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35.守りたい 啓一郎side
梅本は突然のことに驚いたのか、ナイフを離す。
隙ができたと思った俺は、すぐさま梅本へと飛びかかった。
紗雪を片腕に引き寄せ、それから少しでも梅本から距離を置かせるために突き飛ばす。
梅本が離したナイフを拾おうとしゃがみ込んだ隙に、俺は思いっきり頬に殴りこかった。
「……うっ!」
目元は思いっきり吹き飛んだ。
だが一瞬遅かったのだろう。
梅本はすでにナイフを再び手にしていたのだ。吹き飛んだ際にちょうど突き飛ばしていた紗雪の足元に転がっていた。
呆然とする紗雪に目をつけた梅本はそのナイフを振りかざそうとする。
俺は反射的に────。
「紗雪っ!」
小さく震える紗雪を庇った。
腹に激痛を覚えたが、紗雪を守れて良かったと思った。
力を振り絞り、目の前にいる梅本に対し力一杯の膝蹴りを喰らわせる。
それがちょうど顎に入ったのか、もう一度吹き飛んだ梅本はピクリとも動かなくなった。どうやら急所の顎だったせいか、気絶したようだった。
「け、啓一郎さん……啓一郎さんっ!」
紗雪の俺を呼ぶ声が聞こえる。
腹が痛くて痛くて仕方ない。
「ち、血が……血が出て……」
どうやら俺は刺されたようだった。
そりゃあ痛いはずだと思った。
腹部を触ると手のひらには赤い鮮血。
「こりゃ…………け、っこうな重症、だな……」
「しゃ、しゃべらないで! 今すぐに手当するから。きゅ、救急車も呼ばないと……」
紗雪は泣いていた。
どうやら梅本に誘拐されたときに所持していたハンドバッグがそばに置いてあったのか、その中から自分のスマートフォンを取り出して急いで電話話する。
慌てながら救急車を呼ぶ声が聞こえた。
激痛によって冷や汗が出る。
手足がだんだんと冷たくなっていく感じに、医者が刺されてちゃ意味ないなと思った。
「どうしたんだ! な、何があった!」
「きゃぁぁぁ!」
「退きなさい、警察です」
部屋の外で野次馬が集まっていることがわかる。どうやらフロントスタッフが警察を呼んでくれたようで、バタバタと数人の警察官が近づく足音が聞こえる。
「け、啓一郎さんを……た、助けてください!」
泣きながら傷口の血を止めようと服の上から抑える紗雪。
それでも抑え切れない血液が溢れ出す。
手足は冷たいのに腹は暑くて仕方がない。
「さ、ゆき……俺は大丈……夫。だ、から……泣か、ないで……」
ぽろぽろと雫が落ち、俺の顔を濡らす。
紗雪の膝に頭を乗せられた俺は、ゆっくりと彼女の顔に手を伸ばす。
そして涙を流し続ける紗雪の目元を拭った。
慌てる警察官たちは容疑者────気絶している梅本に近づくが、どうやら目覚めたらしい彼が暴れ始めたために数人がかりで取り押さえているようだった。
「それよりも……け、啓一郎さん。もうすぐ救急車来るから、だ、大丈夫……絶対助かるよ」
「うん…………」
答えるが、段々と瞼が落ちてくる。
新たにそばに駆け寄る人間の気配がする。
「おい、啓一郎! 刺されるなんて聞いたないぞ! 奥方、応急手当てするから清潔な布と水、用意して!」
てきぱきと指示をする声────友人の熊沢だった。
医者の熊沢に指示された紗雪は「……はい!」と涙ながらに答える。
ああ、これなら大丈夫だ。
安心した俺は一気に体の力を抜く。
熊沢がまだなにか言っているが、耳に届かない。とにかく眠くて仕方がなかった。
そのまま、俺の意識は暗闇に閉ざされた。
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