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46.恋人たちの夜
しおりを挟む結局この情交を含め、三度も交わることになり、最後の方の記憶はほとんど抜け落ちていた。圧倒的な快楽に頭が支配され、ぼんやり穿たれ続けたのは定かだ。
多少記憶しているのはコルネリウスが興奮して重ね重ね言葉を紡ぎ続けていたことだけだ。
早く結婚して中にたくさん出してやる。
子供をたくさん作ろう。
ステレが世界で一番可愛い。
大好き、愛してる。
その他にも何か言っていた気がするが、はっきりと記憶に残ってはいなかった。普段では彼の口から出ないような台詞がそのときばかりは惜しみなく吐き出されていたことだけは確かだ。
そういえば感情を勝手に伝えるリーフの《妖精のイタズラ》は、私たちの気持ちが通じ合ったそのときから消えてなくなっていた。互いに両思いだと分かったことに夢中になりすぎていて、全く気にしてはいなかったのだが。
数度に渡る交じり合いが終わった後。
疲れ果てた私はコルネリウスの腕を枕にしてそのままベッドに寝かされていたようだった。途中でほとんど気を失っていたが、終わった今、ふと意識が浮上する。
隣には目を閉じて眠りにつくコルネリウスがいて、改めて彼と心が通じ合ったことを実感はし、胸が疼いた。すぅすぅという彼の寝息は、以前手枷のせいで共寝した時と変わらない。いつものキツイ眼差しが嘘のように穏やかな顔つきだった。
「……寝顔は可愛らしいんだけどね」
ぽつりと呟きを口にする。
無意識のうちだったので、はっと口を抑える。
けれどその行動も虚しく、コルネリウスはぱちりと目を開けた。どうやらその顔つきから狸寝入りだったようで、私は挙動不審に目を逸らす。
「起きている時は可愛くなくて悪かったな」
「えっと、コルネリウス様は可愛いというよりは凛々しいので……」
「男が可愛いと言われても嬉しくはないからまあいいが。……呼び方、またコルネリウスにになってる」
ふっと笑いながら私の頭を撫でた。
甘い声色に心臓が跳ね上がる。彼の体臭に包まれている今の状況が幸せで、胸元に額をこすりつけながら私も笑った。
皆が寝静まった深夜だけあって、しんとした静けさが空間を支配する。リーフもとっくに住処の植木鉢に戻っているのか、姿はどこにも見えなかった。
「結婚は早い方がいいな。明日にでもしたいくらいだ」
突如コルネリウスから飛び出した言葉に目を瞬かせる。
いきなり二人のこれからの関係に踏み込んだ話題が出され、一歩反応が遅れてしまった。
「なにを惚けている。求婚しただろう?」
「それはまあ……」
「俺は早くステレと夫婦になりたい。共に住みたいし、朝起きた時、帰宅した時にお前の顔が見れたらどれだけいいかと常々思っていたんだ。もう我慢しなくてもいいとなった今、早く関係を進めたい」
真面目な顔つきで語るコルネリウスは、私の手を取り包み込んだ。一点の曇りもない眼差しは熱く、期待に満ちていた。
私も彼の言葉に頷き、微笑みながら伝える。
「はい、私もそう思います」
「なら──」
「でも! まずは周囲への報告が第一です。結婚するのならばそれなりの準備が必要ですし、両親だったり親戚への挨拶もしなければなりません。私も両親の前で求婚されたあとから、何も報告していませんし。職場は……まあ子供ができたわけではないですが、今後の可能性を考えれば早めにしとかなければなりませんし」
断固言い切る私にコルネリウスはしょんぼりとした様子で眉尻を下げた。まるで飼い主に見捨てられた犬のような姿は以前は以前の彼からは想像もつかない。
常にむっつりと口を結び、不機嫌を擬態したような人間だったコルネリウスがここまで変わるなんて。恋人の新たな姿が発見できることが何よりも楽しい。
そんな私の内心など知らないコルネリウスは「そうか」と呟く。意見が通らず不機嫌になるのかなと思っていたが、案外そうではないようで──。
