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冒険者
巫女さん
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「んで、アルルさんはなんでさっきから、この子のことを『巫女巫女』言っているんですか?」
「『アルル』でいいし、楽に話しなよ」
「で、なんで『巫女巫女』言ってんです?」
楽に話せと言われても、これが楽な話し方なんだから仕方ない。こっそり思う、私であった。丸。
俺の問いに、アルルはちらっと魔族の女性が座っている方向を見た。
俺もつられてそちらを向くと、彼女はぷくっと頰を風船のように膨らませてこちらを睨んでいた。なぜ。
「アルル……どうして私たちを放置してそこの脱獄者と朗らかに会話しているんですか。
すぐに聖騎士に引き渡さないと、この孤児院が潰されてしまいますよ」
彼女の言葉に、アルルから拳骨をもらって泣き顔になっていた子供達が「え~、おうちがなくなっちゃうの~!?」驚きの声をあげていた。
「セラス、いい加減にしないと、ワタシも怒るよ?」
アルルはセラスという名の巫女に、拳と笑顔で脅し……脅した。
なんで言い直したかって?
俺が脅しだと説明した瞬間、アルルの顔が少しこちらに向いたからだ。まあ、戻した瞬間に続けるのが俺のポリシーなんだけどな。ドヤァ。
「あのねえ、ワタシも一応『鑑定』スキルは持ってるの」
おや?嫌な予感がするぞ?
「それで彼のステータスを無断で覗いてみたんだけど」
おやおや?気づかない内にいつの間にか覗かれていました。まあ多分、ちらっとこっちを見た時だろうけどな。
しっかし、異世界にはプライバシーというものが存在していないのかね?
「とてもじゃないけど公表できるようなステータスじゃなかったわ」
「でしたらいますぐ聖騎士に連絡を」
状況が悪化しているの、気づいてますかね、アルルさん?
「でも、連絡したらもっと困ることになるなー」
しかし、彼女はセラスの反応を見て面白がっているのか、自身の前髪をいじりながら、先ほどとは違った華やかな笑顔を浮かべて言った。
「ここって色々な種族がいるしー、最近の『光の教会』は様子がおかしいしー、聖騎士の中にも他種族を嫌悪している人間がいるみたいだしー」
指を一本一本立てながら、彼女は言葉を並べていく。
それを聞いているセラスは、情報を一つ聞くたびに顔を青くさせて行っていた。
いや、元が水色だがらわかりにくいっていう人もいるだろうけど、水色の肌でもわかりやすいほど青くなっているんだぜ。
「セラスも聖騎士に正体がバレちゃったら、ヤバいんじゃない?」
「でででででも、脱獄者を引き渡したらチャラになるんじゃ!?」
「なると思う?」
「な、なります!絶対、絶対に!絶対に。絶対……」
アルルは立てた指を折り曲げ、笑顔でセラスに訊ねる。
セラスは彼女の言葉に気が動転しているのか、吃っている。
自身が正しいと言わんばかりの勢いで立ち上がり、捲したてるように主張するも、段々と勢いがなくなっていき最終的には消え入るような言葉とともに座り込んでしまった。
そんな彼女に、アルルはやれやれといったように呆れて、肩をすくめながら言った。
「あのね、いくらキミが『七神の巫女』でも、今の『光の教会』の信者にバレたら、ただじゃすまないかもしれないんだよ?」
七神の巫女?
「なんぞそれ?」
「火、水、風、地、光、闇、無のそれぞれの属性を司る神と、声を交わしたり神おろしをして声を届けたりする人のことだよ。神様がほとんど女性しかいないから、巫女に慣れるのは女性だけなんだけどね」
神様多いな。
んで、その中に裏切った光の女神、リュミなんとかがいるわけか。なるほどな。
「んで、俺はどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、ここに住んで欲しいな」
「ファ!?」
アルルの爆弾発言に、セラスは奇声をあげる。
「色々な説明をぶっ飛ばしてくれてありがとう」
「いやいや、照れるじゃないか」
褒めてねえよ。
「どういうことかって聞いてんの」
「セラスの秘密を知ってしまったからね……そのまま野放しにするわけにはいかんのだよ」
俺ってそんなに信用ないんだな。
「出会って一日も経たないのに、信用しろとキミはいうのかい?」
アルルはまるで、俺の心を読んだかのように訊ねてきた。
「悪いけど、今逃げたら命の保証はしないよ。
逃げるってことは、何か後ろめたいことがあるってことなんだ。
ワタシはそれを、この孤児院に仇なす行動だと勝手に受け取り、キミを排除するかもしれない。これでもS級冒険者だからね。
さて、キミはワタシから逃げられるかな?」
おそらく、スキルを駆使すれば逃げることも可能だと思うが、今の俺はスキルの効果どころか使い方すらわからない状態だ。
逃げ切れたとしても、どこかでのたれ死ぬに決まっている。
つまり、今の俺に逃げ場はない。逃げ道すらない。完全な詰みだ。
「ちっ、せっかく後でこっそりと逃げ出そうと思ったのに。残念だなー」
これは俺も諦めるしかない。
無一文だし、食事は今ポケットに入っている睡眠キャベツ(命名)だけだし、地面で雑魚寝などしたくないから。
うん。これは仕方ないんだ。
「うれしそうに見えるのは、私だけでしょうか?」
セラスは俺に、疑いの視線を向けているが、先ほどまで泣きそうだった子供たちは「え、家族が増えるの?」と好奇の視線を向けてくれていた。
「うんうん。諦めてくれてなによりだよ」
アルルは満足したようで、頷いていた。
そして、満面の笑みで俺に手を伸ばして言った。
「これからよろしくね、名無しの勇者くん」
そういや、今の言葉で確信したんだが……名前が消されているのは勇者召喚の影響か?
