22 / 48
22.似合いの二人
「それでは会場までエスコートさせてください」
ロレンシオはそんな抜け殻のようなアデリーナに優しく手を出した。
抜け殻のような彼女だったが、こくりと頷くとロレンシオの分厚い手に自身の白雪のような手を預ける。
そして二人は並んでパーティー会場へと入っていった。
「あれが隣国からきた公爵家の姫君か。たいそうな美貌の持ち主だと聞いてはいたが、本当にお美しい」
「隣に並んでいるのはフォンターナの三男か。あの二人が並ぶとまるで一枚の絵画のように神々しいな」
「フォンターナはうまく隣国の要職の人物に取り入ったということか」
二人のことを噂する声が耳に届くも、本人たちは特に気にした様子もないようだった。
すると突然、二人の行手を妨げるものが現れる。
「お初にお目にかかる、俺は王国の王太子をしているガブリエルと申す。異国の姫君、あなたは非常にお美しい! よければこの俺と踊ってはくれまいか?」
王太子といえば、以前王宮メイドから嫌いな食べ物を床に落としたみたいなことを聞いたことがあったような気がする。そのときは子供なのかなと思っていたが、目の前の王太子を名乗る男はどう見ても成人していた。
隣にエスコートするロレンシオがいるのに関わらず、当たり前のようにアデリーナをダンスに誘っているのを見て私でも常識はずれのことをしているのだと分かるものだ。
「……申し訳ございませんが、私のファーストダンスは本日エスコートをしてくださっているフォンターナ様がいらっしゃいますのでお引き受けすることは叶いません」
「フォンターナ……」
「ははっ、御前を失礼いたします。王太子殿下」
ロレンシオは王太子に頭を下げる。
アデリーナはというと、恐ろしいほど感情を見せずに淡々と断り文句を述べていた。
断られた王太子は気分を悪くしたのか、鋭い瞳でロレンシオを睨みつけたあと、鼻息を荒くして去っていった。
なんというか、すごい人だ。
もしかしてこの国の未来は暗いのかもしれない。
「あんな人が王太子で本当に大丈夫なんでしょうか……」
アデリーナとロレンシオのあとをぴったりとつきながら飛んでいる私はぽつりとこぼした。
嵐のような一幕から気を取り直すようにロレンシオは軽く咳をする。視線が私の方を向いており「大人しくしていろ」と訴えかけている。
「こほん。……アデリーナ嬢。それではファーストダンスをお誘いしてもよろしいでしょうか」
「……はい、よろこんで」
アデリーナはロレンシオと共に多くの人が体を寄せ合って踊る中央へと足を運んでいった。
「……綺麗だな、二人とも」
深紅のドレスのアデリーナも、軍服でエスコートするロレンシオも思わず目を引き寄せてしまうほどの存在感があった。
どう見ても二人はお似合いで、周囲の人間たちも「本当にお美しいな」と口々に言っている。
「……私もロレンシオ様と踊ってみたかったなぁ…………」
漏れ出た本音に自分でも驚き、思わず口元に手を寄せる。
何を言っているのだと被りを振った後、私は踊り続ける二人の横目に場所を移動することにした。
会場に来る前までは楽しみにしていたパーティー料理だったが、今はなんとなく食欲がなかった。
ふらりと宙を飛び、語らい合う貴族たちの横を通り抜けると色々な話が耳に届く。
「私の娘なんか公爵の婿にぴったりでしょう。どうですか、今度合わせてみるのは」
「ははは、確かに名案だ」
「王太子殿下はいつまであのような態度でいらっしゃるのか。この国の王にはやはり聡明で政治にも明るい第二王子の方が適しているのでは」
「……誰かに聞かれたらどうするのですか」
彼らは政治やら社交やら様々なことを語らっていた。
その中でふと気になる言葉を聞く。
「ロレンシオ殿が異国の令嬢と婚約することになりそうですね」
「ああ、おそらくあの顔で令嬢を落としたに違いない。さすが売女の息子だ」
売女の息子?
私はロレンシオに関する悪い噂に眉を顰めながら頭を捻る。
ロレンシオの家族の話はあまり聞いたことがない。この舞踏会は父親から言われたから出席すると述べてはいたが、それだけだ。
ロレンシオのいないところでいけないことを聞いてしまったような気がして、どこか身の置き場のないような気持ちだった。
私は気分を変えるためにバルコニーへと出た。ロレンシオの屋敷にあるバルコニーよりも数倍は広いそこからは、庭園が見えた。以前、幽霊になって初めて目覚めた場所だ。
「……….綺麗だな」
呟きながら、手すりに体を預ける。
空はすでに星の光が届くほど真っ暗で、しんと静まり返る外と熱気の漂う会場内とでは雲泥の差があった。
少しだけ熱った体にはちょうどいい風が吹き付けており、少しだけ気分が良くなった。
誰もいないバルコニーで一人でいると思い出してしまう。
ロレンシオとアデリーナというお似合いの2人。ロレンシオは婚約者になるかもしれないと言っていた。
それを聞いたとき私とは異なる世界人なんだと感じたが、改めて二人の姿を目にしたとき愕然とした。
私はこの世界に介入することはもう出来ないのだと。
「…………ロレンシオ様…………」
自然と名前を口にしていた。
一人つぶやいた言葉は静かな闇へと溶ける。だが。
「……呼んだか?」
声の主に顔を向けると、今の今まで思い浮かべていた男の姿があった。
あなたにおすすめの小説
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?