【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
7 / 49

7.ぎこちない朝

しおりを挟む

 朝、小鳥の囀りが聞こえ始めた頃。目が覚めた瞬間、まず視界に映ったのは恐ろしいほどの形相をしたコルネリウスであった。腕を組み、仁王立ちしている姿はまるで寝物語に登場する大魔王のようで。

「…………ええと、おはようございます」

 場違いなれど、とりあえず挨拶をするも彼はむっつりと口を結んでいる。いつにもして険しい面持ちでわたしを睨みつける蒼い目の下には珍しく隈ができていた。そこでようやく自分が昨晩なにをしでかしてしまったのか思い出した。

「…………っ!」

 声にならない声を上げ、枕に顔を突っ伏せる。それでもなお記憶に刻まれた自らの犯した痴態がフラッシュバックし、身体中の熱が顔に全て集まってきたかのように赤面する。

「ようやく思い出したか。よく平然と挨拶できるなと感心するところだった」

「……ええ、昨晩はその……色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 ベッドに正座をしながら俯きがちに謝罪する。本意ではないといえど、あられもない姿を見せてしまった事実は変えられない。

 テオドルスは私が身の置き場のないほど縮こまっている様子を余程不憫に感じたのだろう。あからさまなため息をついたあと「もういい」とこぼす。そしてそのまま続けた。

「だが、これこらはあのように勝手に行動するのだけはやめろ。……まあ、お前の身体を張った検証のおかげで色々と分かったこともあるのは認めるが。1メートル程度が離れることのできる許容範囲とかな」

 私はこくりと首を縦に振る。そして昨日起こったことの原因とも言える手枷に視線を送った。

 どうやら互いが離れてしまうと気絶するだけと思っていたが、それは全くの間違いで。

「……身体が燃えるように熱くなって、それからわけが分からなくなりました。何と言えばいいのか。気持ちよくなりたいって気持ちに頭が支配されて、押し流されていって……制御が効かなくなる感じです」

「そうか。最初、お前の家で気絶したのも身体が突発的な発情というものに耐性がなかったからとも考えられるな。……だが、冷静に考えれば、あの時の拘束具は今以上に光を放っていた気がする。二度目のときはそうでもなかったから気がついたのだが……」

「うーん。もしかすると、あのときは手枷の呪いを受けたばっかりだったので、呪い自体の制御がうまくいってなかったり、暴走していたり……とかもありそうですね。考えたらキリがなさそうですが」

 コルネリウスは眉間の皺をさらに深め、無愛想に頷いた。そして口を開いた。

「結局のところ、離れたら発情するということは分かった。何とも馬鹿げた話だが。しかし、次回は発情ではなく、怒りに支配されるとか笑いが止まらなくなるだとか……変化する可能もなくはない」

 変化する可能性。
 あるにはあるが、昨晩のことが身に沁みた私にとって、また試してみようと気はすでに消えていた。怒りや笑いが止まらなくなるであれば、どれほどマシだったか。
 
 男性経験のない私にとって、初めての性的な接触があのようなアクシデントによるものだったというだけで心が折れそうだった。痴女の如く、自ら胸を擦り付けにいったところなどできれば忘れていたかったのに。

 気を抜けば、奇声を発してどこかへ消え去ってしまいたい衝動に駆られる私に対し、コルネリウスは一言告げた。

「だが、確実な収穫はあった」

 そしてサイドテーブルに置かれた分厚く汚れた古本を手に取る。

「──ここに解呪の方法が書かれている」

「ほんとうですか!?」

 聞けばあのあと気を失った私を横に、コルネリウスは目的の書物を探し出してくれていたらしい。1メートル以上離れられないという制限のせいで多少手間取ったらしいが、さすがの優秀さである。

 そのせいで隈を作っていれば申し訳ないと思い、尋ねれば「それはなくはないが……」と言って視線を外し、押し黙ってしまった。
 常であれば、文献探しにはほぼ協力できなかった私を責め立てる場面であるのに。あの人らしくないと頭を捻っていたが、それより今は喜びの感情が大きかった。
 
 コルネリウスの言動を尻目に、私は少しだけ浮かれていた。目標であった呪いの解呪に大きく近づいたのだから。

 にこやかな私とは裏腹に、彼は苦悶の表情で古書を睨みつける。まるで親の仇に相対したかのような形相で目的のページを開いた。

「ここにはこう記されている──『不破昵懇ふわじっこんの術は対象者2名を拘束具で繋ぎ、強制的に打ち解けさせる呪い。親密度が定められた目標値を超えた場合に解呪される』とのことだ。ちなみに一定距離を離れたときに関する記述は文献になかった」

「そう、なんですね……不破昵懇ふわじっこんの術。それが私たちにかけられた呪いの名前……それに親密度って。大司教様がおっしゃってた通りの話ですね。どうやって測ればいいんでしょうか」

 思い悩む私に対し、コルネリウスは思い詰めた様子で黙り込んでいた。だが意を決したのか、再度口を開き始める。

「そうだな。親密度だなんて言われても俺たちには目に見えないものだからどうしようもない。そのことだが……文献には続きがあった」

「続き……ですか?」

「ああ──『親密度は心と身体の触れ合いによって高まる。具体例として挙げれば、性的接触を幾度か重ねることで解呪した記録がある』とのことらしい」

 性的な接触──昨日のようなことを繰り返す?

 コルネリウスの言葉は冷静さを吹き飛ばすものだった。
 
「つまり昨日のあれを何回もしないと解けないってことですか!?」

「…………ああ」

 コルネリウスはバツが悪そうな様子で目を逸らした。
 そしてようやく合点が入った。彼の様子が先ほどからおかしいことの──。

「だからさっきから言いづらそうだったんですね。昨晩のアレみたいやことを今後も繰り返さないといけないって分かって……」

 ぎこちない沈黙が部屋に広がった。
 コルネリウスがどう考えているのかは分からないが、性的な接触をしなければ日常生活もろくに送れなくなる。いつまでもこのままであるなど絶望的という他ない。今は殊勝な様子も垣間見えるが、コルネリウスという男は本来、私のことを特に嫌っているのだ。嫌味や高圧的な態度などを繰り返す人間と一生離れられないなど気が狂うこと間違いないだろう。

「……解呪をするために必要なことならばやりましょう」

「……仕方がないな」

 互いの思いは一致した。
 
 同時に部屋の外からはカーンカーンと鐘の音が聞こえてきた。朝を知らせるその音により、人々は活動を始めるのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...