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7話
「お前、死ぬか?」
そう言って右手に持ったナイフを怯える男の太ももに刺す。汚い悲鳴が古びた部屋をこだまし、その不快な声により一層苛立ちを覚えた。
泣き喚く男が地面に転がり、脂汗を滲ませて懇願してくる。そんな悲惨な光景を見ても、一切心は動かない。余裕があるときならば、悲惨で哀れな人間を見ることが愉しみでもあった。けれど今は早く終わらせたいとばかり考えている。
「は、はなじまず……だ、だがらゆるしで──」
エッカルトは手に持ったナイフを適当に投げ捨てる。そばに立っていた補佐役にハンカチを渡されて手を拭うもの、血生臭さは取れなかった。血の滲んだハンカチを突き返し、補佐役に命令する。
「お前が代わりに聞き出しておけ」
「かしこまりました、ボス」
もう2日も家に帰れていなかった。
食材は置いてきてあるから食事の心配はないだろう。部屋とキッチン、バスルームなどが繋がっている屋敷のため生活する上で問題はないはずだ。
シームの好きだと言っていた本のシリーズや甘いお菓子も用意してある。ただ一点、あの部屋には一切の窓がなく、直射日光を浴びることができないのだけは心配だ。
これからも長く自分のそばに置いておくために健康は大切にしなければならない。
部屋から出て上着の内ポケットに仕込んでいたシガーを口に咥え、その場を後にする。一刻も早くシームの待つ家へと帰りたかった。
だがその前に血生臭い身体を洗い流すべきだろう。
エッカルトは適当な宿に入ることに決めた。どうやら選んだ宿は娼婦や男娼と提携しているようで、何度も声をかけられる。相手をするのも面倒だったのでおざなりに受け流した。
今までであれば適当な相手と寝ることを当たり前のように楽しんできただろう。しかし近頃ははシーム以外の人間と寝ることはなくなっていた。
『それ』に気がついたのは初めてシームを抱いた数日後の事だった。
馴染みの娼婦と寝る機会があったのだが、射精することが出来なかった。幾度か試してみたものの一向に出すことが出来ず、男娼でも試してみたが結果は否。ついには女体を見ても勃起すらできなくなってしまった。
不能になったのかと気が滅入りそうになったが、シームに対してだけは身体が反応し、達することもできた。理解不能な事態に困惑していたが、たしかにシームの身体は極上で、彼を抱く時はついつい我を忘れてしまう。
エッカルト自身、特定の人間とだけ関係を持つなどという高尚な考えの持ち主ではない。今まで通りいろんな相手と愉しもうと思っていたから不便だと感じたものの、これに関してはシームが悪いわけではない。むしろこれほどまでに自分を夢中にさせる極上の身体に出会えたことは幸運なのだと思った。
湯浴みを終えて新しいシャツに袖を通していると、ふと扉の前に人の気配を感じる。部下であるとすぐに悟り「入れ」と命じた。
「──男の吐いた情報によると、うちの商品が闇オークションで横流しされていたようです」
「そうか、処理しておけ」
「……えっと、ボスは出向かれないので?」
「気分じゃない」
血で血を洗う現場はさぞかし興奮をもたらしてくれるだろう。常ならば自ら足を運んだはずだ。けれど今はシームの待つ家に帰ることが優先である。
ここ数日、自分がトップを務める組織にいくつかトラブルが起き、その解決に時間を割かれるはめになっていた。主に麻薬取引や人身売買、要人警護や暗殺など裏社外におけるすべてのことを取り仕切っており、エッカルトは幼い頃から身を置いていた。なにせ自身の父親がそこのトップに君臨していたからだ。
母は何処かの高級娼婦で、顔を合わせた回数は片手に収まる程度だった。会う度に『愛してるわ、私の可愛い息子』『あなたのことが大好きよ』と囁き、金を無心する。自身でも相当稼いでいるはずなのに、金を湯水のこどく使い、借金すらあるとの話を聞けば呆れてものがいえなかった。
そんな女の血を引くエッカルトも人のことをとやかくいえるような出来た人間ではない。
幼い頃から手伝ってきた裏社会の仕事に関しては文句をつけようのないほど完璧で、拷問や人殺しなど多岐にわたってなんでも行ってきた。辛いと感じたことはなく、むしろいつか己が組織の全てを掌握し、自由に操る日々を考えるだけで気持ちが高揚していた。いつかやってくるその日が待ち遠しくて仕方がなかった。
自分以外にも本妻から生まれた子供や私生児は何人もいたが、エッカルト以上に優秀な後継者候補はいなかった。兄弟には目の上のたんこぶだと煙たがられていたが、そんなことはどうでも良いと思っていたし、気にすることもない。
──けれどそんな兄弟に足を掬われる出来事が起こる。
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また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
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見つけ次第削除いたします。
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