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47.過保護な父と愛する人
しおりを挟む「娘さんを娶らせていただきます」
「だめだ!」
このやりとりは一体何度目なのだろうか。
私の実家にコルネリウスと共に来たはいいのだが、父は頑固親父を体現したようにまるで彼と目を合わせず、不機嫌に顔を背けるばかりだ。
すでに婚約に関して互いの職場にも伝えた。
バルテルも話を聞いて、おめでとうと喜んでくれた。隣にいたコルネリウスがものすごい形相で私たちを睨みつけていたのは記憶に新しい。
挙式の日取りも場所も決まっているのだが、いまだに父はコルネリウスのことを認めていないようだった。
「お父さん……もういい加減にして。なんでコルネリウス様との結婚、認めてくれないの? 彼ばっかり除け者にするなんて、酷すぎる」
「ステレ、俺は構わない。認めてもらえないのは俺の努力が足りない証拠だ。それにステレを大事にしているからこそ、その相手に見合うかどうかきっちり見極めようとしているんじゃないか。愛されている証拠だな」
「もうっ、コルネリウス様は甘いんだから」
私たち二人が語り合うのを見て、そばで見ていた父は嫉妬で怒り、母はというと楽しげに様子を観察していた。
父は大きくため息突き、鋭い眼差しでコルネリウスに問いかける。
「……そこまで娘を嫁に欲しいのなら、俺と決闘しろ。それで勝ったのなら、認めてやってもいい」
「お、お父さん! 突然どうしたの! なんでそんな──」
「突然なんかじゃないわよ」
割り込むように母が言葉を遮る。
意味深な微笑みに頭を傾げていると、母は続けた。
「この人ね、昔からステレの周りに彷徨いてる男性に片っ端から決闘を仕掛けようとしてたのよ。ちなみにあのバルテルも被害者で、唯一この人に立ち向かい続けた勇者様ね」
「え、何それ! 初耳なんだけど!」
「それは当たり前じゃない。こっそりバレないようにやってたんだから。ほんと過保護よね~」
頬を抑えながら悩ましげに俯く母の姿を横目に、私はその場で立ちつくした。
自分は昔から異性にモテなかった。声をかけられることがほとんどなかったし、遠巻きに見られていることを自覚していた。仮に声をかけられたとしても、二度目以降こちらから話しかけると、一方的に逃げ出されることさえあった。
ゆえに、この年齢まだ恋人の一人も出来たことがなかったのだ。
それがすべて裏から根回しをしていた父のせい?
確かに元Sランク冒険者の父に決闘を申し込まれたら普通の人間なら逃げ出すだろう。ただ女に声をかけただけなのに、決闘を挑まれ痛めつけられるだなんて理不尽極まりない。
そしてそんな理不尽を今まで私の知らないところで強いてきた父は、秘密を知られてオドオドと目線を彷徨わせていた。私がキッと睨めば、怯んだように肩を丸める。
「か、カレン! な、なんで言ってしまうんだ。ひどいじゃないか!」
「もうっ、あなたったらやりすぎなんですよ。もう我慢の限界です。ステレちゃんに悪い虫がつかないようにって、あの子の周りの男の子たちに次々決闘を申し込み始めた時もそうでした。あのときはあなたの地位や名声を目当てで声をかけてくる人もいたので見逃しましたが。そろそろやめにしても構わないでしょう? 頼れる人も出来たことですし」
「だが──」
「ねぇあなた。過保護もいい加減にしないと嫌われるって分かりませんか?」
母の言葉にぎくりと肩を揺らした父。優しい天女のような微笑みの裏に隠れた苛立ちに気づかない父ではないようだった。
急に部屋に静寂がおとずれる。
それを切り崩したのは私の横で話を聞き続けていたコルネリウスだった。
「マイク殿、俺と決闘をしていただけませんか」
「え! こ、コルネリウス様! なんでお父さんと決闘なんて……」
「ステレ。これはお前の父に認めてもらうためのゆいいつのチャンスかもしれない。たしかに元Sランク冒険者の腕は計り知れないが、俺だって騎士団の中で最年少隊長に選ばれている。剣の腕は幼少期から磨いてきたんだ。どうか信じてくれないか」
ぎゅっと手を包まれながら問われる。
真摯な眼差しが突き刺さり、納得せざるを得なかった。きっとコルネリウスは私が彼の曇りのない視線に弱いと知って行動しているに違いない。
でなければあんなにもあざとい瞳はできないだろう!
二人きりで盛り上がっている私たちを見た母は「まあ素敵!」と頬を染め、父は母の注意が逸れたのを見計らって声を上げた。
「き、君がそういうのなら仕方がない! そうだ、やはり男は剣の中で語り合わなければな」
「はい、お父さん。決闘、よろしくお願いします」
「お、お父さんと呼ぶな! まだそれは許していないからな」
こうして私という賞品? を賭けたコルネリウスと父の決闘が確定したのだ。その場で二人は立ち上がり、父は棚にしまっていた現役時代に使用していた黒剣を取り出す。
コルネリウスは腰に下げていた銀の鞘を人なでした。
「外に行こう。いつも剣術の指導で使っている道場がある」
「はい、分かりました」
様子を見ていた母は「男二人の決闘にはあんまり興味が湧かないわね~。ステレちゃんを巡ってというのは素敵だけれど。私は今日の晩ご飯の支度でも始めましょうかしら」と無関心に告げた。どうやら興味のかけらもないようだ。
二人を見守る義務がある私は道場へ向かう二人の後を追った。
「……コルネリウス様。大丈夫ですか?」
「なにがだ? 俺は変わりないが」
「こう言ってはなんですが、父はおそらく今でも国の中で五本の指に入るくらいには強いですよ。万が一でもコルネリウス様が怪我をしてしまえば──」
道場への道中、並んで歩きながらこそこそと話していたのだが、コルネリウスは私の口元に手を当てて話を遮った。目を丸くして見上げれば、少しだけ不機嫌そうに鼻を鳴らした彼がいた。
「確かにお前の父は強い。だがそれでも俺は負けるつもりは微塵もない。──見ていてくれ、俺の勇姿と勝利する姿を」
彼は自信たっぷりに宣言した。
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