【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

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38.深まる愛 コルネリウスside

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『こんばんは。初めまして、コルネリウス様。私、あなたの婚約者になりましたのよ。あなたのご両親からの紹介です。これからよろしくお願いいたしますわ』

 騎士団の駐屯地を訪ねてきた女。
 過去に何度か社交界で顔を見かけたことがある貴族令嬢だと気がついたが、興味がなかったため名前は覚えていない。そんな女がなぜ。

 話を聞けば、どうやら自分の両親が婚約者として送り込んできたようだった。きつい香水に鼻につくような甲高い声、話す口調も穏やかに見えるが高慢さが垣間見える。
 すべてにおいて生理的に拒否反応を示する女だった。そんな人間と接すること自体が最悪なのに、婚約者になるなど考えられない。

『俺はそんなこと一切聞いていないのですが。きっと何かの間違いでしょう。ここでは何ですし、別の場所へ移動しましょう』

 取り繕ったような表情と声音は子供の頃に身につけた貴族相手への仮面で、そんな自分にも虫唾が走る。このまま無視することも一つの手ではあった。けれど相手は仮にも貴族で、もし万が一にも俺の大切な人──ステレに手を出されでもしたら。そのようなことを考え、なるべく穏便に済ませなければと思った。

 ステレと手枷で繋がって、ますます彼女のことが好きになった。たった数日だったがステレの歯に衣着せぬ物言いだったり、些細なことで喜んだり悲しんだりする姿が何より愛おしく、自分にはないものを持っている所に惚れ惚れしてしまう。

 あの人通りのない路地で優しく声をかけてくれたときよりもずっと、彼女を愛してしまっていた。
 いまだにあの焦茶色の瞳で真っ直ぐ見つめられれば、訳もわからない焦燥にかられる。心臓が破裂しそうになる程高鳴り、全身が熱くなっていくようで。それでもステレのことを無意識のうちに視界に入れ、いつまでも見つめていたくて仕方がないのだ。

 あのとき、呪いが解呪される前。
 ステレは俺の身体を受け入れてくれるはずだったが、解呪されてしまったことでうやむやとなった。あのまま押し倒し、己の欲望を満たしたい気持ちは少なからずあった。けれどそれ以上に自分は本当に彼女のことを大切にできているのか、そんな疑問が浮かんだ。
 呪いを解くという名目で、自分の気持ちを伝えることなく身体を重ねる。果たしてこれが正解なのか──考えた結果は否で。

 今にも破裂しそうなほど高まっていた欲望を無理や抑えこみ、ステレに紳士に見られようと目一杯虚勢を張った。

 騎士団と冒険者ギルドへの報告という義務を果たした後、俺は一人で後悔に悶え苦しんだ。結局ステレに自分の気持ちを伝えることが出来なかったからだ。逆に情けない姿ばかり見せてしまい、己の不甲斐なさに腹が立って仕方がなかった。

 翌日、そんな感情を抱えながらステレの住む自宅へ赴いたところ、あのいけすかない冒険者が彼女に告白しているところに遭遇してしまった。
 その時はひどく焦ったが、同時に深い嫉妬を覚えた。あのバルテルという冒険者が自分がしようと思っても勇気がなくて出来なかった告白をしていたからだ。

 元々勘に触る男だった。
 ステレと幼馴染というだけでも腹立たしいというのに、いつまでも兄貴面をしながら内心では下心を持っているのが丸わかりで、どうしてそのことに気がつかないのかとステレに対しても苛立ちを感じてしまうほどだ。
 あの男の瞳は分かりやすいほどにステレばかりを見つめているというのに。
 
 自分も人のことを言えないと分かっているのだが。
 
 隣に並ぶ二人はお似合いだった。
 長い年月を積み重ねて築いた関係は、他人にはそう易々と壊せない。互いに信頼しあっていることがはっきり伝わってきた。

 羨ましかった。酷く妬ましかった。
 だからこそ、あの告白の場面を目撃した後、醜い嫉妬でステレに酷い言葉をぶつけてしまったのだ。
 すぐに訂正し、謝罪したかった。だが己の性格上、素直になることが出来なかった。もし自分がもう一人いれば、ステレを傷つけた自分をぶちのめしていただろう。
 
 臆病で自尊心ばかりが高く、不器用な己が改めて嫌いになった。

 ステレはそんな俺の最低な言葉を受けても、笑いかけてくれた。なぜそんなにも優しいのか。天使のようなステレ。心の中に溜まっていく彼女への深い思い。

 その場から連れ去ってしまいたい衝動に駆られたが、ステレが今日は実家と冒険者ギルドへ行くというので同行することに決めた。なにせあの告白したばかりの男も一緒だというのだ。あの野蛮な男と二人きりにさせるなど論外だ。

『──責任をとって俺が娶ります』

 本当はこんなタイミングで言うつもりはなかった。
 彼女の父親と幼馴染もいる中で出てしまった言葉。
 気持ちが通じ合えたあかつきには、将来ステレに対してて言いたいと思っていた。
 けれど、このままではいけない。そんな感情が先行してしまった結果がこれだ。

 だが後悔はなかった。これを逃せば勇気のない自分が気持ちを伝えれることなど到底不可能だろう。なにせステレがあまりにも好き過ぎて、彼女一人がいる前では己の本心を吐き出さない自分がいることにとっくに気がついていたからだ。

 ステレの実家からの帰り道、俺はきっと人生でもっとも勇気を振り絞っただろう、彼女に求婚の言葉を今一度伝えた。驚く彼女は心底愛らしく、すぐに押し倒したい気持ちに駆られてしまった。もう手枷はないというのに、ステレの甘い体を思うと夜な夜な体が疼いてしまう。彼女の体はまるで中毒性のある毒のようだった。甘くて柔らかい甘味のような毒だ。
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