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3話
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ヴィダルの自宅には初めて足を踏み入れたのだが、見かけに反してそれなりに整頓されていた。黒を基調としたデザインは彼の雰囲気によく似合っている。
急な事態に混乱しながらも辺りを見渡していれば、彼は不機嫌な面持ちで言葉を放つ。
「どこいってたんだ」
そのときなぜかどくりと心臓が跳ねた。
「なに黙ってる、なんとか言えよ」
いつにも増して真剣な表情のヴィダルに思わず腰が引けてしまう。どうしてだか罪悪感が心の奥底から湧き上がってきた。
お見合いをしてきたと一言言えばいいだけのことなのに、上手く口が動かない。
そんなフルダを見かねたヴィダルは苛立ち紛れに頭をガシガシ掻き、鋭い視線を寄越す。
「知ってんだ、お前が見合いしてたの」
「……っ」
なんで、どうして、と口から出そうになるよりも早く、ヴィダルは憎々しげにフルダを睨みつけた。
「パン屋から聞いた。あのおばさん、俺がお前の幼馴染だって知ってるのかわからねぇが、道で合えばたまに声かけてくんだ。今日も歩いてるときに会って見合いの話聞かされた」
たしかに以前、ヴィダルの話をしたことがあるかもしれない。彼は荒っぽそうな見た目ではあるものの端正な顔立ちをしており、その上腕利の彫り師として有名だった。
だからナーナもヴィダルの顔を知っており、今日偶然出会ったときに見合いの話をしたのだろう。
俯き考え込んでいたフルダを見て、ヴィダルは舌打ちをした。そして。
「んんっ!」
ヴィダルに強く腕を引かれたと思えば、突然口元を覆う温かい感触。これはキスだと気づいたのは、ヴィダルがその舌でフルダの唇をこじ開けてからだった。
「……っんん」
ヴィダルはその分厚い舌でフルダの口内を犯すように蹂躙した。何もわからないフルダはなされるままにヴィダルの服の袖を掴む。
重なった口からはぴちゃぴちゃと水音が響く。息苦しさに涙の膜を張ったフルダは喉の奥から震える声を上げた。
ようやく唇が離れ、フルダは胸を喘がせながら呼吸を整える。突然の事態に頭が混乱し、とにかく冷静になろうと胸元に手を押し当てながら眼前の男に視線を向けた。
その視線の先にいたヴィダルは顔を真っ赤にして荒い呼吸をこぼすフルダとは異なり、まるで憎い仇でも目の前にしているような様子でコチラを睨みつけてきていた。その鋭い視線に思わず恐れ慄いていれば、ヴィダルはポツリとこぼす。
「誰の許可を得て他のやつのものになろうとしてる」
「……ぇ」
フルダは小さく言葉をこぼす。
ヴィダルは一見怒りに身を焦がしているように見えるが、よく見ればその瞳は揺れていた。悲しみにくれたようなその瞳はいつもの彼とは程遠いもので、思わず目を見張ってしまう。
しかしその横柄な態度と眉根を寄せる表情はどう見てもはらわたが煮えくりかえっているようにも見えた。
不安定なヴィダルの姿に一瞬動揺していたのがあだになったのだろう。彼は痛いほど強くフルダの細い腕を掴み、口付けを繰り返した。
噛み付くようなそのキスはまるでフルダの全てを犯していくようで、知らぬうちに目端から涙がこぼれ落ちる。
「……っ、お前が悪いんだ」
キスの合間に口にする彼の言葉は耳に届かない。口付けが終わったかと思えば、ヴィダルはフルダをベッドへと突き飛ばした。
シーツからはヴィダルのつけている香水の香りがして、まるで彼に包み込まれているような気分に陥った。とん、と彼はフルダの顔の横に手をつき、見下ろすように覆い被さってくる。
そのときフルダはようやく己の状況を悟った。
「……ヴィダル怖いよ。ねえ、何するつもり?」
「何って? 分かるだろ、お前ももう大人なんだから」
彼の低い声はいつにも増してねっとりと艶っぽく、フルダの心臓は急激に鼓動を早めていく。急な状況に驚き、自然と体を震わせなら口を開く。
「っ、冗談にしてはタチが悪いよ。さっきだってキス──」
「冗談なんかじゃねぇ」
ヴィダルはフルダの頬をなぞりながら、まるで獲物を前にした獣のような視線を送ってくる。自分がひどく矮小な存在に思え、肩を震わせていれば彼はさらに続けた。
「俺はいつも本気だ。お前に対してだけは、な」
