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強引な触れ合い2
しおりを挟む見下ろすボジェクの視線とかち合う。
(……どうして)
──なんでそんなに悲しい目をしているの?
自然と口に出しそうになった。
きっと怒りを滲ませた瞳で睨みつけているのだと思っていた。ヘドヴィカの腕を引くボジェクは見るからに憤っており、今の口付けはその感情をぶつけたものだと思っていたからだ。
だが、彼のヘドヴィカを見る目はあまりにも哀しげで、切なく──まるで縋るように見えてしまった。
ヘドヴィカが口を開くよりも早く、ボジェクは唇を戦慄かせた。
「行くな」
最初、目の前の男の口から出た言葉だと思えなかった。
何を言っているのか理解できなかった。
惑ったように眉尻を下げるヘドヴィカの腕を頭上で縫い止めながら、ボジェクは彼女の肩口に顔を寄せ、うずめる。
「あいつのとこに、行かないでくれ……どこにも行くな」
「わ、私がどこへ行くって──」
「っ、あいつを見るな。ヘドヴィカ…………どうか、頼む」
子供のように駄々を捏ねているボジェク。
今にも消えそうなほどか細く、震える彼は小さい子供のようで。そのときようやく理解した。
(この人、怯えてるんだわ)
ボジェクはヘドヴィカがアダムのところへ行ってしまうと思って怒り、そして悲しんでいる。それ故に、強引な行動をとっていたのだと。
(もしかして嫉妬……されてるのかしら)
行くな、と縋るような言葉と行動。
アダムを見て欲しくないという懇願。
どこをとっても嫉妬しているとしか思えなかった。
恋愛経験ゼロのヘドヴィカであってもそれくらいは理解できた。
ボジェクは昔、ヘドヴィカがアダムに恋をしていたことを知っている。だからこそ、昔好きだった人の元へ行ってしまうことを恐れたがための行動だったのかもしれない。
(…………本当にこの人は子供みたいね)
自己中心的な言動や感情的な行動の数々は、大人とは思えない。呆れてものが言えなかった。
けれど。
(そんな彼を嫌と言って突き離したくないって思ってる私もいる。ほんと酔狂ね)
ヘドヴィカは知らず知らずのうちに彼の逞しい背に手を回していた。
まるで感情的になった子供をなだめるように、背中を優しく撫で続ける。
彼の吐息を首元に感じながら、ヘドヴィカはひたすら背中を撫で続けた。
途中、ボジェクは額を肩口に強く押し付けてくる。
(褒めて欲しい、もっと触って欲しいって言ってるみたい……まるで猫のようね)
ヘドヴィカは実家を度々出入りしていた商人が時折連れてきていた飼い猫を思い出した。白い毛皮に黒ぶちのその子は猫にしては甘えん坊で人懐っこく、ヘドヴィカの体に己の体を擦り付けできたらは、足で何度もふみふみしてきたりした。
そんな愛らしさに溢れる動物と、大の大人で意地悪の権化といってもいいようなボジェクを一緒にするだなんて馬鹿げた話だ。
それでも今のボジェクの行動が猫と重なって見え、自然と連想してしまうものだから致し方ない。
ヘドヴィカはそっと囁いた。
「大丈夫です。私はどこにも行きません」
「嘘、じゃないよな?」
「ええ、もちろん。ここにずっといますから」
そうやって語れば、ボジェクの体からは次第に力が抜けていった。先ほどまで強張っていた身体が緩み、ヘドヴィカへと寄りかかる。
ヘドヴィカの言葉に安心を覚えたボジェクは、ベッドに縫い止めていた彼女の腕を解放した。
顔を上げてヘドヴィカの瞳を見据える。
真っ赤な瞳が突き刺さる。息のかかるほどの至近距離で見つめられ、呼吸が止まりそうになった。
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