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9話【完】
しおりを挟む奴隷として逃亡し、エッカルトの経歴に傷をつけた件に関しては、報復としていくつか罰を与えていた。
脆弱な肉体に鞭を打てば長持ちしないだろうことは想像に容易い。だからこそ心に罰を与えることにした。それこそが『愛する恋人の浮気』である。
それ用の女を雇い、すれ違わせたり街中で口付けをしている姿を見せつけたり、最終的には決定的な情事の姿を見せつけた。肉体的に女を抱くことは出来なくなっていたため、部下を使うことにした。シームの性格上、部屋の中に突入することはないと断言できたため、パーティションで姿を隠させて部下と女を交わらせた。
手の込んだことをしていると笑う人間もいるだろう。
だが、罪には罰が必要。
エッカルトの精神の軸となる絶対的なルールである。
全てが上手くいっていると思っていた。
エッカルトが浮気を繰り返したとしても、臆病で愛情深いシームはそばに居続けるだろうと考えていた。
しかし蓋を開けてみたらどうだろう。
シームは自分の心の弱さを理解し、エッカルトの元では幸せになれないという答えを理性的に導き出した。
『……わ、別れよう……ぼ、僕、もうエッカルトのこと好きじゃなくなったんだ』
その言葉を聞き、エッカルトは初めて我を忘れるほど激怒した。兄弟に陥れられたときにも感じたことのない感覚だった。
このような激情が己の中にあったことも驚きだし、求めていた展開と異なることに狼狽した。気がつけば仕事用の睡眠剤を与え、閉じ込めていた。
なにをしているのかと呆れる自分もいたが、結果的にはこれで良かったのだ。シームも今まで以上に幸せを感じているだろうし、己の欲望も満たされる。
宿で着替えを終えたエッカルトはそのままシームの待つ屋敷へと戻った。余程のことがない限り仕事は部下に任せ、数日は二人で共に過ごすつもりだ。
エッカルトは仮面を被り、部屋の扉を開けた。
「待たせたね、シーム」
「エッカルト! お帰りなさい!」
勇み足でエッカルトの前まで来たシームは腕を広げて抱きつこうとする。だが寸前で手を止め、顔を赤らめてもじもじと腕を下ろした。
大方、己の大胆な行動に羞恥を覚えたとかだろう。シームは能動的な愛情表現に照れを感じる奥ゆかしい性格なのだ。だからこそ普段はエッカルトの方から抱きしめて、口付けをしていた。
けれど今日は少し意地悪をしたい気分で。
わざと知らぬふりをして微笑みかける。そうすればシームはさらに顔を赤らめ、エッカルトの服の袖を掴む。落ち着かない様子で視線を右往左往させている様子に自然と頬が緩んだ。
「ただいま」
エッカルトはシームの期待に応えるように抱きしめ、黄金色の柔らかい髪を優しく撫でたのだった。
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