濃艶な目線と言葉が体を痺れさせていく。彼の瞳は決して嘘をついておらず、眼前に横たわる女をまっすぐ映していた。
心臓がさらに早鐘を打ち、艶やかな視線にぞくりと背中に電流が走る。
急な事態に混乱しながらも辺りを見渡していれば、彼は不機嫌な面持ちで言葉を放つ。
「どこいってたんだ」
そのときなぜかどくりと心臓が跳ねた。
「なに黙ってる、なんとか言えよ」
いつにも増して真剣な表情のヴィダルに思わず腰が引けてしまう。どうしてだか罪悪感が心の奥底から湧き上がってきた。
お見合いをしてきたと一言言えばいいだけのことなのに、上手く口が動かない。
そんなフルダを見かねたヴィダルは苛立ち紛れに頭をガシガシ掻き、鋭い視線を寄越す。
「知ってんだ、お前が見合いしてたの」
「……っ」
なんで、どうして、と口から出そうになるよりも早く、ヴィダルは憎々しげにフルダを睨みつけた。
「パン屋から聞いた。あのおばさん、俺がお前の幼馴染だって知ってるのかわからねぇが、道で合えばたまに声かけてくんだ。今日も歩いてるときに会って見合いの話聞かされた」
たしかに以前、ヴィダルの話をしたことがあるかもしれない。彼は荒っぽそうな見た目ではあるものの端正な顔立ちをしており、その上腕利の彫り師として有名だった。
だからナーナもヴィダルの顔を知っており、今日偶然出会ったときに見合いの話をしたのだろう。
俯き考え込んでいたフルダを見て、ヴィダルは舌打ちをした。そして。
「んんっ!」
ヴィダルに強く腕を引かれたと思えば、突然口元を覆う温かい感触。これはキスだと気づいたのは、ヴィダルがその舌でフルダの唇をこじ開けてからだった。
「……っんん」
ヴィダルはその分厚い舌でフルダの口内を犯すように蹂躙した。何もわからないフルダはなされるままにヴィダルの服の袖を掴む。
重なった口からはぴちゃぴちゃと水音が響く。息苦しさに涙の膜を張ったフルダは喉の奥から震える声を上げた。
ようやく唇が離れ、フルダは胸を喘がせながら呼吸を整える。突然の事態に頭が混乱し、とにかく冷静になろうと胸元に手を押し当てながら眼前の男に視線を向けた。
その視線の先にいたヴィダルは顔を真っ赤にして荒い呼吸をこぼすフルダとは異なり、まるで憎い仇でも目の前にしているような様子でコチラを睨みつけてきていた。その鋭い視線に思わず恐れ慄いていれば、ヴィダルはポツリとこぼす。
「誰の許可を得て他のやつのものになろうとしてる」
「……ぇ」
フルダは小さく言葉をこぼす。
ヴィダルは一見怒りに身を焦がしているように見えるが、よく見ればその瞳は揺れていた。悲しみにくれたようなその瞳はいつもの彼とは程遠いもので、思わず目を見張ってしまう。
しかしその横柄な態度と眉根を寄せる表情はどう見てもはらわたが煮えくりかえっているようにも見えた。
不安定なヴィダルの姿に一瞬動揺していたのがあだになったのだろう。彼は痛いほど強くフルダの細い腕を掴み、口付けを繰り返した。
噛み付くようなそのキスはまるでフルダの全てを犯していくようで、知らぬうちに目端から涙がこぼれ落ちる。
「……っ、お前が悪いんだ」
キスの合間に口にする彼の言葉は耳に届かない。口付けが終わったかと思えば、ヴィダルはフルダをベッドへと突き飛ばした。
シーツからはヴィダルのつけている香水の香りがして、まるで彼に包み込まれているような気分に陥った。とん、と彼はフルダの顔の横に手をつき、見下ろすように覆い被さってくる。
そのときフルダはようやく己の状況を悟った。
「……ヴィダル怖いよ。ねえ、何するつもり?」
「何って? 分かるだろ、お前ももう大人なんだから」
彼の低い声はいつにも増してねっとりと艶っぽく、フルダの心臓は急激に鼓動を早めていく。急な状況に驚き、自然と体を震わせなら口を開く。
「っ、冗談にしてはタチが悪いよ。さっきだってキス──」
「冗談なんかじゃねぇ」
ヴィダルはフルダの頬をなぞりながら、まるで獲物を前にした獣のような視線を送ってくる。自分がひどく矮小な存在に思え、肩を震わせていれば彼はさらに続けた。
「俺はいつも本気だ。お前に対してだけは、な」
濃艶な目線と言葉が体を痺れさせていく。彼の瞳は決して嘘をついておらず、眼前に横たわる女をまっすぐ映していた。
心臓がさらに早鐘を打ち、艶やかな視線にぞくりと背中に電流が走る。
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