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35.彼の両親と実家で
しおりを挟むそう告げたコルネリウスの表情は真剣な面持ちで内心を口にした。
「……ぁ、もしかしてあの時見た女性って」
「女性?」
思わず口にしていた言葉にコルネリウスは疑問をこぼす。私は勇気を振り絞り、恐る恐ると口を開いた。
「一昨日の夜、街の中でコルネリウス様と女性をお見かけしたんです。綺麗なブランド髪の背の高い方で──」
「ああ、そいつだ」
彼は先ほどとは一転して憎々しげに語りだす。
「あの我儘で悪辣で典型的な貴族令嬢が。実家から無理やり連れてこられたと言ったから仕方なくエスコートしてやれば、いきなり屋敷に招待して欲しいと迫ってきて……」
コルネリウスは「くそっ、思い出しただけでも寒気がする」と言いながら気味悪そうに腕を摩り出した。
私は彼の様子に対して呆気に取られていた。
どう考えても好意のある女性に対してへの言い草ではない。けれど一昨日の彼の表情は今まで見た方がないほど優しげで朗らかだった。そのことを口にすると。
「俺も貴族としての教育を受けてきているからな。仮面の被り方くらいは心得ている。高位の貴族を敵に回すのは面倒この上ない」
そう呟き、過去を思い出したのか蔑むように鼻で笑った。そして「だが」と悔しそうに続ける。
「このまま放置していては埒が明かないことは分かっているんだ。今度また別のオンナを婚約者だと送られてくる可能性もあるしな。お前という婚約者がいると告げ、もう関わってくるなと宣言しなければならない」
コルネリウスは「面倒な」と顰めっ面をして呟き、私に迷惑がかかる可能性を危惧して謝罪をした。いつもとは異なる殊勝な様に居心地の悪さを覚え、つい口にしてしまった。
「それなら私と一緒にコルネリウス様の実家に行って、ご両親を説得しましょう」
「俺はお前にそうしてもらいたくてこの件を告げたわけではない。今後対応に追われて迷惑をかける可能性もあるから注意をしておこうと……」
「面倒事なら早めに済ませておいたほうがいいでしょう?」
あの日見た女性は彼の恋人ではなかった。
一つの憂いが晴れたからか、開放感を感じて大胆になっているのを自覚していた。
胸を撫で下ろすと同時に湧き出てくるのは、コルネリウスに少しでも協力したい、彼のために何かをしてあげたいと言う気持ちで。気がつけば自ら関わることを告げていたのだ。
私の提案にコルネリウスは頭を抱えた。
どうして首を突っ込みだかるんだと唸りながら大きくため息をつく。やがて結論を出し終わったのか、彼は私の目を見据えた。
「……頼む、協力してくれたら嬉しい」
笑顔で頷いた私に対し、コルネリウスは呆れたように笑っていた。
・・・
「本当にすまない。久しぶりに実家に帰ったのだが、これほどに話が通じないとは思ってもみなかった……」
「いいえ! コルネリウス様のせいじゃありません。ちょっとすごすぎてびっくりしましたが……」
ホーエンハルト邸を出て一言言い表すのであれば『まるで別種の生き物と話しているよう』であった。
コルネリウスが私の提案を許可して数日、彼の実家にやってきて両親と話をした。やたら煌びやかな衣服に身を包んだ男女に豪奢な家具の数々。屋敷の中はまるで別世界のようで緊張に震えていたが、隣にいる彼のおかげで安心できた。
けれど彼の両親はまるで人の話が通じず、これが貴族なのかと驚きを隠せなかった。私に対して庶民だと馬鹿にすら態度は理解できる。けれど、実子であるコルネリウスに対してもまるで意思のない人形のように扱う姿を見て、呆れたものが言えなくなってしまった。
「コルネリウス様が実家とは縁を切ろうとした意味、申し訳ありませんが分かってしまいました」
「あの二人は俺を人形のように自由に操りたいんだ。それも年々ひどくなっている。おそらく領地の経営が上手くいっていないのだろうな」
コルネリウスの実家は王都から遠く離れた地に領地を持っているらしいが、基本は統治権を人に委任し、普段は王都で悠々自適に過ごしているらしい。
だが話にも出た通り年々領地が不況に陥り赤字続きで、それをどうにかするために手段を選ばなくなってきている。ゆえにタチが悪いからのだと語っていた。
屋敷を出た後、私たちは帰りの馬車に乗り込もうとしていた。どうやらコルネリウスが事前に用意してくれていたらしく、アパートの前まで馬車で迎えにに来られたときは驚いた。
「あの……坊ちゃま」
突如割り込む声が聞こえて振り向く。
そこには初老の男があり、屋敷に到着直後に「執事だ」とコルネリウスが紹介してくれていたことを思い出す。
執事に声をかけられたコルネリウスは「坊ちゃんはやめろ」と一瞬苦々しい表情をしたのち、「どうした」と口にすると。その声は意外にも優しく、この執事の人はコルネリウスにとって良い印象を持っている人なのだと悟った。
「実は領地の経営でご相談したいことが」
「兄たちがいるだろう」
「彼の方々はお遊びになることばかりに夢中ですので」
執事の発した言葉を耳にしたコルネリウスは顔を顰めて頭を抱えた。けれど縋るような視線を打ち捨てることは出来なかったのだろう。私を一瞥したあと「すまない、馬車で少しの間待っていてくれないか」と告げてくる。
領地経営の話など一切わからない私は二つ返事で了解し、馬車へと乗り込んだ。
質素な外観ではあるものの、備え付けの椅子はふかふかしており長時間座っていても尻が痛くならない作りだ。ぼんやりと窓から外を眺めていれば、突如コンコンと反対側の扉が叩かれる。
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