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33.情報屋へ依頼
ロレンシオは老女に聞く。
「ベルティーニ領からノンナ・ベルティーニの身体を持ち出し、王都に届けることのできる人材はいますか?」
老女は訝しげに顔を顰め、ロレンシオに対して探るような目線を送った。
たしかに側から見れば、ロレンシオは会ったこともない田舎令嬢の身体を持ち出そうと企む変人だ。
知り合いや家族、はたまた政敵の関係者ならば分からないこともないが、中央政治とは全く関わることもないベルティーニ男爵家の娘である。何を目的としているのか検討もつかないはずだ。
ロレンシオはどこか居心地の悪そうな面持ちだったが、それでも続ける。
「どうしても今必要なんです。できれば数日中に」
「数日中じゃと? この王都とベルティーニ領じゃどれだけ離れているのか主は知らんのか?」
「いいえ、知ってます。無理を承知でお願いしているんです。あなたは馬車で1ヶ月かかるベルティーニ領の噂話をたった数日で手に入れてきました。だから──」
「お嬢ちゃんの身体をここへ運んでくるのも短期間でできるのではないかと?」
老女はロレンシオの話に割り込むようにして言葉を漏らす。
底知れない瞳に私はどくりと心臓を鳴らした。冷や汗が止まらず、この老女が只者ではないのだと悟る。
ロレンシオも一瞬言葉を失ってはいたが、決意を込めた目で見返していた。
私のためにロレンシオは一生懸命になってくれているのだ。ここで怯んでいてはおんなが廃る!
ロレンシオの背に隠れるように佇んでいた私は彼の隣に並んで言った。
「お願いします、おばあちゃん! 聞こえないとは思うけど、どうか心当たりがあれば教えてください」
私の言葉に驚いたのか、ロレンシオは一瞬私の方へと視線を向けた。
老女は肩をすくめ、ゆっくりとそばに置かれている椅子に腰掛けた。
「……ふぅ、わかった。主がそのお嬢ちゃんの身体を悪用してわしも巻き込まれることを危惧していたが、それはなさそうじゃな。それならまあいい、私の方でどうにかしてやろう」
私とロレンシオはパッと表情を明るくする。どこか緊張感のあった空気が緩む。
ほっとした面持ちのロレンシオは老女に対し、もう一度確認するように聞く。
「……本当ですか? ノンナの身体を王都へと移動させていただけるんですか」
「くどい。わしがどうにかしてやると言ったからにはそれを信じなさい。……じゃが、その代わりといっては何だが、こっちは弾むように」
老女は胸元にて親指と人差し指で丸を作る。報酬を弾め、ということだろう。
「ロレンシオ様……お金は身体に戻ったら絶対に返しますから!」
宣言するように述べるが、ロレンシオは完璧に無視する。
その横顔からは『お前みたいな田舎令嬢の貧乏人が金の心配なんてするんじゃない』とでも言わんばかりの感情が伝わってくる。
……あとでもう一度宣言しておく必要がありそうだ。
「……ちなみにどのくらいの時間でここまで運んでくることは可能そうですか?」
「そうじゃな。早ければ3日程度で可能じゃ。だがベルティーニ男爵家に騒がれないように工作し、なおかつ身体を運ぶという犯行をバレずに行うためには大体1週間程度はかかるじょろうな」
「わかりました、ありがとうございます」
たった1週間でこの王都まで身体を運ぶことが可能だなんて信じられないことだが、ロレンシオの反応から見てこの老女であれば本当に可能なのだろう。謎が深まる。
腰をさすりながら老女は言った。
「身体はここではなく、郊外の宿屋の一室に運ばせることにする。運んだ暁には主の屋敷へと手紙で知らせる。それまでは大人しく待っとれ」
承諾したロレンシオは老女の手のひらに先程渡した倍の数の金貨を乗せ、礼を言って店を後にした。
路地裏で誰も見ていないことを確認したロレンシオは私に顔を向ける。
「暴走してあの老婆の跡をつけたりするんじゃないぞ? あの婆さんのことを調べたやつは3日後街の外れにある側で水死体になって発見されたって言う噂もあるくらいなんだ。自分が見えてないからって過信してたら足元を掬われる可能性さえあるくらい、あの婆さんは危険なんだからな」
まるで言うことを聞かない子どもに言い聞かせるように話すロレンシオにむっと頬を膨らませる。
「分かってます! あのお婆ちゃんなんだか怖そうだったし、危険の中には飛び込みません……」
「ならいい。妖怪かってくらい鋭いからな。気をつけておけよ。…………それにしても1週間か。じっと待つにしては短くも長くもあるような微妙な時間だな」
私も同意するようにして頷いた。
「そうですね、でも、ロレンシオ様とこの1週間は今まで通り一緒に楽しく過ごせるって考えると、なんだか嬉しいです」
「勝手に言ってろ」
ロレンシオはそっぽを向き、冷たく言い放つ。
けれど髪の隙間から見える耳が赤くなっているのを見つけて嬉しさで微笑みが溢れる。
この時の私は慢心していのかも知れない。
これでこの魂だけの姿から肉体を持つ人間へと戻れるかもしれないということを。
自分がこのまま魂だけのままであればいつか消えてしまう可能性があるということはすでに頭の中から忘れ去られていた。
────この数日後、ロレンシオは突如私の目の前からいなくなってしまったのだ。
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