【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
27 / 49

27.苛立ち

しおりを挟む

 バルテルの思わぬ告白、そしてそれにちょうど居合わせたコルネリウス。色んなことが重なりすぎて、頭が真っ白になった。

 一瞬コルネリウスと視線がかち合った視線をさっと逸らし、眼前のバルテルへと向ける。彼の視線は情熱的で、初めて見る男の顔をしていた。
 この告白が冗談などではなく、ただひたすらにまっすぐな思いをぶつけられているのだと理解する。

「俺のこと、考えてくれないか」

 バルテルは懇願するように私の手を包み込んだ。触れられた手がとても熱い。私は何か言わなければという思いで口を開こうとする。だがそれよりも早く──。

「──こんなところで告白か」

 バルテルからの告白の一部始終を見ていた見ていたコルネリウスが間に割り込んだ。その表情は苦虫を噛み潰したよう歪んでおり、言葉には分かりやすい棘が含まれていた。

「……っ、お前聞いていたのか」

「ああ。人がやってきているというのに、恋愛ボケして気付かないなんて。高ランク冒険者が聞いて呆れるな」

「お、お前には関係ないだろ。これは俺とステレの問題だ」

 バルテルは鼻持ちならないといった様子で眉間に皺を寄せ、私の手を強く引き寄せた。体勢を崩し、気がつけば逞しい腕の中におさまっており、それを見てコルネリウスの態度はさらに頑なになっていき。

「はっ、二人だけの問題か。お熱いことだな」

「ああそうだ。お前には関係ない。だからさっさとどっか行け」

「ば、バルテル……ちょっと待って。コルネリウス様は呪いの件で報告にいらっしゃったんだから」

 割り込む形で意見を伝えれば、バルテルは口惜しいといった面持ちで押し黙る。
 
 二人は今冷静ではない。
 だからこそ、この感情の炎を鎮火させなければと干渉したのだが。

 コルネリウスはどうやら腹の虫が治らないのか、いつもに増して不機嫌になっていく。私は彼に懇願するように「コルネリウス様」と名前を呼んだ。

 声を聞いたコルネリウスは刹那の刻、瞳を揺らす。だが次の瞬間にはぐっと下唇を噛み締め、まるで心の棘を撒き散らすように言葉を吐き出した。

「……お前もここまで好色な女だと知らなかった。男の胸に収まって文句の一つも言わないとは。自分を満足させてくれる男なら誰でもいいのか」

「そ、そんなことっ」

 私は無意識の内に否定していた。
 そんなことを思われているだなんて心外でもあって、心にぐさりと突き刺さる。

 傷ついたことを察してか、バルテルはコルネリウスに咎めるような視線を送った。

「おい、クソ騎士! 俺に言うだけならまだしも、ステレにまで当たるとはやはり貴族は貴族だな。俺たち平民を見下してやがる」

 我慢がならないとコルネリウスの元に近寄り、その胸ぐらを掴んだ。完全に怒りに呑み込まれており、全身を戦慄かせている。このままでは暴力に発展しかねないと思い、私は反射的に「やめて!」と叫んだ。

 以前二度の喧嘩の仲裁をしたが、その時とは比べ物にならないほど切羽詰まっていた。
 訳もわからない苛立ちと悲しみが波のように押し寄せ、自分でも感情の整理がつかなかった。

 けれど一つだけ言えるのは、コルネリウスの言葉にひどく傷ついた自分がいることだった。これまで様々な嫌味を吐かれてきたが、それでも何処か余裕のある自分がいて。キツイ態度を取られたとしても受け流せる心の土台があったはずなのに──今はなぜかとても苦しい。
 やることなすことすべてが空回りしているような気がした。

 この場から走って立ち去りたい衝動に駆られる。
 だが理性の中の自分がそれを許さない。

「……もうほんと……やめてください。二人とも、落ち着いて」

 最後は消えてしまいそうなほど尻すぼみになった。声を震わせないことばかりを考え、拳を強く握りしめて堪えた。

 私は最初にバルテルに向きあった。

「バルテル。告白、その……嬉しかった。でも突然言われても私、ずっとあなたのことは俺兄みたいに考えてきたから。すぐに返事はできない。ごめんなさい」

「そりゃそうだろうな。いきなりこんなこと言われてステレがびっくりするのも分かる。ゆっくり考えて、いつか俺のことを選んでくれたら嬉しい」

 思いがけない優しく穏やかな声に「……うん」と頷く。
 そのまま私はコルネリウスへと視線を移した。

「……コルネリウス様。昨日の報告、どうなりましたか? 私は今後家から出てもいいんでしょうか」

「あ、ああ。昨日、冒険者ギルドと騎士団には無事解呪ができたと報告をした。手枷に変身した妖精の件だが、それがその妖精の気質で性格なのだとしたら、無理に抑制するのはこの国のしくみにも反しているから、今はそのままでいいとのことだ」

 コルネリウスの言葉を冷静に受け取り、私は「分かりました」と伝えた。コルネリウスの声は普段に比べて僅かに上擦っており、落ち着かない心情が垣間見えた気がした。
 コルネリウスは言葉を続ける。

「……一応、妖精は要観察だ。これからも一般人に危険はないか、騎士団の方で注視させてもらうことは許して欲しい。稀に聞き取り調査が行われる可能性があるゆえ、その際は俺の方から伝達させてもらう。今回も一度騎士団まで来てもらうことに決まった」

 どうやらリーフの件は私の想像以上に大事になっているようだった。

 私とコルネリウスの会話を間で聞いていたバルテルは自分の理解の範疇を超えたようで、飲み込めていないようだった。眉を顰めながら彼は質問をする。

「その手枷に変身した妖精ってのが、今回の騒動の原因なんだな。……そういや、師匠もステレのこと心配してたぞ。カレンさんはお喋りだからなんでも話しちまって、師匠は焦ってギルドとここに突撃しようとしてたんだ」

「……やっぱり」

「まあ腰やって寝込んでたから、起き上がった瞬間にカレンさんに引っ叩かれて断念してなけどな。昨日の晩ちょうどお前の実家に話を聞きに行ったんだが、そんときの話だぜ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...