「ならばすべて短期間で済ませて、早く籍を入れよう。またあの冒険者がちょっかいかけてくるとも限らないしな」
どうやら結婚までの期間をどれだけ短縮できるか計算していたようだった。
「えっと、あの冒険者ってもしかしてバルテルのことですか?」
名前を聞いた途端、コルネリウスの様子は機嫌を損ねたように顔を晒した。ああ、と呟いた後「あのいけすかない男だ」と不愉快そうに顔を歪めた。
「お前はあの男と距離が近すぎないか?」
眉の間を曇らせながら声高々に問い詰めてくる。
私は「うーん」と唸り、少し考え込んだあと続けた。
「たしかにバルテルは私の兄みたいな存在ですから、距離が近いと言われても仕方ないかもしれません。昔から父の弟子として家に出入りしてて、幼い頃は特に面倒見てもらったりとかしてて」
「だとしても、それは幼い頃の話であって、今はもう関係ないだろう? っ、俺は嫌だ。あの男とステレが二人きりで仲良くしているところを見るだけで、不安になってしまう。嫉妬深くてすまないが、それが俺なんだ」
コルネリウスは私を痛いほど強く抱きしめた。その行動からどれだけ不安が募っていたのかが窺い知れた。
彼は自立した一人の大人であるのと同時にひどく寂しがりで独占欲の強い人なのかもしれない。
彼の両親を見て思ったことがある。きっと彼らは幼少期のコルネリウスに十分な愛情を注がなかったのだろうと。彼らのどこか他人行儀な姿とコルネリウス自身の話ぶりから容易く想像が出来てしまった。きっと誰が見てもわかってしまうほどだ。
コルネリウスは愛に飢え、愛を知らずに生きてきた。
家族でも恋人でも誰かを愛することが初心者な彼は、私が離れていくことにひどく怯えているのだろう。
「……だからバルテルと二人きりでいると、いつも不機嫌だったんですね」
「そうだ。俺も大人気ない態度をとってしまって悪かった。それでもお前のことを考えるだけで、無意識にそうなってしまう」
私の肩口に頬を擦り付けて甘えるように呟いた。
そんな姿も愛おしく、彼のすべてを受け入れたい気持ちが溢れてくる。私はあえて「コリィ」と呼び、体を引き剥がした後に告げる。
「私はあなただけのものです。今まで恋とかしたことなくて、コルネリウス様が初恋だから色々分からないこととか察せないこともあります。だけどあなたが嫌だと思うことは出来うる限りしないようにしたいです」
「っ、ステレ」
「流石にバルテルと一生話すな! とかは難しいですが、不安はなるべく無くしてあげたい。……そうやって行動するので、もちろんコルネリウス様も私を不安にさせないよう気をつけていただきますからね」
私の言葉を受け、コルネリウスは気持ちが先走ったように「もちろんだ」と前のめりに宣言した。そのまま見つめあった後、自然と唇を重ねる。
「……だめだ。また──」
その呟きと共に、太腿に何やら硬い感触があり。
それがなんなのか理解するのに数秒を要したが、気づいた私は真っ赤になりながら「もうっ」とコルネリウスの厚い胸板を押した。
着痩せしているが騎士であるコルネリウスの身体はしっかりとした筋肉が均等についており、私の力ではびくともしなかった。
くすりと鼻で笑ったコルネリウスは私の耳元に唇を寄せて囁く。
「こんなに力強く押せるのであれば、まだまたいけそうか?」
「む、無理です! 今日だって何回したと思うんですか。私、初めてなのに……」
「俺だって好きな相手とするとは初めてだ。だからか、どうしても加減が効かなくて困っている」
瞳の奥に灯った熱と荒い吐息。
それが伝染するように私の身体へ侵食し、火照らせていく。コルネリウスは「お前もこんなに」と呟き、私の敏感になった体を撫で回した。次第に溶かされていき、受け入れてしまっている自分がいて言い訳のしようがない。
互いの熱が交じり合い、熱い夜が更けていく。
気持ちが通じ合ったばかりの恋人たちはその晩、愛する人の温もりに溺れるのだった。
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