【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
26 / 49

26.告白

しおりを挟む

 コルネリウスは命令口調で指示を出した。

「そんな、私もついて行きます」

「いや駄目だ。言ってなかったがその妖精リーフとやらがまたどんなイタズラをするか気が気ではないしな。他人に同じようなことをする可能性も否定できない。故にこの部屋で妖精の監視をすることがお前の任務だ。これは騎士としての判断で、従ってもらわなければ困る」

 私を突き放したいという感情がその口ぶりからはっきりと滲み出ていた。心臓がつきりと痛みを訴える。
 手枷の件で少しは距離が近づいたように思ったが、それは勘違いだったと線引きされたようだった。

 コルネリウスとは視線が合わなかった。
 またも部屋に静寂が跨った。ぱたぱたと不思議そうに周囲を飛び交っているリーフだけが別世界のようで、私たちは第三者から見れても完全に険悪に見えるだろう。この雰囲気でコルネリウスの命令を拒否するなど不可能だった。

「…………分かりました」

 彼はすでに背中を見せていた。
 私は雰囲気に流されるように承諾した。

 コルネリウスはその後何を言うでもなく、そのまま扉に手をかける。最後に「明日、また来る」と言って去っていった。

 目の前でばたりと閉められた扉はまるで私たちの関係を遮る心の壁のようだった。


 夜、私は久しぶりに自分のベッドに潜り込んだ。
 ここ数日間、初めてのことばかりで心が休まらない日々が続いていた。常に隣にコルネリウスがおり、人の存在を感じて過ごしていた。

 一人ははとても静かだった。
 常に感じる人の気配も、妙に心を落ち着かせる肌の香りも、高級感のあるマットレスやシーツもここにはない。
 ただひたすらに変わらない日常が戻っていた。

 求めていた静かな空間と一人の時間。

 ずっと解呪がしたかったはずなのに、今はとても人恋しい。

 ベッドの側の床にはコルネリウスがプレゼントしてくれた靴を置いていた。

 瞼を閉じ、眠ろうと意識を閉じる。けれど私の前を歩くコルネリウスの後ろ姿が自然と頭に浮かぶ。すらりと長い手足に程よくついた筋肉。広い肩幅と逞しい胸で抱きしめられれば、深い安心感を抱いた。

 今の私はちょっとだけ動揺しているだけだ。
 今までそばにあったものが突然なくなったことに違和感を覚えているんだ。

 そう何度も言い聞かせる。

 しばらく瞳を閉ざしていれば、意識は自然と夢に溶けていった。


・・・


 翌朝、それは仕事に行く時間より少し早かった。
 扉が数度叩かれ、私は駆け足で近寄り扉を開けた。
 コルネリウスがやってきた。そう思っていた。だが。

「おお! ステレ、朝早くわりぃな」

「バルテル?」

 扉の外にいたのは昨日会ったばかりのバルテルだった。
 予想外の人物に目を丸くしていれば、彼は若干狼狽えたように視線を逸らす。

「実はな、昨日あの騎士がギルドに来てたんだが……どうやら例の呪い? ってやつ、解けたみたいだな。ギルド長に報告してるのを盗み聞き……いや、偶然耳にしたんだ」

「今盗み聞きって今言って……」

「お、お前の聞き間違いだ。まあそんな感じで、ステレの家にもう一回来てみたわけだ。心配だったし。その様子を見ると、今はあの騎士はいねぇみたいだな」

 バルテルはどこか気分晴れやかな様子だった。
 けれどその様子はすぐに消え、眉尻を下げてがっくりとうなだれた。

「大変なとき、そばにいられなくてわりぃな」

 呟いたあと、バルテルは私の頭をガシガシと撫で回した。強引でガサツな手の感覚に昔を思い出して安心感を覚え、私はこっそり彼に見られないよう微かに微笑む。そして「髪が崩れるでしょ」とツンと言葉で跳ね返した。

 バルテルは「そうか」と言って笑った。それはいつもの豪胆な笑いとは異なる、どこか切なさの入り混じったようなもので。
 心に灯った疑念に口を開こうとするも、先に言葉を発したのはバルテルの方だった。

「ステレが辛ぇと俺も辛ぇからさ。なんともなくてよかった。それにあの騎士と一緒に居続けてるってだけで……くそっ、やっぱ腹立って仕方ねぇや」

「うーん、そう思う? でもコルネリウス様、意外といい人だったよ」

 自然とコルネリウスを庇うような言葉を口にしていた。もちろんバルテルに心配をかけないようにしなければという心情もあったのだが。

 私の考えとは裏腹に、彼は不機嫌そうに何度か悪態をついたあと顔を上げる。髪と同じ赤い目で私を見据えた。

「──俺はお前の口からそんな言葉聞きたくねぇんだ」

 バルテルの視線はいつもと違うひたむきさが滲み出たものだった。

 いつに増して真剣な表情をしている彼に困惑する。
 バルテルは私と接するとき、基本おちゃらけているか、はたまた兄貴分としての本文をまっとうするように振る舞うかのどちらかだった。
 
 ぎこちない空気が流れた。
 ほとんど家族といってもいい近しい存在であるバルテル。なぜ彼はこれほどに真剣な眼差しを向けてくるのだろうか。

 落ち着かず、息苦しい空気から脱しようと笑みを張り付けながら話しかける。

「ど、どうしたの、バルテル? そんな真面目な顔しちゃって!」

 男の表情は変わらない。
 逆に一層なにか覚悟を決めたように見えた。

 バルテルは私の手を取る。
 固く節くれだった指先に一瞬コルネリウスが頭をよぎる。けれどすぐに掻き消された。

「──好きだ、ステレ。小さい頃からお前のことがずっと好きだった」

 ひゅう、と風が吹き抜けていった。
 「……ぁ」という小声が聞こえた気がして、バルテルを通り越したその先に人がいたことに気がつく。

 そこにいたのはコルネリウスだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...