【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
1 / 49

1.不運

しおりを挟む

 その日はいつも以上に不運の連続だった。
 仕事が久しぶりに休みのため、有名なスイーツ店で美味しい甘味を買おうと遠出をしていた。けれど行く道先々で酷い押し売りに会ったり、すれ違いざまに財布と小物入れをすられそうになったり。ようやく到着したと思った矢先、目にしたのは『本日休業』の看板。とことんついていない日だった。

「こんなことなら欲を出さずに近所に売ってる甘味でも買って、家でゆっくりしとけばよかったわ」

 ため息をつきながら帰路についていると、手のひらサイズの妖精たちがふわふわと飛び交っているのが目に入った。まるで不運な私を労うかのような行動に少しだけ心が温まる。
 不可視とも言える妖精を目にできるのは私、ステレ・リートの力で、生まれつき持つ特別な能力であった。

 私の住むバルテリンク王国は昔から妖精と共生している国。四方を海と森で囲まれており、世界でも有数の貿易港を持つ一大国家である。
 妖精たちは私たち人間に様々な恩恵をもたらしてくれる存在なのだが、特段力の強い妖精以外は基本的に不可視の存在であった。けれど、まれに妖精との親和性の高い人間が生まれることがあるのだという。それが私なのだ。

 妖精の愛らしさに頬を緩めていると、すれ違う人々が不審そうな面持ちでこちらに視線を寄越してくる。

 ああ、またやってしまった。

 人には見えないものが見えることの欠点を味わいながら、羞恥で赤らんだ顔を伏せ早足で歩いた。
 実際に見えている者を見えていないように振る舞うというのはなかなか難しく、昔から変わり者として扱われることが多かった。それもそのはず、虚空を見つめて一人で笑ったり驚いたりしているのだから。

 特別な力による弊害を味わい、苦虫を潰したような顔で歩いていると、どうやら前方に人だかりが出来ていた。奇妙に思いながら側へと足を向ければ、どうやら揉め事があったようだった。先ほどから歩いている場所は大通りから少し外れた小道で、まれに商人同士のいざこざが起きる場所なのだ。今回はというもの、巡回していた騎士たちのおかげでどうにか場を納めることが出来ているようだった。

「……あ、」

 そんな中、騎士たちの中に見知った顔を見つけ、私は咄嗟にフードを深く被った。けれどその行動は一足遅かったようで、その相手──コルネリウス・ホーエンハルトと視線がかち合ってしまった。まずい、と思ったのも束の間、途端コルネリウスは眉根を寄せ、まるで私を咎めるような視線を向けたあと、飽きたのかすっとを逸らす。
 数秒前まで野次馬となった市民たちを解散させようと普通に職務に励んでいたはずなのに。まるで私の存在を目にして不快だと言わんばかりの対応に、腹の中からムカムカと怒りが込み上げてくる。
 
 人混みに押し流されながら怒りに打ち震えていると、気づけばコルネリウスたち騎士は解散したようでその場から消え去っていた。やり場のない怒りは急激に鎮火し、今日の不運も相まって気鬱さが押し寄せてくる。

 以前より、私はコルネリウス・ホーエンハルトという男に嫌われているようだった。

 きっかけは思い出せない。というよりも、何度か挨拶をしたことがある顔見知り程度の存在なのだ。

 私は2年前──20歳の頃から冒険者ギルドで受付嬢として働いていた。母親が元受付嬢であったという安直な理由だったが、かなりの激務かつ休みを取りづらい点以外は優遇された環境であった。給与面に関しても、その激務を労うかのように同年代の人間に比べれば稼ぎは良いし、共に働く仲間たちも信頼のおける人ばかりだ。

 だが何事も例外はあり。コルネリウスというという男だけは別だった。

 冒険者ギルドは国の防衛を目的とし、ときどき騎士団と共同で演習などを行う。それ以外にも冒険者という人種は荒くれ者も多く、頻繁に巡回として騎士がやってくるのだ。

 何かと接点が多いゆえか、ギルド職員と騎士は恋人や夫婦となることも多い。騎士は基本的に男性ばかりで、ギルドには受付嬢など女性も多く所属しているからだ。必然的に出会いの場となるのも納得できる。

 かくいう私も、就職する前はエリート職の代表格とも言える騎士との恋を夢見ていたのだが──そんな理想はいとも容易くぶち壊された。それもこれもコルネリウスのせいだ。

 彼は初対面の頃から私にだけ当たりが強かった。

 ギルドへの巡回で顔を合わせた時も──。

『おつかれさまです、コルネリウス様』

『…………なんだ、いたのか』

 ぎろりと鋭い視線で睨まれ、挨拶を返すことなく去っていく。他の受付嬢に対しては、にこやかとは言い難いが『お疲れ様』と普通にコミュニケーションをとっているのに。

 一体私がなにをしたというのだろうか。

 コルネリウスが冷たいことの弊害なのか、彼の部下たちも私に対してはかなりぎこちない。妖精の件から稀に虚空を見て笑ったりする変わり者だと噂されることもあるが、そこまで距離を置かれるのは心外である。

 おおかた、お貴族様──コルネリウスが嫌ってる人間なのだから、それに付き従う人も接しづらいのだろう。
 
 そうこう考えているうちに自宅まで辿り着く。
 すでに空は燃えるような赤一色で、夕暮れ時を感じさせた。手荷物をテーブルに置き、私は窓辺にある植木鉢に声をかけた。

「ただいま、リーフ」

 その瞬間、親指サイズの妖精が姿を現し、私の周りをくるくると飛び回る。リーフと名付けたその妖精は私の育てている植物を住処としており、一人暮らしを始めたときからの相棒ともいえる存在であった。
 就職祝いとして両親から贈られた植木鉢に妖精が住み着いていたことには驚いた。元々妖精とは会話ができないのだが、その愛くるしい姿を目にするだけで癒される。
 それゆえ、何か辛いことや楽しいことがあったときには一方的に話しかけ、気持ちを共有しているつもりだった。

 リーフは妖精の中でも感情豊かな方だ。私が同居人であると理解し、先ほどのように周囲を飛び回ったり、頭や肩に乗ったりすることもある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...