。

「この悪魔は、女神様の聖域に侵入し、勇者の召喚に割り込んだ！
　この世界を滅ぼすために！！」

　俺は何が何だかわからず惚けていたが、それがいけなかった。
　気づくと、周りはすでに収拾がつかなくなっていた。

「悪魔を追い出せ！」
「悪魔を殺せ！」
「いや！悪魔は処刑だ！」
「公開処刑にしろ！！」

　この世界では、悪魔はイニシャルG並みに嫌われているらしい。一体俺が何をしたんだ。

「公開処刑か……それは面白そうだ」

　そんな男の言葉に、周りの人たちが一気に静かになった。
　そして、男はにやりと笑うと、声高らかに言った。

「では、明日この悪魔を、公衆の面前で処刑する！
　何か異論があるものはいるか！！」

　俺から異論があるんだが、それを言ってもどうせ却下されるだろう。

「では、明日の処刑まで、この悪魔を例の牢屋へ入れておけ。

　どうせ出られんから、手足を拘束しなくてもいいぞ？
　最後のあがきも見てみたいしな」

　そして、俺は暗くてジメジメした牢屋へと入れられてしまった。