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ヘドヴィカの提案2
しおりを挟むヘドヴィカの反応を見て、ボジェクは「あの方はいつも無茶振りばかりする」と独りごちった。
人を振り回してばかりのボジェクであっても、さすがに仕えている皇太子殿下には頭が上がらないらしい。
昔からは想像もつかない新たな一面に新鮮味を感じていれば。
「……もうすぐ知らされるからお前には話しておこうと思う。殿下が視察と婚約者への顔見せのために隣国へ赴いていたことは知っているだろう? それでなんだが……婚姻の時期がいきなり早まったんだ」
「早まったって……」
「3ヶ月後だ。元々1年後か2年後を予定していたんだが、急遽無理に推し進めることになったらしい。殿下は一体何を考えているのか……まあ俺も人のことは言えないがな」
後半はぼそりと呟かれ、ヘドヴィカはうまく聞き取ることが出来ずに目を瞬かせる。彼は渋面で言った。
「そのせいで余計仕事がいっきな押し寄せて、俺の方まで皺寄せかくるんだから参ったものだぜ。……まあお前の兄の方がもっと気苦労も多そうだがな」
「フィリス兄様、ですか。たしかに今は殿下の付き添いで隣国に赴いていると耳にしていましたけど……」
「側近の奴らは今頃大慌てに違いねぇ。なにせ隣国の姫が嫁いで来るんだ。用意しなければならないこと、やらないといけない課題は数え切れないくらいあるだろうし。人手も物も何もかもが足りないはずだ」
そんなことになっていたのかと、政治はからきしなヘドヴィカは曖昧に頷くことしか出来なかった。
「送られてきた手紙にはもう数日で帰国する予定だと書かれていたから、きっと俺たちが旅行から戻ったらお前の兄も王都に戻っているはずだ。そうしたら挨拶でもしてこればいい」
「……! はい、そうさせていただきます!」
王都で暮らしていた兄と領地の屋敷に引きこもっていたヘドヴィカはここ数年、ほとんど顔を合わせることができていなかった。
手紙のやり取りは欠かさなかったが、兄の忙しさは手紙の文面からも目に余るほどだ。
ヘドヴィカが王都にやってきたことで、常時多忙を極める兄と会える機会が増えることがなにより嬉しかった。
(男性不信の中、兄様は私のことをたくさん気遣ってくれた。きっと皇太子殿下の元で今働いているのも、領地にいる私に気を遣って距離を置いてくれていたのよね)
本来ならば父より後継としての領地経営を学び、バリーク領にいるはずだった。けれど領地経営に関してたった2年で全てを吸収し、王都に旅立ってしまった。優秀な兄のことだから問題はないだろうが、自分のことを思ってそうしてくれたのならば申し訳ないと思っている。
そんな妹思いで優秀な兄のことをヘドヴィカは心の底から敬愛していた。
ヘドヴィカは喜色満面にあふれた様子で微笑みを浮かべた。その姿をみたボジェクは囁くように言葉をこぼした。
「……かわいいな」
突如放たれた言葉はヘドヴィカを固まらせるのに充分だった。
(……い、いま、私に向かって言ったの? この人が、かわいいって?)
探るように視線を向ければ、彼は「……あ」と硬直する。まるで思いもよらず失言してしまったとばかりに口元を抑え、狼狽えていた。彼の動揺している姿に余計混乱してしまう。
ボジェクの様子から演技でもない本心からの言葉なのだと理解し、どう反応すればいいのか分からなかった。
(家族以外にかわいいなんて言われた経験ないのよ……こういう時は──)
ない知恵を絞り、無理やり言葉を探す。
「あ、ありがとうございます!」
とりあえず例を告げた。
明らかに平生とは違った声の大きさにボジェクは目を丸くした。視線がかち合い、見つめ合う。
かっと体温が上がり、己が赤面していることを自覚した。
それは彼も同じで、顔を朱に染めて幾度も瞬きを繰り返す姿は目に見えて混乱しているように見える。
心のさざなみを落ち着かせようとと、ヘドヴィカは笑顔を貼り付けた。話題を変えようとして思い浮かんだのは今日起きたことで──。
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