【完結】私にだけ当たりの強い騎士様と1メートル以上離れられなくなって絶望中

椿かもめ

文字の大きさ
48 / 49

48.予期せぬ決闘

しおりを挟む

 コルネリウスの戦う姿は見たことがなかったが、傲岸不遜に断言する様子が彼らしいとどこかほっこりする自分がいた。

「ええ、分かりました! 頑張ってください、コルネリウス様。私応援してますから!」

 コルネリウスは「ああ」と短く答えて意気揚々と口角を上げた。

 道場に着き、父とコルネリウスは決闘の準備をしたあと、指定の場所につく。ルールは別段定めておらず、とにかく相手に降参させるか、相手の剣を落とさせた方が勝ちと決めたらしい。追加で相手に深手を負わせるような怪我は、唯一の観客である私に配慮して無しだということになった。

 剣を向き合わせながら互いに見つめ合う二人。
 今この瞬間も水面下で高度な駆け引きをしているのかもしれないが、素人の私にはただその場に立ち尽くしているようにしか見えなかった。時間にすればきっと数秒だっただろう。

 最初に動いたのはコルネリウスだった。

「……参ります」

「いつでもこい、小僧!」

 声を上げたかと思えば、キンという刃の重なる音が道場に響き渡る。何度も振り下ろし、鍔迫り合いを繰り返す。剣の捌きがあまりにも早く、何がどうなっているのかは分からないが、傍目にはコルネリウスの方が押されているように見えた。

 なにせ体格が違いすぎる。
 コルネリウスも長身な方だが、父はそれ以上に大柄で明らかに筋肉量に差があった。
 けれどコルネリウスはそれでも勝つのだと口にしていた。彼を信じるべきだ。私は心の中で祈りを捧げながら様子を見守りつづける。

 息を切らし、額に汗の玉を浮かべるコルネリウスの瞳はただひたすらに目の前の敵を見据えていた。なりふり構うことない姿は真剣そのものだった。真面目な顔つきは今まで幾度も見てきたが、これほどまでに鬼気迫る表情は見たことがなかった。

 父に認めてもらう。その一心でここまで。
 それだけ私との結婚を望んでくれている。
 考えるだけで胸が熱くなった。

 そのときキン、と今までにないほど最も甲高く響くの刃の音が耳に届く。一方が剣を弾かれ、それが地面に落ちた。満身創痍な様子の彼と、未だ涼しい顔を崩さない父。

 だが、勝ったのはコルネリウスだった。

 肩で息をつきながら、眼前の父へと挑むような表情を向ける。

「ふぅ、これで認めていただけますか? 手加減していたとか、そんな言い訳は聞きませんから」

 煽るような物言いに父の反応が怖くなった。けれど苛立ちを焚き付けるような言動に意を返すことなく、むしろ驚いたように目を丸くし、そして上機嫌な様子で大口を開けて笑い出した。

「っ、はははは! 君、やるな! 手加減? 俺が剣の試合でそんなことをするはずがない! コルネリウス殿、私は貴殿をみくびっていたようだ。君は立派な剣士だった」

「はっ、光栄に思います」

 父の口調は以前とは打って変わり、尊敬の念を感じさせるものへと変化していた。変わり身の早さに愕然としていれば、2人は互いの剣の力量を褒め合っているようで。
 
 取り残された私はがくりとうなだれ、母がこの場にやってこなかった理由をなんとなく悟ったのだった。
 会話が終わったコルネリウスは清々しい顔つきで私に向かって言う。

「改めてだが──結婚を認められた。幸せにするから、これからも共にいてくれ」

 ちゅっと音を立てながら私の手の甲にキスを落とし、うやうやしく頭を下げる。騎士が主人に対し忠誠を違うような仕草で、どきりと心臓が脈打った。
 ふふっと笑みをこぼし、右回りのつむじの見えたコルネリウスの頭に飛びつき、首元に抱きついた。彼は少しだけ驚いたようだったが、すぐに身を持ち直し私の腰へと手を回す。

 その様子を後ろで見ていた父は「ったた」と背中に手を当てながら呆れ顔をしているのだった。


・・・


 道場から戻って第一声は。

「歳を考えてください! また腰を痛めて、無理をしすぎなのよ」

 コルネリウスに肩を支えられていた父に向かって母は目を釣り上げた。

 どうやら父はコルネリウスとの決闘により、治ったばかりの腰をまたもや痛めてしまったらしく、突如その場で崩れ落ちて呻き始めたのだ。
 何が起こったと警戒した私たちは慌てて父をベッドまで運んだ。つい先ほどまで涼しい顔で剣を振っていたのに突然どうしてと、私が尋ねると。

『き、虚勢を張っていたんだ……ガキに舐められるのが一番嫌だからな……ううっ』

 そんな姿を見せている現状の方がよっぽど恥ずかしいと内心思いながら、母に怒られる父に向かって「馬鹿ね」と悪態をついた。隣のコルネリウスも流石に空いた口が塞がらないといった様子で佇んでいた。

 両親もこの様子なら早めに退散した方がいいだろうと察し、私たちは実家を後にした。

 帰り道、ちょうど以前、この道を通って帰る際に求婚の言葉を聞いたなと思い出していると。

「ステレ、少しいいか」

「どうされたんですか?」

 呼び止められ、私は足を止めた。
 日が落ち始めている。人気もない場所だが見晴らしがよく、ひんやりとした風が頬をくすぐった。

 コルネリウスは自身のポケットから何かを取り出したかと思うと、私の手を取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~

如月あこ
恋愛
 宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。  ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。  懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。  メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。    騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)  ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。 ※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

処理中です...