「『アルル』でいいし、楽に話しなよ」
「で、なんで『巫女巫女』言ってんです?」
楽に話せと言われても、これが楽な話し方なんだから仕方ない。こっそり思う、私であった。丸。
俺の問いに、アルルはちらっと魔族の女性が座っている方向を見た。
俺もつられてそちらを向くと、彼女はぷくっと頰を風船のように膨らませてこちらを睨んでいた。なぜ。
「アルル……どうして私たちを放置してそこの脱獄者と朗らかに会話しているんですか。
すぐに聖騎士に引き渡さないと、この孤児院が潰されてしまいますよ」
彼女の言葉に、アルルから拳骨をもらって泣き顔になっていた子供達が「え~、おうちがなくなっちゃうの~!?」驚きの声をあげていた。
「セラス、いい加減にしないと、ワタシも怒るよ?」
アルルはセラスという名の巫女に、拳と笑顔で脅し……脅した。
なんで言い直したかって?
俺が脅しだと説明した瞬間、アルルの顔が少しこちらに向いたからだ。まあ、戻した瞬間に続けるのが俺のポリシーなんだけどな。ドヤァ。
「あのねえ、ワタシも一応『鑑定』スキルは持ってるの」
おや?嫌な予感がするぞ?
「それで彼のステータスを無断で覗いてみたんだけど」
おやおや?気づかない内にいつの間にか覗かれていました。まあ多分、ちらっとこっちを見た時だろうけどな。
しっかし、異世界にはプライバシーというものが存在していないのかね?
「とてもじゃないけど公表できるようなステータスじゃなかったわ」
「でしたらいますぐ聖騎士に連絡を」
状況が悪化しているの、気づいてますかね、アルルさん?
「でも、連絡したらもっと困ることになるなー」
しかし、彼女はセラスの反応を見て面白がっているのか、自身の前髪をいじりながら、先ほどとは違った華やかな笑顔を浮かべて言った。
「ここって色々な種族がいるしー、最近の『光の教会』は様子がおかしいしー、聖騎士の中にも他種族を嫌悪している人間がいるみたいだしー」
指を一本一本立てながら、彼女は言葉を並べていく。
それを聞いているセラスは、情報を一つ聞くたびに顔を青くさせて行っていた。
いや、元が水色だがらわかりにくいっていう人もいるだろうけど、水色の肌でもわかりやすいほど青くなっているんだぜ。
「セラスも聖騎士に正体がバレちゃったら、ヤバいんじゃない?」
「でででででも、脱獄者を引き渡したらチャラになるんじゃ!?」
「なると思う?」
「な、なります!絶対、絶対に!絶対に。絶対……」
アルルは立てた指を折り曲げ、笑顔でセラスに訊ねる。
セラスは彼女の言葉に気が動転しているのか、吃っている。
自身が正しいと言わんばかりの勢いで立ち上がり、捲したてるように主張するも、段々と勢いがなくなっていき最終的には消え入るような言葉とともに座り込んでしまった。
そんな彼女に、アルルはやれやれといったように呆れて、肩をすくめながら言った。
「あのね、いくらキミが『七神の巫女』でも、今の『光の教会』の信者にバレたら、ただじゃすまないかもしれないんだよ?」
七神の巫女?
「なんぞそれ?」
「火、水、風、地、光、闇、無のそれぞれの属性を司る神と、声を交わしたり神おろしをして声を届けたりする人のことだよ。神様がほとんど女性しかいないから、巫女に慣れるのは女性だけなんだけどね」
神様多いな。
んで、その中に裏切った光の女神、リュミなんとかがいるわけか。なるほどな。
「んで、俺はどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、ここに住んで欲しいな」
「ファ!?」
アルルの爆弾発言に、セラスは奇声をあげる。
「色々な説明をぶっ飛ばしてくれてありがとう」
「いやいや、照れるじゃないか」
褒めてねえよ。
「どういうことかって聞いてんの」
「セラスの秘密を知ってしまったからね……そのまま野放しにするわけにはいかんのだよ」
俺ってそんなに信用ないんだな。
「出会って一日も経たないのに、信用しろとキミはいうのかい?」
アルルはまるで、俺の心を読んだかのように訊ねてきた。
「悪いけど、今逃げたら命の保証はしないよ。
逃げるってことは、何か後ろめたいことがあるってことなんだ。
ワタシはそれを、この孤児院に仇なす行動だと勝手に受け取り、キミを排除するかもしれない。これでもS級冒険者だからね。
さて、キミはワタシから逃げられるかな?」
おそらく、スキルを駆使すれば逃げることも可能だと思うが、今の俺はスキルの効果どころか使い方すらわからない状態だ。
逃げ切れたとしても、どこかでのたれ死ぬに決まっている。
つまり、今の俺に逃げ場はない。逃げ道すらない。完全な詰みだ。
「ちっ、せっかく後でこっそりと逃げ出そうと思ったのに。残念だなー」
これは俺も諦めるしかない。
無一文だし、食事は今ポケットに入っている睡眠キャベツ(命名)だけだし、地面で雑魚寝などしたくないから。
うん。これは仕方ないんだ。
「うれしそうに見えるのは、私だけでしょうか?」
セラスは俺に、疑いの視線を向けているが、先ほどまで泣きそうだった子供たちは「え、家族が増えるの?」と好奇の視線を向けてくれていた。
「うんうん。諦めてくれてなによりだよ」
アルルは満足したようで、頷いていた。
そして、満面の笑みで俺に手を伸ばして言った。
「これからよろしくね、名無しの勇者くん」
そういや、今の言葉で確信したんだが……名前が消されているのは勇者召喚の影響か?
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