【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ

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6.お互いの取り決め

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「何を今更。……てか、当たり前だろう? 夫婦なんだから一緒に暮らす。なにか間違っているか」

「ええ、そんなこと何も聞いてないですし、勝手に全部決めないでください」

「……はあ、面倒くさい。まあいい、じゃあ俺がさくっと決めてやる」

 そう言って玲二はこの結婚に関する取り決めを語った。

 第一に婚姻届を提出し、共に暮らすこと。
 そして第二は玲二が劇団を救うこと。
 第三として私は『月ノ島プロダクション』に所属し、化粧品ブランド『ルナトーン』のイメージモデルとなること。

 大体に分ければこの3つだった。

 そして他の細々としたことは結婚後に折りを見て決めていくことになった。

「けど、どうしてあなたと一緒に暮らす必要があるんですか」

「……俺の家系はみんなそうだからだ。夫と妻は一緒に暮らす。これは鉄則だからな」

 玲二の父と母のことを考えるとたしかに彼がその考えに至るのは納得ができる。
 月ノ島グループの社長である玲二の父は、妻である玲二の母のことを溺愛し、時間があれば常に隣にいると耳にしたことがある。幼い頃からそれを見続けてきた玲二にとって、夫婦は共に暮らすのだということは常識なのだろう。

「というかこはる、なぜ俺の名前を呼ばない? 昔は呼び捨てだったり君づけで呼んでいたのに意味がわからん」

「それは……」

 互いに大人になって呼び捨てや君付けで呼ぶのは馴れ馴れしいのではと考えたことと、玲二に対する苦手意識もあって呼ぶことを避けていた。それを指摘されて私は口籠る。

「ふん、これからは玲二か最低でもさん付けで呼べ。仮にも妻になるのだから、少しでも親密感を出さねば怪しまれるぞ」

「……わ、かりました……」

 玲二が劇団を助けてくれるのならば仕方がない。だがいきなり呼び捨てにするのはどこかこそばゆく、さん付けで呼ぶことに決めた。

「それで、こはる。家電なんかは内山が揃えてくれるからいいものとして、とりあえず生活雑貨をーー」

「ちょっと待ってください。はやりすぎです。というかまだ劇団を救うって約束が果たされてーー」

 玲二の言葉に割り込んだそのとき、カバンの中に入れていたスマートフォンの音が耳に届いた。急いで通話を覗き込むと、相手は劇団の団長だった。

「少し出ますね」

「勝手にしろ」

 その言葉に頷き通話ボタンをタップして耳に当てる。

『ああ、花宮くん。朗報だよ! 実は劇団を支援してくれる人が現れたんだ! しかもそれが月ノ島グループの専務さんでーー』

 小さく息を呑み、恐る恐る玲二に視線を送る。相変わらず太々しい様子でこちらにチラリと視線を送っていた彼は、目があった途端すっと視線を逸らした。その仕草がどこか照れた子供のようで、少しだけ笑いが込み上げそうになった。

「よかったですね、団長。これで観客の方も団員のみんなも喜んでくれますね」

『ああ! 本当に! それじゃあ、また稽古の日程が決まったら連絡するから』

 返事を返すと通話が切れた。
 私はスマートフォンを握りしめ、玲二に向き直る。


「玲二さん、本当にありがとうございます。劇団のこと、感謝してます」



 決して広いとは言えない車内で私は深く頭を下げた。
 たしかに態度は横柄だが、玲二は約束を守ってくれた。劇団を救うのにもそれ相応のお金が必要だったはずだ。私が何年も働いてようやく貯まるほどの莫大な資金が動いている。そう考えると感謝してもしきれないほどだった。

「おい、頭を上がろ」

 その言葉にゆっくりと顔を上げた。
 鼻を擦り、シートに身を預けている玲二はどこか気まずそうに見えた。目を瞬きながら様子を観察すると、黒髪の隙間から見えた耳がわずかに紅潮しているのが分かる。

「あのーー」

「それ以上何もいうな。俺とお前は互いの利益のためにやってるんだ。劇団の援助のための資金なんて俺にとっちゃ大したことない。それに、これからお前は『ルナトーン』のモデルになってトップ女優になる予定なんだ。そこで金は帰ってくるから気にするのもお門違いだと分かれ」

 一息に言った玲二の様子はまるで照れ隠しをしているようで。
 なんだから彼にも可愛いところがあるのかなとくすりと笑い、さらに笑みを深めた。

 そのとき玲二の耳がさらに赤く染まったようなら気がしたのは私の考えすぎかもしれない。

「……こんな話はもういい。それじゃあ今からは食器やらなんやらの生活雑貨を揃えにいくぞ。正直これも内山に用意させればいいと思っていたが…………女はこういうのは自分で見て揃えたいんだろう?」

 強引に空気を変えるかのように玲二は言うが、私はその言葉に反射的に答える。

「……ってももしかしてそれも高級なものばかりですか……」

「当たり前だ」

 玲二の言葉に私は顔を青ざめさせる。
 家具なんかはまだいい。長く使い続けるものだからだ。だが、普段から使用する食器なんかがどれも高級品では気が休まらない。
 いつ割れるかも知らないものを毎日使い続けるなんて、庶民派の私にとってストレスになる。

「そ、そういう高いものより、私は雑貨屋さんとかで安くても使いやすく、なおかつ可愛いのがいいです! あっそうだ。私のよく行く雑貨屋さんに行きましょう」

 否応なく意見を押し通し、内山さんに頼んで雑貨屋へと向かった。途中「これだから庶民は」という玲二の呟きが聞こえたが軽く受け流した。

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