【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ

文字の大きさ
12 / 44

11.新婚の初夜は

しおりを挟む

 とうとうこのときがやってきた。
 お風呂から上がり、髪も乾かしてリビングルームのソファに腰掛ける。いつもとは異なるシャンプーの香りに落ち着かない気分でテレビを眺めていた。番組内で芸能人たちが何やら盛り上がっているが、会話の内容など耳に入らない。

「おい」
 
 突如声をかけられ、びくりと肩が跳ねる。
 心臓も早鐘を打ち始め、逃げ出したい気分に陥った。
 人形のようにぎこちない仕草で声の主ーー玲二を見やる。

「なに固まってんだ?」

「別に固まってなんて……」

「いや、どう見ても固まってんだろ。……もしかして、緊張でもしてんのか? ……お前、まさか処女だったりーー」

 下世話な話題に怒りが込み上げ、ソファを勢いよく立ち上がる。そして悪感情を込めて玲二を睨みつけた。

「ば、馬鹿にしないでください! わ、私別に処女じゃないです! ほんっとデリカシーのない……」

「ふうん、お前みたいなお子様を相手にする男なんて物好きなやつもいたもんだな」

 どこか不満げな様子でいい募る玲二に売り言葉に買い言葉で言ってしまう。

「豊富とまではいきませんが、あなたの知らないところでそれなりに経験積んできてるんです。子供扱いしないでください」

「そうか、なら今晩お前を泣かせても問題ないわけだ」

「え、」

 言葉を続ける前に玲二は私の腕を掴み、自身の身体に引き寄せる。急激に距離が縮まることにより、ふわりと石鹸の香りがした。いつもは大人びた香水の香りに加え、ほんの僅かに苦い煙草の香りを纏わせているがお風呂上がりのためか私と同じ香りがした。
 けれど玲二の身体から漂っているものだと考えるだけで、心臓がぎゅっと締め付けられる感覚を覚えてしまうのは私が男性慣れしてないからだろう。

 玲二にはああ言ったが、私はそこまでら経験を積んではいない。むしろ友だちの話を聞くと同年代の中では少ない方なのではと思わされるほどだ。

「い、いきなりなにを……」

「髪、いつもよりしっとりしてるな。適当に乾かしたな? それに石鹸の香りが濃い」

「…………っ」

 玲二は私の頭に顔を近づけ、後頭部を片手で押さえる。抱き込まれるような体勢になると、反抗心が徐々に萎びていく。

 どくどくと脈打つ鼓動が眼前の玲二にまで届いてしまいそうなほどで、狼狽していることにはすでに気づかれているだろう。

「すげぇ顔。赤くなりすぎ」

「そ、れは……」

 苦手なはずなのに。
 どうしてこんなにも彼の体温は私を落ち着かなくさせるのだろう。

 女遊びが派手な様子はよく見ていたのに。
 異性と抱き合うことも玲二は慣れっこだろう。

「は、離してください……色んな女性と親しい玲二さんにはわからないかもしれませんが、普通こんなことしません」

「俺たちは普通の関係じゃない。すでに夫婦だ」

「……っ、ふざけないでください」

 胸元を押しやり、抵抗の意を示す。
 だが力の差がありすぎて、玲二はびくりとも動かなかった。私も緊張で体に力が入ってないことも関係あるだろう。

 私を抱きすくめる玲二はすぐに反応を示すことはなかった。けれど。



「ーーーーふざけてなんかない。俺は本気だ」

 耳元で囁く声は官能的であり。 
 そしてなにより聞いたことがないほど甘かった。

 あまりの色っぽさに影響されて私は目元を潤ませる。そのまま頭上にある玲二の顔を見上げた。
 ばっちりと視線がかち合う。玲二が息を呑むのがわかった。その瞬間。

「……んっンンン!」

 甘く、噛み付くように唇が合わさる。
 3回目のキスも、また熱く一方的に奪われるようなキスで。

 これもまた俺様な玲二らしいキスに翻弄された私は反射的に目をぎゅっと閉じる。
 玲二の熱く濡れた舌が私の唇の輪郭をなぞり、口唇を無理やり開かせて内部へと侵入すら。ぬるりとした厚みのある舌に背中がぞくりと震え、目端から涙が一粒こぼれ落ちた。
 縦横無尽に動き回る舌が私のそれに絡みつき、息苦しさに口を開き酸素を取り入れようとするものの玲二は許さない。

 ゆっくりと唇同士が離れたとき酸欠で頭がくらくらするほどで、私は肩を息をする。
 目の淵に溜まった涙が頬を濡らした。

 眼前の玲二に視線を送ると目の奥に宿るのは男の欲望で。
 私は息を切らせながらも背中に電気が走り去るように体を震わせる。

 嫌じゃなかった。
 
 初めてされたときは異なり、嫌悪感などまったく浮かぶことなく、むしろキスの甘さに酔いしれてしまった。玲二と混じり合うことにふわふわとした自分でもよく分からない気持ちが溢れてくる。

「……すげぇ可愛い顔」

 言葉に頬を染め上げる。
 可愛い、など初めて玲二の口から聞き心臓がはち切れそうだった。
 虚げな私の頬を優しく撫で上げ、手の甲でくすぐる。まるで小動物の相手をするかのような優しげな手つきに胸がキュンと高鳴ってしまう。

 一体どうしたのだろうか。

 夢見心地のような私は自然と玲二の唇に自らのそれを合わせていた。素面ならば出来ないことだったが、この甘すぎる雰囲気に流されてしまっているのが自分でも分かっていたのだが。

「……くっ、」

 触れた瞬間、玲二の喉が鳴るのが分かり、知らず知らずのうちに視線を向けていた。
 視線が合わさったそのとき。
 玲二は今まで纏っていた空気が嘘だったかのように急激に頬を染め上げ、私の肩を突き放した。

 くらりと身体が倒れそうになる私をよそに玲二は言い捨てるかのように口を開く。


「……くそっ、ほんとに襲うぞ。このバカ」

 
「………………いいですよ」

 私の口から自然と言葉が紡がれる。
 
 抱かれてもいい。むしろ玲二の熱を感じてみたい。状況に流されているだけなのかもしれないと思いつつ、私は不思議とそう思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

陛下の溺愛するお嫁様

さらさ
恋愛
こちらは【悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される】の続編です。 前作を読んでいなくても楽しんで頂ける内容となっています。わからない事は前作をお読み頂ければ幸いです。 【内容】 皇帝の元に嫁ぐ事になった相変わらずおっとりなレイラと事件に巻き込まれるレイラを必死に守ろうとする皇帝のお話です。 ※基本レイラ目線ですが、目線変わる時はサブタイトルにカッコ書きしています。レイラ目線よりクロード目線の方が多くなるかも知れません(^_^;)

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

処理中です...