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ヘドヴィカの提案3
「そ、そう言えば今日、偶然アダム様にあったんです」
ボジェクがぴくりと肩を揺らし、一瞬にして顔を曇らせた。未だ動揺の最中にいるヘドヴィカはそれに気が付かない。
「アダム?」
ボジェクの聞き返しに頷く。
そこでようやく彼の声が一段と低くなったことを察した。けれど途中で話を止めるわけにもいかず、おずおずと言葉を紡いだ。
「え、ええ。湖でぼんやりしていたら、突然やってきてびっくりしました。アダム様も私と同じくらい驚いていましたよ」
ボジェクは黙り込む。
ヘドヴィカはそれでも続けた。
「そこで旦那様の話題になって……」
「俺の?」
訝しげに問われれば、ヘドヴィカはこくこくと首を振って肯定した。
「10年前、私がその……倒れたあの日から何度も私の元を訪ねてきてくれていたって」
彼はその言葉を耳にした瞬間、ぎこちない様子で顔を逸らした。まるでバレてしまったと言わんばかりの仕草にアダムの口にした言葉は間違いなかったのだと理解した。
「私、その話全然知らなくて……」
「そりゃそうだろ。……ったく、アダムのやつなんで余計なことを──」
「私が王都から領地に引っ越した後も、わざわざ訪ねてきていたっていうことも聞きました」
ボジェクは居心地の悪そうな様子で鼻を鳴らした。
「そんなのお前が知らなくていい話だ。……あの日からぱったり茶会に来なくなって、多分、おそらくだけど俺の言葉が原因なんだろうなって薄々感じたんだ。どうすればいいのか分からねえってなったときに、アダムがお前の屋敷を訪ねるって言ってたから着いて行っただけで──」
「引っ越したあと、アダム様は訪ねるのをやめたらしいですが、旦那様は一人でも来て……その、落ち込んでたって」
「ほんとあいつはいらないことばっか言うな!」
不機嫌な口調ではあるがどこか弱気な姿にみえた。それゆえか全く怖くない。
視線が落ち着かない彼をみて、ヘドヴィカは一歩踏み出す決意を固めた。
「──その……話は変わるんですが。今日、一緒に寝ませんか?」
「………………は?」
突拍子の無い提案を聞いたとばかりにボジェクは口をあんぐりと開けた。
(口付けまで終えたんだから、次のステップは同衾になるわよね。今ならきっと出来るはずよ)
彼の知らない顔を見ることが嫌ではなく、むしろ新たな一面を見ることが楽しくなってきていた。憎たらしい男だけれど、過去の話を知って何かが変わり始めている。
同衾することで何が変わるというわけではないかもしれないが、今の気持ちならばきっと大丈夫だろう。
ボジェクはようやく言葉を飲み込んだかと思えば、慌てたように早口になった。
「おっ、おまえ、自分が何を言ってるかわかって──」
「もちろんです。もちろん旦那様が嫌ならば無理強いはしませんが……」
「そんなわけない!」
あまりの勢いに今度はヘドヴィカの方が呆気に取られ、腰を抜かしそうになった。
(こ、声が大きくてびっくりしたわ。女性の方から言うって言うのははしたないかもって思ったけれど……)
意外とそんなことはないのかもしれないと、胸を撫で下ろす。
ボジェクは己の勢いを恥じたのか、こほんと小さく咳払いをした。誤魔化したようにしか見えず、少し面白い。
「お、お前の提案をのむ! まだ入浴を終えていないから、終わったら寝室に向かわせてもらうから! その……俺の部屋の寝具は二人用だから、そこで構わないか?」
「ええ」
「わ、わかった。それならばこれからすぐ! 入浴して向かうから……待ってろ!」
ばたばたと小走りでかけていくボジェクの後ろ姿はどこか滑稽にも見えて、同時に愛らしさも感じる。
(なんか、やんちゃで不器用な子供と接しているみたいね)
その場で苦笑し、ボジェクの寝室へと向かう。
その心はいつにも増して晴れやかだった。
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