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40.出発準備 ロレンシオside
俺はベルティーニ領へと出発準備を整えるため、まずは騎士団へと足を向けた。
まず前提として騎士団の仕事の方はどうなっているのか気になっていた。
鍛錬場へとやってくるとちょうどヨーゼフが素振りをしている最中で、俺の顔を見るとこちらに走ってきた。
「おい、聞いたぞヨーゼフ! お前、なんか病気になってたんだって? 親父さんの使いって人がわざわざこっちにやってきて言ってたぞ」
「……ああ、ちょっとな。今はこの通りピンピンしてるから心配するな」
「はあ、親父さんからって聞いててっきり怒らせでもして、閉じ込められてたんじゃないかって一瞬勘ぐってたよ。勘違いでよかった」
ヨーゼフの鋭すぎる勘に苦笑いしつつ、俺は手短に要件を伝えることにした。
「すまない、騎士団の仕事なのだが今から最低2ヶ月半は出来ないことになった。ちょっと遠出をすることになってな……」
「は、はあ!? 遠出? 最低2ヶ月半って……どうすりゃいいんだよ!」
片道1ヶ月で往復するのに2ヶ月はかかるのだ。それに険しい山道も越えなければならないため、予想外の時間ロスも出てくるだろう。向こうでの滞在時間も考えれば、2ヶ月半くらいは猶予が欲しかった。
「今から団長に話をつけてくる。もしダメだったらクビになるしかないな……ははは」
「はははって。笑い事じゃないんだが……まあお前の決めたことなんだったら口は出さねえ。だがな、危険なことはすんじゃねえぞ」
「わかっている」
俺はヨーゼフと言葉に深く頷いた。
ヨーゼフは真剣な面持ちからいっぺん、顔を綻ばせて口を開く。
「んで、騎士団の仕事をほっぽりだしてまで一体どこへ行くんだ? 何をするのかくらい教えてくれよ」
「……そうだな。迷惑かけるんだから、少しくらいは伝えておかねばない。俺はある人を助けるために行く。変なやつだけど、このままにはして置けないからな」
「もしかしてそれってお前の大事な人?」
ヨーゼフに尋ねられ、一瞬口籠る。
胸ポケットにいるノンナは聞き耳を立てているだろう。目を彷徨わせる戸惑いの感情を抑え込んだ俺はきっぱりと答えた。
「ああ。俺の大事な人だ。大切にしたいと思ってるやつだ」
そう答えてようやく胸がすっきりした気がした。
ずっと燻っていたモヤモヤがようやく解消されたような心持ちだった。
胸ポケットのノンナからは特に反応はなく、じっとしていた。そのことに一抹の不安を覚えるが、言ってしまったものは仕方がない。
開き直った俺はにやにやとした顔を向けてくるヨーゼフを置いて、騎士団長に報告した。
結果は休暇を認めるとのことで、あまりのスムーズさに驚きを隠せなかったのは仕方がない。
『ロレンシオ、お前は少し働きすぎだ。2ヶ月半くらいの休暇、楽しんでこいよ』
休暇ではなかったが、その心遣いに感謝してお礼を言った。
そのままの足で今度は王城へと向かった。
父親に見つかってしまうリスクもあったが、彼女には会っておかねばならないと考えたからだ。
面会の許可を得て、応接間にて対峙する。
「お時間を割いてくださりありがとうございます、アデリーナ嬢」
「いいえ、ロレンシオ様。あなたとの会話を楽しみに待っていたのです。……それで、本日はどんな超自然現象のネタを持ってきてくださったの!?」
相変わらずの前のめりな様子に苦笑いを浮かべながら、俺はポケットにいるノンナを手のひらの上に移動させる。
ノンナは少しだけ挙動不審に当たりを見渡していたが、眼前のアデリーナが凝視してくることに気がついて大人しく向き合っていた。
「こいつかノンナです」
「の、の、の、ノンナさんですって……このネズミが。もしかして魂を憑依させたのかしら?」
「おそらくそうだと思います。このネズミと対面したときに懐かしい感覚を覚えたのと、まるで人間のような動きをすることで気がついたんです」
驚きを隠せない様子のアデリーナに説明をしていると手のひらの上にいるノンナもこくりと頷いた。
ネズミらしからぬその様子に信憑性を感じたのか、アデリーナは先ほどにもまして前のめりな様子で言葉を紡ぐ。
「魂だけだったノンナさんは今はネズミになっているってことですね! でもネズミになるなんて、なにか相当な理由があったのかしら? もしかして……魂が消えかけてしまって急遽近くにいたネズミの身体を借りたとか?」
チュウ。
ノンナは小さく鳴き、曖昧な手振りをしたあと頭を縦に振った。どうやらアデリーナの質問は合っていることは合っているらしい。
けれどそれだけの理由ではないらしい。
そこで何かを思いついたアデリーナはそばにあった本のページを一枚破りとり、裏の白紙部分に何かを書き出さした。
「これは言語表です。一文字ずつ文字が書かれているのでこれを使って伝えたいことを教えてください。文字の上に乗ってくれれば解読していけますので」
たしかに時間はかかりそうだがその方が確実だ。
ノンナネズミはこくりと頷くと、文字で俺たちに伝えてきた。
『タマシイノナイカラダニシカヒョウイデキナイ』
魂のない体にしか憑依できない。
つまりは死体にしか乗り移れないということだった。
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