【完結】もう好きじゃないと言ったら監禁された

椿かもめ

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8話


 とある裏社外の要人警護の指揮を取っていた際、兄弟と内通していた構成員によって連絡網が断絶し、現場は混乱に陥った。エッカルト自身も当時はまだ青く、油断があったとも言える。裏切ったのは幼い頃から面倒をみてくれていた構成員であった。のちに聞けば、この件に関わっていた対抗組織に高待遇で勧誘されていたのだという。

 兄弟は外部に情報を売ってでもエッカルトの名誉を汚し、築きつつある地位を失墜させたかったのだろう。

 なんとか混乱に乗じた暗殺などは阻止出来たのだが、結果、依頼者の要人が所有する奴隷の一人を逃してしまった。エッカルトにとって初めての失敗であり、今でも苦い経験として記憶に刻まれている。

 奴隷一人を逃したことで、今まで完璧に仕事をこなしてきたエッカルトに対し、兄弟らはここぞとばかりに難癖をつけ始めた。これまで小さな嫌がらせを繰り返されても面倒だからと放置してきたつけが回ってきたのだろう。

 ──ゴミ虫どもが揃って俺の邪魔をする。

 今回のことでエッカルトの苛立ちは限界を迎えた。

 逃げた依頼人の奴隷を追いかけて周囲にへりくだるか、はたまた自身を裏切ったすべての人間に報復するか。どちらを優先するかエッカルトには選択肢があった。結果として後者を選び、そのまま自身の父親を半殺しにして引退させることで現在のボスの地位についたのだ。

 兄弟のなかで穏健派の人間以外はすべて処分した。

 手負いの父親も遠くの地で余生をそれなりに楽しく過ごしているだろう。

 トップの入れ替わりにより多少のごたつきはあったが、数年で立て直し、今まで以上に堅固な組織体制へと生まれ変わらせた。今では父親の代よりも繁栄している。エッカルトはトップとして業務をこなしてはいるが、なるべく人前に顔を出さないよう務めていた。顔が割れて外敵から狙われるのが面倒だというのと、潜入任務などでエッカルト自身が動くことがあるためだ。組織の長ではあるものの、エッカルトは現場仕事を好んで行なっていた。

 そんな順風満帆なおり、部下から一つの情報がもたらされた。

『あのときの奴隷がようやく見つかりました』

 兄弟の粛清や父親の失脚の手引きなどで後回しになっていたが、あの時の奴隷の捜索はずっと続けていた。奴隷はうまく逃げ切ったようで、中々見つからずにいた。自分の経歴に初めて傷をつけた元凶ともいえるし、周囲の環境を整えるきっかけをくれた人間でもあり因縁は根深い。
 部下に処分させても良かったが、タイミングよく仕事にひと段落ついていたため、自らの手で処理することに決めた。対象は手紙配達の仕事をしているらしい。

 タイミングが違えば、シームに会うことはなかっただろう。

 初めてシームと接触したときの印象は『美少年』『顔は好み』というだけだった。透けるような白い肌には薄いそばかすが散っており、黄金色の髪と水色の瞳と相まって教会のステンドグラスに描かれた天使を連想させた。性格はというもの、意志脆弱で自分に自信のない、これまた甚振りがいのある人物だった。

 奴隷から抜け出したと聞いて勇敢でタフな人物像を予想していたために拍子抜けだったともいえる。事前情報で人柄など漠然と知ってはいたのだが。

『こんにちは。手紙の配達ですか?』

 初めて相対したときのことは今でも思い出せる。
 彼が自分に性愛の対象として好意を持っているのだとすぐに悟った。興味のない人間からの恋情など傍迷惑でしかないと思っていたが、不思議とシームに対してはそう思わなかった。
 上手く処理するために近づいたはずなのに、すんなりと好意を受け入れていた。

 自分は一生誰かを愛することなどない。

 人は愛するものに対し庇護欲を抱き、尽くし、嫌われたくないと考えるものだという。しかしエッカルトは生まれてこのかた一ミリもそのような感情を抱いたことはなかった。

 エッカルトは生まれたばかりの赤子も殺めることに躊躇いもないし、女子供が眼前で犯され、泣け叫んでいてもなんとも思わない。それが仕事であれば実行することに気後れを感じることもないだろう。

 そんなエッカルトのことを周囲の人間はクズだ、欠陥品だと責め立てる。自身でもそう思っているし、生まれながらの気質なのだからどうしようもない。

 ただ、それを表に出せば社会に溶け込むことが出来ないと頭では理解している。いくら裏社会といえど、人情を大事にする人間は多いのだ。だからこそ本性を知る構成員以外の前では仮面を被り、常に温和で笑顔を絶やさない人物像を演じていた。そうすることで人間関係を円滑に進めるためだ。

 そんな自分がシームに愛情を抱くなどあり得ない。

 裏切られれば躊躇うことなく殺すだろう。そうして死体を剥製にし、手元に永劫置いておくつもりだ。
 そうならないためにも今は自宅に軟禁し、シームの世界にいるのはエッカルトだけだという状況を作り出している。

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