36 / 44
35.守りたい 啓一郎side
しおりを挟む梅本は突然のことに驚いたのか、ナイフを離す。
隙ができたと思った俺は、すぐさま梅本へと飛びかかった。
紗雪を片腕に引き寄せ、それから少しでも梅本から距離を置かせるために突き飛ばす。
梅本が離したナイフを拾おうとしゃがみ込んだ隙に、俺は思いっきり頬に殴りこかった。
「……うっ!」
目元は思いっきり吹き飛んだ。
だが一瞬遅かったのだろう。
梅本はすでにナイフを再び手にしていたのだ。吹き飛んだ際にちょうど突き飛ばしていた紗雪の足元に転がっていた。
呆然とする紗雪に目をつけた梅本はそのナイフを振りかざそうとする。
俺は反射的に────。
「紗雪っ!」
小さく震える紗雪を庇った。
腹に激痛を覚えたが、紗雪を守れて良かったと思った。
力を振り絞り、目の前にいる梅本に対し力一杯の膝蹴りを喰らわせる。
それがちょうど顎に入ったのか、もう一度吹き飛んだ梅本はピクリとも動かなくなった。どうやら急所の顎だったせいか、気絶したようだった。
「け、啓一郎さん……啓一郎さんっ!」
紗雪の俺を呼ぶ声が聞こえる。
腹が痛くて痛くて仕方ない。
「ち、血が……血が出て……」
どうやら俺は刺されたようだった。
そりゃあ痛いはずだと思った。
腹部を触ると手のひらには赤い鮮血。
「こりゃ…………け、っこうな重症、だな……」
「しゃ、しゃべらないで! 今すぐに手当するから。きゅ、救急車も呼ばないと……」
紗雪は泣いていた。
どうやら梅本に誘拐されたときに所持していたハンドバッグがそばに置いてあったのか、その中から自分のスマートフォンを取り出して急いで電話話する。
慌てながら救急車を呼ぶ声が聞こえた。
激痛によって冷や汗が出る。
手足がだんだんと冷たくなっていく感じに、医者が刺されてちゃ意味ないなと思った。
「どうしたんだ! な、何があった!」
「きゃぁぁぁ!」
「退きなさい、警察です」
部屋の外で野次馬が集まっていることがわかる。どうやらフロントスタッフが警察を呼んでくれたようで、バタバタと数人の警察官が近づく足音が聞こえる。
「け、啓一郎さんを……た、助けてください!」
泣きながら傷口の血を止めようと服の上から抑える紗雪。
それでも抑え切れない血液が溢れ出す。
手足は冷たいのに腹は暑くて仕方がない。
「さ、ゆき……俺は大丈……夫。だ、から……泣か、ないで……」
ぽろぽろと雫が落ち、俺の顔を濡らす。
紗雪の膝に頭を乗せられた俺は、ゆっくりと彼女の顔に手を伸ばす。
そして涙を流し続ける紗雪の目元を拭った。
慌てる警察官たちは容疑者────気絶している梅本に近づくが、どうやら目覚めたらしい彼が暴れ始めたために数人がかりで取り押さえているようだった。
「それよりも……け、啓一郎さん。もうすぐ救急車来るから、だ、大丈夫……絶対助かるよ」
「うん…………」
答えるが、段々と瞼が落ちてくる。
新たにそばに駆け寄る人間の気配がする。
「おい、啓一郎! 刺されるなんて聞いたないぞ! 奥方、応急手当てするから清潔な布と水、用意して!」
てきぱきと指示をする声────友人の熊沢だった。
医者の熊沢に指示された紗雪は「……はい!」と涙ながらに答える。
ああ、これなら大丈夫だ。
安心した俺は一気に体の力を抜く。
熊沢がまだなにか言っているが、耳に届かない。とにかく眠くて仕方がなかった。
そのまま、俺の意識は暗闇に閉ざされた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる