【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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39.間違い コルネリウスside

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 空いた時間があれば彼女の顔が見たかった。
 だから時間を見つけて冒険者ギルドへ顔を出したのだが、どうやら彼女は体調不良で早退したと耳にした。

『ステレなら近くの治療院に行くって言っておりましたが……』

 彼女の同僚に教えられ、すぐに治療院へと向かった。
 どうやらステレはここ最近の出来事で体と精神が限界を迎えたのか高熱で倒れ、入院することになっていた。

『コルネリウス様って本当に優しいですよね』

 俺は優しくなんてない。
 優しくしたいのはステレだけで、そのほかはどうだっていい。

 風邪で頬を赤くし、辛そうにしているステレは俺の本性を知らない。無垢で可哀想な彼女はなぜだか泣き出しそうな表情で告げた。

『求婚……お受けします』

 最初は聞き間違いかと思った。
 自分の妄想が現実を侵食したのだと思った。自分の気が狂ってしまったのかと疑いたくなった。けれどステレの呟いた言葉は現実で。

 自分がこんなにも幸せでいいのか。
 求婚の承諾をされたのだと理解した後は、歓喜に戦慄いた。これほどまでに神に感謝したことはないだろう。
  
 ステレはその後すぐに薬の影響で眠ってしまったが、その寝顔を見つめながら俺は幸せに浸る。

 熱でうなされる彼女は不憫だが、同時に自分が世話をし、自分しかいないこの空間が幸せだった。ステレが風邪で苦しんでいるというのに、自分はなんて利己的なのだろう。自己嫌悪に陥ったりもした。

 けれど彼女がこうして俺のそばで当たり前のように眠りについくれている。それが今後一生続く。この現実がなによりもありがたかった。

 けれど俺はこの時の彼女の心境を理解できていなかった。これからも愛するステレとともにいられることだけに夢中で、肝心なことに気がついていなかったのだ。

『それなら私と一緒にコルネリウス様の実家に行って、ご両親を説得しましょう』

 両親が勝手に決めた婚約者。
 その話はいつか必ずしなければならないと、ちょうど彼女の自宅へ行ったときに説明をした。彼女にはにごして伝えたが、俺が両親からされた仕打ちは愛されて育ったステレの耳にはなるべく入れたくなかった。その耳を穢したくなかったからだ。

『お前は本当気味が悪い子ね。忌々しいったらこの上ないわ』
『ほんとに俺の子なのか? 疑わしくて仕方がないよ』
『この出来損ないが! せいぜい家の役に立てるよう努力するんだな』

 母、父、兄。
 妖精の声が聞こえる俺を嫌い、恐れた彼らはひたすらに蔑んだ。人とは違うことをひどく嫌がった。彼らしか知らない子供の俺は、ただひたすらに家族に愛されたくて貴族としての努力を重ねた。

 今思えば無駄なことだったのだと分かる。両親は家族よりも自分が一番大切で、俺に対しての言葉はゴミに向けて吐いた『汚い』というのと同じようなものだった。ゴミに言った言葉など人はいちいち記憶していない。ただその気持ちが浮かんだから口にする。その中に愛も憎しみもない。

 憎まれていたのならまだマシだった。
 そこに存在していることを認識されているということだから。

 それに気付かぬふりをしていた俺は、成人した後騎士団に入団したのだ。そこでの環境は実家で過ごす時間とは異なり、いかに今までいた自分の環境がおかしかったのか理解することが出来た。団長らには感謝してもし足りないくらいだ。

 愛されて育ったステレがそんなヘドロの中のような俺の実家に行く。最初はありえないと思った。あんな場所に連れていくことで彼女を汚してしまいそうだと思ったし、わざわざ出向く必要があるのかと考えた。

 けれど実家で過ごした日々の中、執事などは世話になったことを思い出す。彼らも仕事なのだとは分かっているが、その優しさに救われて来たのも事実だった。
 
 それに両親に彼女を見せつけ、手を出すなと事前に脅しておくほうが後々の面倒ごとも避けられる可能性があるかもしれない。彼らはステレの顔すら知らないし、知ろうともしない。これを機会にステレの顔を覚えてもらい、どれだけ俺が彼女を大切にしているのかを思い知らせておく必要がある。彼女を傷つけようものなら、何をするのかわからないということを頭に刻みつけておく。彼女の前ではそんな姿を極力見せないように努力するが。

 結局ステレの一言をきっかけに俺は5年ぶりに実家へと赴くことになった。

 両親がどうしようもないほど救いようもない人間だと理解していたはずなのに。俺は甘く見過ぎでいたようだった。

 彼女が手洗いに向かった際、俺は計画通りに両親を脅しつけた。もし彼女を傷つけるのでれば、妖精の声を聞ける力を使ってお前たちを破滅させてやると。
 鈍いところがあるステレは帰り際、両親の様子がおかしくなっていることに気づいてはいないようだった。

 屋敷を出た彼女は意気消沈とまではいかないものの、俺の両親の貴族的思考に困惑しているようだった。
 そんな彼女を馬車に置いていくのは忍びなかったのだが、世話になった執事の懇願とあっては話を聞かないわけにもいかず、やむを得ずステレの元を離れた。
 
 だがそれが失敗だった。
 あのクソ女がステレに暴力を振るったのだ。
 高慢さが滲み出るいけすかないやつだと思っていたが、当たり前のように人を害するその根性。
 貴族というものが自分を含め、心底無価値で人の風上にも置けないものだと改めて気付かされた。

 帰りの馬車、うまい慰めも見つけることができない俺はステレの婚約者失格だ。全てを甘く見積もった結果、彼女が傷ついてしまった。
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