【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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34.相談

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 翌日にはすっかり体調も回復し、無事に退院できた私は付き添いのコルネリウスとともに治療院を出た。

「騎士のお仕事は本当に大丈夫だったんですか?」

「ああ。これまで有休というものをほとんど使っていなかったので、これを機に消化することにした。婚約者が体調を崩しているのに、おちおち仕事なんてやってられないからな」

 仕事一筋、という顔をしていた男が一体何を思ったが、わざわざ私のためを思って行動してくれたことがたまらなく嬉しく、愛おしさに胸が苦しくなった。

 彼は私の腰を支えながら、ぴったりくっつくようにして歩く。手枷で拘束されていたときもこれほど密着して歩くことはなかった。コルネリウスはまるで人が変わったような行動をとり、私の心をかき乱す。表情は相変わらずの仏頂面で何を考えているのかはさっぱり分からないのだが。
 
 どくどくと逸る心臓に気づかれないよう身を縮こませている私に対し「すまない、歩きづらいか」と優しい言葉をかけてくれた。横に首を振ってそんなことがないと示せば、少しだけ口角を上げて微笑んでくれたような気がした。

 アパートに到着するとコルネリウスは眉を顰めながら言葉を吐き出す。

「本当にまだここに住むのか? 俺たちは結婚を約束した仲なのだから、同棲しても構わないと思う」

「そ、その意見もわかりますが、私にも準備とか心構えとか色々あるんです」

 コルネリウスはどうしてもこのアパートから私を出したいようで、退院が決まった朝から何度もこの話題を口にしていた。
 確かに今の時代、恋人の住む家に移り住むなど良くあることだ。けれども恋愛初心者の私にとってハードルが高すぎる。コルネリウスに好意を持っていなかったときであればいざ知らず、今は彼と少しでも触れあうだけでも気を失ってしまいそうなくらい胸を高鳴らせてしまうのだ。

 それに、例の女性のこともある。
 いつか彼女を恋人として紹介されると思うだけで、心臓がズキズキと痛むのだ。

 昨日コルネリウスのことが好きなのだと理解したばかりなのに展開が早すぎるのはどちらにしろ困るというもので。
 今は同棲の打診を断り、遅らせて欲しいと伝えた。

 それを聞いた彼はというと、やはり不満のようで「どうしてだ」「俺の何が不満だ」とまるで束縛彼氏のように追求してきた。それをなんとか交わし、今こうしてアパートの前に立っていた。

「朝からエスコートありがとうございます。……よければお茶でも飲んで行かれますか?」

確かに同棲に関しては心の準備が整っていないが、彼と少しでも一緒にいたいという気持ちは強い。勇気を出して誘い文句を口にすると。

「そうさせてもらう。……お前から誘ってくれて嬉しい」

 彼は頬を紅潮させ、目線逸らして頷いた。
 そしてふと、何かを思い出したように神妙な顔つきをしてぼそりと呟く。

「…………少し話したいこともあるしな」

 
 部屋に入り、言葉通りに茶を出しに台所へ移動する。
 入口では客人を歓迎するようにリーフが飛び回っていた。彼はどうやら一言二言彼女と話をしていたようだったが、すぐに打ち切って私の方へと視線を向ける。

 コルネリウスは「病み上がりなのだから手伝わせてくれ」と言ってくれだが、彼に家事の能力はないことは手枷に繋がれていた時に分かっていた。

 彼の屋敷でもあったのだが、コップを渡して茶を入れる手伝いを願い出れば、おそらくコップを割るか茶葉を入れすぎて味を壊すかどちらかだろう。

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですので、ソファにかけておいてください」

 私の言葉に頷いたコルネリウスはどこか拗ねた様子にも見えた。気のせいかもしれないが。

「お待たせしました」

 彼の元に茶を出す。

 けれどコルネリウスは顔を俯かせ、先ほどとは打って変わったように何か思い悩んでいた。
 どうしたのだろうと考えれば、先ほどアパート前で言っていた『話したいこと』関連なのかもしれない。
 どうやらその予想は当たったみたいだった。

「実は俺の家のことで問題が起きている」

 深刻な顔で俯き、険のある顔つきで瞼を閉じた。
 そして意を決したように顔を上げると苦しそうに言葉を吐き出した。

「実家から婚約者と名乗る女が送られてきたんだ」

「婚約者、ですか!?」

 どういうことだと平静さを失っている私に対し、コルネリウスは言う。

「送られてきたというのは正しくないな。いきなり騎士団の駐屯地を尋ねてきたんだ。……もちろん俺は拒否するつもりだ。実家の言いなりにはもうならないと決めているし、知らない女と結婚をするつもりもない」

「そういえば実家とは……」

「縁はすでに切れていると思っていた。いや、思いたかったのが正しいか」

 そう呟き、コルネリウスは自分の過去を語り出した。

 幼い頃から貴族としての英才教育を受けてきたこと。
 抑圧された環境に徐々に適応しようと努力し、自分を見失っていったこと。
 騎士団に入団したことで己の道を新たに見つけたこと。
 籍は残しておいてほしいと縋られ、今後一切関わらないことを条件に承諾したこと。

「貴族としては異端かもしれない。だが俺は今の自分の生き方が性に合っているし、貴族の利権主義が好かない。両親に育ててもらったことには感謝するが、家名のための結婚をして実家の駒になるつもりは微塵もないんだ」
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