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43.本音が聞こえる※
しおりを挟む──気持ちが通じた。
私の心はいつにも増して晴れやかで、幸福に満たされていた。熱い唇を重ね合い、お互いだけを求められることのなんて幸せなことか。嬉し涙が溢れそうなほど、今日という日に感謝した。
バルテルの告白を断ったあと、その場に突如やって来たコルネリウスの言葉から逃げてしまった私はそのまま自宅へと帰った。彼の見つめる厳しい眼差しが瞳の奥に刻まれ、心を抉る。
次第に涙が溢れて止まらなくなった。リーフが慰めるように周囲をぐるぐると飛び回っているのは気がついていたが、今は声をかける余裕すらなかった。
しばらくすると部屋の扉がノックされた。
『俺だ、コルネリウスだ。……すまない、先ほどは酷いことを言ってしまった。直接謝罪がしたいんだ。どうか開けてくれないか?』
涙を拭い、恐る恐る扉を開けると、そこにはくたびれた様子のコルネリウスがいた。額に汗を滲ませ、息をせき切らしている姿はきっと急いでここまで駆けつけてくれたのだろうと予想がつく。それだけでも私の心は期待してしまう。なんて浅ましいと自分を蔑みながら、彼の謝罪を受ける。
ここでは泣いてはだめだと、呼吸を整えてから口を開こうとした。けれどそれよりも前に動いたのはリーフだった。
彼女はコルネリウスとやりとりをしているようで、リーフの声が聞こえない私は置いてけぼりに二人の様子を伺っていた。すると突如光が弾け、コルネリウスがその光に呑み込まれていった。驚き目を見開いていれば、どうやらまた《妖精のイタズラ》が起こったようで。
驚くのも無理なかった。
なぜなら彼から感情がはっきりと伝わってくるのだ。
《以前受けた呪いは妖精にとっては魔法だったのか。一体なんの力を使われたのか》
何を思考しているのかが鮮明に伝わってくる。言葉ではなく彼の感じている感情がそのままに流れ込んでくる感覚は今までに感じたことのない奇妙な感じだった。
明らかにおかしな状況に動揺を隠せずいると、またもや新しい感情が流れんでくる。
《その表情が可愛いすぎる。食べてしまいたい》
彼のきりりとした顔つきと噛み合ってない感情に赤面する。その顔でそんなことを考えているのかと、思わず茶々を入れたくなるほどだ。
焦った私はひとまず彼を自分の自宅に避難させることにした。通りがかった大家などに今のコルネリウスを会わせるわけにはいかない。それに今は夜で、あまり外で騒がしくするのも近隣住人には迷惑だろう。
手を引き、部屋に招き入れればまたおかしな感情が流れ込んできて、あまりの恥ずかしさにどうにかなってしまいそうだった。
《ステレの香りがする。部屋から充満してて幸せすぎる。ステレから触れてくれた。手のひらが柔らかくて気持ちいい。ずっと触れていたい》
彼に考えが伝わってくるからやめてほしいことを告げれば、どうやらコルネリウスも羞恥心を掻き立てられてその場でうずくまった。なんだか不憫に思えて慰めようと背中をさすってあげれば《優しい。もっと触れていてほしい》と強い念が押し寄せてくる。
そうしていると、彼は突如ばっと顔をあげたかと思えば、私を壁へ押し付けてきた。突然の事態に頭が真っ白になる。
『っ、そうだ。俺はお前が好きすぎて、四六時中ステレのことばかり考えてるんだ。悪いか? まあ、悪いと言われてもどうにもならないから諦めるだな!』
その言葉を聞いたときは、都合の良い夢を見ているのではないかと疑ってしまった。けれどそう言った彼の顔は紅潮し、真っ直ぐな視線に身体が縫い止められる。
《好きだ。ステレのことが大好きだ。近い。可愛い。幸せだ。好きすぎて死にそうだ》
感情が直接伝わってくることで、コルネリウスの口にした言葉が真実だと証明されていた。真剣な面持ちに胸が苦しく愛おしさで溢れ、自ら唇を押し当ててしまう。
久しぶりの彼との口付けは甘く、心が満たされていく。
自然と自分の素直な気持ちを打ち明けていた。彼を好きな気持ちが溢れ、留まることを知らない。
コルネリウスは自分のことを愛称で呼んでほしいと言った。きっと素面で呼び捨てにはできないだろうが、このときばかりは雰囲気に流されたのもあって『コリィ』と呼ぶ。
『ステレ、大好きだ。誰よりも愛してる』
その言葉がずっと欲しかった。
何よりも求めていた愛を与えてくれた彼は、さらに私の全てが欲しいと懇願する。
『ステレのすべてをくれ。お前を抱きたいんだ』
捧げたい。
体も心も一生あなたものなのだとわかって欲しい。
私はそんな気持ちを込めて頷いた。
彼は私をその場で抱き上げ、ベッドへと移動する。
「前はソファで押し倒してしまったからな。あのときは興奮で頭がどうかしてたんだ。今回は前よりもずっと優しくする。どうかお前を愛させてくれ、ステレ」
ぱふりとシーツの上に寝ころばされ、耳元で囁かれる。私の前髪を掻き分け、額にちゅっと唇を落とした。
「コリィ、大好き」
私は彼の気持ちに応えるべく小さく頷き、言葉にする。そうするとコルネリウスも「俺の方がずっと大好きだ」と紡ぎ、唇を重ねた。最初は触れるような優しい口付けだった。何度もバードキスを繰り返し、次第に舌を絡めあうようにして深く互いを求め合う。
コルネリウスが私の口内の全てを貪るよう、余す箇所なくその分厚い舌で舐めとっていく。くちゅくちゅと唾液の水音が耳を犯すたび、腹の底がきゅんと疼くのを感じた。
息もつけないほどの激しい口付けに酸欠寸前で、ぎゅっと彼の服の裾を掴めばようやく唇が離れていった。
肩で息をしながら瞳を潤ませる私を見て、コルネリウスは申し訳なさそうに呟いた。
「すまない。止まらなくなった。お前があまりにも可愛すぎて。……もっと触れさせてくれないか」
サファイアのような蒼い瞳から滲み出る欲望が私の欲をも掻き立てる。こくりと頷く私を見たコルネリウスは、そっとブラウスのボタンに手をかけた。
同時に首元に顔を埋め、肌をなぞるように唇を押し当ててくる。ちくりとした痛みが連続で続き、目を丸くして彼に視線を向ければ「痛かったか? 俺のだって印を残したかったんだ。許してくれ」と眉尻を下げながら言う。
「ふふっ、可愛いです。コルネリウス様」
「コリィだろ? ほら、俺の名を呼んでくれ」
甘やかな視線にかっと身体が熱くなり、言われた通りに彼の愛称を呼ぼうとするも。
「んんっ」
声に出す前に唇を食べられてしまった。もう、と怒る私にくすくすと笑うコルネリウス。
すでにボタンは外され、象牙色の肌が欲望を孕む男の目前に晒されていた。視線が肌をなぞるだけで、下腹部がきゅっと疼く。
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