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14.ルナトーンの新作コスメ
しおりを挟む今回のルナトーンコスメは今までとはイメージをガラッと変えたものだった。
テーマは『自由な美しさ』。
元来のルナトーンは幅広い年代層に向けて万人受けの化粧品を提供してきていた。それこそ化粧を始めたての学生から、大人の魅力あふれる主婦層まで。
手軽で普段使いしやすいをテーマとして数々の商品を発売していた。
かくいう私もそこまで化粧にこだわりのない私でさえ、ルナトーンのコスメはいくつか所持している。
月ノ島はルナトーン以外にもいくつかコスメブランドを所持しているが、1番に名前が上がるのはやはりルナトーンだ。
撮影が始まる前、私と玲二は向かい合っていた。
今は夫婦ではなく、あくまで仕事の関係としてこの場にいた。玲二はルナトーンの宣伝するという目的をもつ雇い主で、私はそのイメージモデルを勤める女優。
和気藹々としていた現場も、今は皆忙しそうに動き回っている。
私は撮影用に貸し出されたレトロクラシカルなワンピースに袖を通し、真剣な顔つきで玲二の話を聞いていた。
「今回のテーマ『自由な美しさ』というのはここ数年でSNSも大きく発達し、各々の個性が尊重される時代になった。それによって日本人特有の人に合わせるという文化は海外の自由な発想に感化され、多種多様なメイクが生まれてきた。ーーだからこそ、没個性ではない、自分に一番似合ったメイクをして欲しいとの願いを込めてこのテーマに決まったんだ」
「自由に、一番にあったメイク……」
「ああ。今回ロケをヴェネツィアにしたのは、裏のテーマが『水』だったからだ」
玲二は語る。
水は自由にその形を変化させる。
今回の表のテーマにもぴったりだと。
そして多くの人が憧れる水のように透明感のある肌をイメージしたというのもあるらしい。
「ヴェネツィアは見ての通り水上都市だ。カナル・グランデのような大運河によって市内を二分され、移動手段として水上バスやゴンドラを使う」
初めて見たときは運河の青さと空の青さ、そして建物の美しさに目を奪われたものだ。
玲二の言葉に頷くと、彼は続けた。
「今回の撮影ではルナトーンの神作で化粧を施したお前がヴェネツィアの各名所を巡るというシンプルな構成だ」
「こういうのもあれなんですけど、私、こういう本格的なロケは初めてで……」
今までは演劇ばかりしてきた私にとって、撮影というものは身近なものではない。
幼い頃、母に連れられて何度か現場に足を運んだことと、女優を目指してから何度かエキストラとして参加したことはあった。だが、自分がメインとなる撮影は今回が初めてだ。
緊張で手が冷え、心臓の高鳴りが鎮まらない。落ち着かない様子で口を開いた私に対し、玲二はぽんと頭に手を添えた。
「全員初めは初心者だ。あまり気負うな。今回は『自由』であることがテーマなんだから、普段通りに振るまえ。カメラを気にするな」
そんなことを言われても、緊張感は拭えない。小さく返事を返しながらも顔の強張りが解けないことに気がついた玲二は少し考え込み。
「こはる、こっち向け」
「……?」
言われた通りに顔を向ける。
玲二の顔つきは真剣で。
「難しく考えすぎるな。お前は女優。ここは舞台。ただそれだけのことを考えろ。普段通り振るまえとは言ったが、芝居をするなとは言ってない。ーーつまり好きな通り、お前が思うように自由に芝居をするんだ」
「…………!」
目を見開き、玲二の迷いのない双眸を真っ直ぐに見つめる。かち合った視線を外すことが出来ず、数秒見つめあった。
先程までの私は撮影のために特別なことをしなければとしがらみに囚われ続けていた。
だが、玲二が伝えたかったのはそうではなく、ただいつも通りに芝居をすればいいだけとのことだった。
舞台で演じる楽しさや開放感ならば誰よりもよくわかっている。
女優になりたいと思った日、瞼の裏に焼き付いている母の怪演。今まで培ってきた演技力。千秋楽の感動。
様々な思い出が脳内を駆け巡り、気づけば身体に力が湧いてきていた。
先程までは緊張のせいで震えていたはずなのに、今はそれも止まっている。
「お前の魅力を日本に、いや世界に伝えてやれ」
「……っ、はい。玲二さん、ありがとうございます」
心から感謝を込めて玲二に微笑みかける。昔はあんなにも苦手だったはずなのに、ここ最近の短期間で玲二は私のヒーローになりつつあった。
彼に自分の演技を見てもらいたい。納得してもらいたい。
そしてなにより認めてもらいたい、私を選んで良かったと思って欲しい。
だからこそ、私はこの撮影に全力で挑む。
「花宮さん、撮影準備完了しました! 撮影に入りますのでよろしくお願いします」
撮影現場のスタッフの声が耳に届く。私は「分かりました」と返事をした。
カメラの前に歩き出そうと歩み始めるが立ち止まり、玲二に振り返る。
「ほら、いってこい」
彼はいつものように嘲笑うかのような傲慢な笑みを浮かべている。
私もそれに釣られ、口元に弧を描いた。
「はい、行ってきます」
そう言い残し、歩き出した。
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