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26.告白
しおりを挟むコルネリウスは命令口調で指示を出した。
「そんな、私もついて行きます」
「いや駄目だ。言ってなかったがその妖精リーフとやらがまたどんなイタズラをするか気が気ではないしな。他人に同じようなことをする可能性も否定できない。故にこの部屋で妖精の監視をすることがお前の任務だ。これは騎士としての判断で、従ってもらわなければ困る」
私を突き放したいという感情がその口ぶりからはっきりと滲み出ていた。心臓がつきりと痛みを訴える。
手枷の件で少しは距離が近づいたように思ったが、それは勘違いだったと線引きされたようだった。
コルネリウスとは視線が合わなかった。
またも部屋に静寂が跨った。ぱたぱたと不思議そうに周囲を飛び交っているリーフだけが別世界のようで、私たちは第三者から見れても完全に険悪に見えるだろう。この雰囲気でコルネリウスの命令を拒否するなど不可能だった。
「…………分かりました」
彼はすでに背中を見せていた。
私は雰囲気に流されるように承諾した。
コルネリウスはその後何を言うでもなく、そのまま扉に手をかける。最後に「明日、また来る」と言って去っていった。
目の前でばたりと閉められた扉はまるで私たちの関係を遮る心の壁のようだった。
夜、私は久しぶりに自分のベッドに潜り込んだ。
ここ数日間、初めてのことばかりで心が休まらない日々が続いていた。常に隣にコルネリウスがおり、人の存在を感じて過ごしていた。
一人ははとても静かだった。
常に感じる人の気配も、妙に心を落ち着かせる肌の香りも、高級感のあるマットレスやシーツもここにはない。
ただひたすらに変わらない日常が戻っていた。
求めていた静かな空間と一人の時間。
ずっと解呪がしたかったはずなのに、今はとても人恋しい。
ベッドの側の床にはコルネリウスがプレゼントしてくれた靴を置いていた。
瞼を閉じ、眠ろうと意識を閉じる。けれど私の前を歩くコルネリウスの後ろ姿が自然と頭に浮かぶ。すらりと長い手足に程よくついた筋肉。広い肩幅と逞しい胸で抱きしめられれば、深い安心感を抱いた。
今の私はちょっとだけ動揺しているだけだ。
今までそばにあったものが突然なくなったことに違和感を覚えているんだ。
そう何度も言い聞かせる。
しばらく瞳を閉ざしていれば、意識は自然と夢に溶けていった。
・・・
翌朝、それは仕事に行く時間より少し早かった。
扉が数度叩かれ、私は駆け足で近寄り扉を開けた。
コルネリウスがやってきた。そう思っていた。だが。
「おお! ステレ、朝早くわりぃな」
「バルテル?」
扉の外にいたのは昨日会ったばかりのバルテルだった。
予想外の人物に目を丸くしていれば、彼は若干狼狽えたように視線を逸らす。
「実はな、昨日あの騎士がギルドに来てたんだが……どうやら例の呪い? ってやつ、解けたみたいだな。ギルド長に報告してるのを盗み聞き……いや、偶然耳にしたんだ」
「今盗み聞きって今言って……」
「お、お前の聞き間違いだ。まあそんな感じで、ステレの家にもう一回来てみたわけだ。心配だったし。その様子を見ると、今はあの騎士はいねぇみたいだな」
バルテルはどこか気分晴れやかな様子だった。
けれどその様子はすぐに消え、眉尻を下げてがっくりとうなだれた。
「大変なとき、そばにいられなくてわりぃな」
呟いたあと、バルテルは私の頭をガシガシと撫で回した。強引でガサツな手の感覚に昔を思い出して安心感を覚え、私はこっそり彼に見られないよう微かに微笑む。そして「髪が崩れるでしょ」とツンと言葉で跳ね返した。
バルテルは「そうか」と言って笑った。それはいつもの豪胆な笑いとは異なる、どこか切なさの入り混じったようなもので。
心に灯った疑念に口を開こうとするも、先に言葉を発したのはバルテルの方だった。
「ステレが辛ぇと俺も辛ぇからさ。なんともなくてよかった。それにあの騎士と一緒に居続けてるってだけで……くそっ、やっぱ腹立って仕方ねぇや」
「うーん、そう思う? でもコルネリウス様、意外といい人だったよ」
自然とコルネリウスを庇うような言葉を口にしていた。もちろんバルテルに心配をかけないようにしなければという心情もあったのだが。
私の考えとは裏腹に、彼は不機嫌そうに何度か悪態をついたあと顔を上げる。髪と同じ赤い目で私を見据えた。
「──俺はお前の口からそんな言葉聞きたくねぇんだ」
バルテルの視線はいつもと違うひたむきさが滲み出たものだった。
いつに増して真剣な表情をしている彼に困惑する。
バルテルは私と接するとき、基本おちゃらけているか、はたまた兄貴分としての本文をまっとうするように振る舞うかのどちらかだった。
ぎこちない空気が流れた。
ほとんど家族といってもいい近しい存在であるバルテル。なぜ彼はこれほどに真剣な眼差しを向けてくるのだろうか。
落ち着かず、息苦しい空気から脱しようと笑みを張り付けながら話しかける。
「ど、どうしたの、バルテル? そんな真面目な顔しちゃって!」
男の表情は変わらない。
逆に一層なにか覚悟を決めたように見えた。
バルテルは私の手を取る。
固く節くれだった指先に一瞬コルネリウスが頭をよぎる。けれどすぐに掻き消された。
「──好きだ、ステレ。小さい頃からお前のことがずっと好きだった」
ひゅう、と風が吹き抜けていった。
「……ぁ」という小声が聞こえた気がして、バルテルを通り越したその先に人がいたことに気がつく。
そこにいたのはコルネリウスだった。
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